

「神宮球場は老朽化したから取り壊し・建て替えもやむを得ない」という声があります。しかしそれは本当でしょうか。実際には、神宮球場よりも前に建築されながら、改修により大切に使い続けられている建造物は数多くあります。神宮球場よりひと足先に、来年100周年を迎え、次の100年に向けた取り組みを進めている西の野球の聖地・阪神甲子園球場もそのひとつです。
「21世紀の大改修」で生まれ変わった甲子園球場
甲子園球場は、神宮球場より2年前の1924年に開設され、阪神淡路大震災(1995年)も乗り越えて使い続けられてきた西の野球の聖地です。2007年から2010年にかけて、シーズンオフに行われた改修により、他球場に比べて見劣りが指摘されていた施設・設備は全面的にリニューアルされました。
歴史と伝統を継承しつつ、安全性・快適性を向上した全面リニューアル
この改修では、歴史と伝統の継承をテーマに掲げ、球場のシンボルである銀傘、外壁を覆う緑のツタ、スコアボード、天然芝と黒土のグラウンドを活かしながら、耐震補強を実施しています。客席・設備を全面的に入れ替えて、観客席の拡幅、通路の増設、食堂・売店・授乳室の新増設など、来場者の快適性の向上を実現しています。また、銀傘に降る雨水や太陽光発電の利用により、環境負荷への低減もはかられたほか、バリアフリーにも配慮されています。
また、リニューアル完了にあわせて、自分の名前を刻印したレンガが外周床面に敷き詰められるなど、ファンとの絆を重視するさまざまな工夫もなされています。
こうした改修事例は、甲子園同様100年近い歴史を有する神宮球場の未来を考える上で、大いに参考にできるものです。
大改修を成功させた高い技術と明確なコンセプト
改修を実施した大林組は、適切な維持保全や優れた改修を実施した建築物に与えられるBELCA賞(ロングライフ部門)、人間サイズのまちづくり賞(兵庫県)など数々の賞を受賞しました。こうした高い建築技術は、神宮球場の改修にも活用できるに違いありません。
また、技術だけではなく、甲子園リニューアル計画策定にあたって、事前にコンセプトが明確に確立されていたことも参考にすべき重要なポイントです。具体的には、(1)歴史と伝統の継承、(2)安全性の維持向上、(3)快適性の確保、(4)その他環境への配慮やスタジアムビジネスの拡充、の4点が掲げられています。
商業優先の取り壊し・改悪となる建て替え計画ではなく、改修による継続使用を
一方、神宮外苑再開発計画では、新球場は複数の超高層ビルに囲まれ、観客席の一部がホテル棟となることだけが明確に決まっており、商業施設優先=取り壊しありきの内容です。このまま計画が進められれば、ビル風や日影、観客席の圧迫等、選手たちのプレー環境・観戦環境が悪化することは目に見えています。
評価の高い改修事例があるにもかかわらず、改修の検討すら行われていないのは大きな問題です。甲子園にできて、神宮にできない理由はないはずです。神宮球場の歴史と伝統を継承し、神宮外苑の環境と調和をはかるには、イチョウ並木を脅かす移転ではなく、既存の場所で大改修して快適性を確保すべき、そしてそれは可能なはずです。
参考リンク:
阪神甲子園球場リニューアル計画基本構想 https://www.hanshin.co.jp/company/press/pdf/20051107.pdf
阪神甲子園球場が第21回BELCA賞を受賞 https://www.obayashi.co.jp/news/detail/news_20120601_1.html
阪神甲子園球場100周年記念サイト https://www.hanshin.co.jp/koshien/100th/