去る1月25日に「神宮球場の移転・改悪に反対する、識者と市民の共同会見」が開催されました。登壇したのは、当署名活動の発起人であるロバート・ホワイティング氏、「神宮球場に心を寄せる市民の会」代表、賛同人のマーティ・キーナート氏、そして斎藤幸平氏です。
斎藤氏は45万部超えのベストセラー『人新世の「資本論」』で知られる経済思想家です。今日は、この会見での斎藤氏の発言要旨をお届けします。氏の発言は「(本来、神宮外苑を守るべき)右翼が何もしないので、左翼がやってきました」というジョークから始まりました。
【東京大学准教授・斎藤幸平氏 発言要旨】
東京大学の斎藤幸平です。私は、小学校の頃からサッカーをやっていて、国立競技場だけでなく、神宮球場にもよく行った思い出があります。そのような思い出あるエリアが、この計画によって様変わりしてしまうことに、悲しい気持ちを持っています。
けれども今日、私がここに参加しているのは、単にそうしたノスタルジックな話をするためではありません。むしろ、この一連の開発計画が、「強欲資本主義」の暴走によって特徴付けられており、気候危機の時代に東京が進むべき開発の道ではないと、都民として考えているからです。
「強いものが勝つ」でいいのか?―― 強者と自己責任の論理が支配する外苑再開発
私自身がこの問題に関わりを持ち始めたのは、国立競技場の建設で解体されることになった霞が丘アパートに住んでいて、強制退去にあった菊池浩司さんのお話を伺った時です。菊池さんは柔道をなさっていた方なのですが、印象的だったのが、「五輪は勝負の世界だ。自分は弱い人間だから、こうなってしまってもしょうがない」という言葉でした。「強いものが勝つ」、そして「それでいいんだ」というのですね。そんな強者と自己責任の論理で、退去を正当化させる五輪を恨んだのが二年ほど前のことです。
その後、五輪は贈賄や使途不明金などさまざまな問題がニュースになっています。そして、今回の外苑再開発問題です。アメリカの社会学者ジュールズ・ボイコフ(※脚注)は、ビッグ・イベントに紛れて行われる、資本に有利な利権獲得や規制緩和のあり方を、「祝賀資本主義」と呼んで批判していますが、今回の一連の開発はその最たる例ではないでしょうか。
利潤のために犠牲になる球場と100年の森
ご存知の通り、今日本の資本主義は行き詰まり低成長が続いている。イノベーションも起きない日本で、既得権益層がもっとも容易に利潤を獲得するための方法が、「収奪による蓄積」、つまり、私たちの公共の富である、「コモン」を破壊して、金儲けのための道具に変えてしまうことです。
多くの人が散策する銀杏並木も、都民が利用している公営住宅やスポーツ施設も、伝統ある秩父宮や神宮も、高さ規制のある建物もすべて、そのままでは利潤を産まない。銀杏を切って、使えるスタジアムを壊して、高級会員スポーツクラブや新しい商業施設や高層ビルを作ることが、もっとも手っ取り早く金儲けをする方法なのです。
けれども、そういう開発によって失われるものは、はたして何でしょうか。
神宮外苑は、日本資本主義の父とされる渋沢栄一らが中心となったプロジェクトで、「明治神宮奉賛会」が市民や企業から寄付を募り、10万本の木を植え、首都にふさわしい自然な「森」を100年かけて造ることを目指した。それに多くの人が賛同し、このプロジェクトは実際100年経って、成功したわけです。
にもかかわらず、それが完成した暁に壊そうというのが今回の再開発です。
環境破壊を正当化する「スポーツ・ウォッシング」
けれども、高層ビルなんて東京にはどこにでもある、むしろ多すぎるわけです。誰もがアクセスできる「コモン」としての貴重な「森」が完成した時に、一時的な金儲けのために破壊するのは愚行ではないでしょうか。
渋谷の再開発のように似たような商業施設やオフィスビルを増やすだけしか脳のない資本主義は、東京の魅力を低減するだけです。今日は外国の方が多く登壇していますが、これは外から見たときに、いかに神宮外苑が魅力的なのかを示している。それを壊そうとして、インバウンド、クールジャパンなどといっているのが、虚しいわけです。
結局、大企業の利益、利潤を優先した開発というのは、社会のウェルビーイングや持続可能性を守ることには繋がらない。そういう認識が、欧米では共通の認識となっていて、ニューヨークやパリ、バルセロナなどでは、むしろ緑や公園を増やす方向に転換しているのに、東京はそれに逆行しているわけです。
その際にスポーツのクリーンなイメージを利用して、資本主義が私たちの「コモン」を壊し、地球環境を破壊するのは、これは「スポーツ・ウォッシング」に他なりません。私はこの場を通じて、そのような「スポーツ・ウォッシング」に対して、スポーツ界の当事者たちがもっと声を上げてくれることを強く要請したいと思います。
神宮外苑再開発は、日本全国で進む「コモン」収奪の象徴
さて、この問題を資本主義の問題として捉えることで、この問題は決して、神宮外苑だけに関係する問題ではないということに気がついていただけるのではないでしょうか。
京都の府立植物園に商業施設とアリーナ、横浜・上瀬谷の花博招致、つくば・洞峰公園での有料グランピング施設とビール工場の建設計画……。こうした公共空間の無理な開発が全国で広がっています。
また最近の東京新聞の報道によれば、こうした公園指定の解除を可能にする都の「公園まちづくり制度」というのが、青山公園や、芝公園にも適用される可能性があるということです。
日本全国で、結局、この停滞した資本主義でなんとか経済成長しようという、そうした短期的な利益のためだけに、様々な「コモン」が収奪されていくような未来は、もうそこまでやってきています。
そういう意味で、今回の神宮外苑再開発というのは非常に象徴的なものです。この流れをここで止めて、この気候危機の時代、そして低成長の時代に、どのようにして魅力的なまちづくりを次世代のために残していくかということを、私たち市民が、行政とともに、そして企業も巻き込むような形で議論していく必要があるのではないでしょうか。
そのような議論なしに、今回のような形で再開発計画が強行されようとしていることに強い抗議の意を示して、私の話を終わりたいと思います。
※脚注 ジュールズ・ボイコフ : 『オリンピック 反対する側の論理 東京・パリ・ロスをつなぐ世界の反対運動』著者。1970年生まれ。米国パシフィック大学政治学教授。元プロサッカー選手であり、バルセロナ五輪の米国代表メンバーとしてブラジル戦やソ連戦などの国際試合に出場。

