

パリの国際イコモス本部からヘリテージ・アラートが発出された昨年9月、東京都(整備局および環境局)は事業者に対し、ラグビー場用地の既存樹木伐採の前に、樹木の保全の見直し案を示すよう要請を行いました。
このため、予定されていた伐採は一時的に保留となっていました。
当初は昨年内に提出するとしていたのが、年を越して毎月のように延期され、ちょうど1年後にあたる今日、事業者から見直し案が発表されました。
先行して報道があった通り、ラグビー場や絵画館前広場の施設計画を一部縮小、変更することにより、予定されていた743本の伐採木を124本減らす案、また野球場については、西側イチョウ並木からこれまでより約10メートル広げてセットバックする方針が発表されました。
予想されたことですが、1年かけて樹木の活力度調査、イチョウの根系調査を行い検討した結果、変更されたのは軽微な変更による調整に過ぎず、高層ビルと大規模施設の建て替えありきの計画、そのために貴重な樹木や環境が犠牲になるという再開発の構図は何も変わっていません。
今回削減するという124本の内訳は、伐採から保存66本と移植16本に振り替えるという計82本。驚くことに、残りの42本は「既に枯れている」という理由によるもので、何ら保全の工夫をした結果ではありません。
2年前の8月にも、樹木伐採の批判を受けて、伐採木のうち「今後立ち枯れが予測される311本」を保存と移植に振り替えるなどして「伐採木4割減」という数字合わせをしましたが、今回の42本は、その分をまたあらたにカウントして、伐採木から処分木に振り替えただけではないか?
当時もメディア各社から一斉に「樹木の伐採4割減」という、あたかも多くの樹木が救済されたかのような報道が出て、世論に対して事業者に有利な印象を与えることになりました。今回も同じように世論誘導の効果を狙っているように思います。
私たちは伐採から「安易に移植に振り替えること」が樹木の保全になるとは考えていません。少なくとも移植で保全するというのなら、具体的で実現可能な移植計画を示すべきです。現状示されている移植計画についてかなりの疑問を持ちます。伐採から振り替えることにより、増え続ける移植木の数に対して、移植先として予定されている場所(絵画館前広場、御観兵榎周辺や絵画館周辺)では到底足りず、すでに移植計画は破綻していると思われます。国立競技場の移植木の衰退の実態から見ても、移植が保全になるという確実性は担保されていないのです。いずれにしろ、単に伐採本数を減らせばいいというわけではありません。
問われているのは数ではなく「樹木の保全の質」です。ことに歴史的樹木は植えられた場所にそのまま残し、生態系、景観ごと大切に保存されるべきです。高層ビルや大規模施設の建設の犠牲にしてはならない、と改めて思います。
西側イチョウ並木のすぐ横に建てられる予定の野球場について、変更前の8メートルからさらに約10メートル離す方針が発表されました。
大幅な改善策のように演出されていますが、野球場の配置や具体的な設計案は全く示されず、その実現性についての回答はありません。10メートルもセットバックできる空間の余地がどこにあるのでしょうか。
このような具体的な説明に欠けた提案だけで、計画を強引に進めようとするのは、これまでと変わりがありません。
依然として港区道の18本のイチョウ並木は、非現実的な「移植検討」のままであり、その保全については何も触れられていません。神宮外苑のイチョウ並木とは、4列と2列を合わせた146本が兄弟木としてセットになっています。
ラグビー場も野球場も現地改修の計画に見直せば、多くの樹木も環境も守ることができ、CO2排出や廃棄物も減り、歴史的な施設も保存できます。
これまでの環境アセスのプロセスでは、審議会が示した懸念は決着しないまま、東京都は手続きを急いで審議終了となり、環境アセスとして適正に機能しませんでした。環境アセスメントの世界的な学会「国際影響評価学会(IAIA)」、日弁連、そしてICOMOSからも、公式声明により非難されるという、恥ずべき事態を招きました。今後、この見直し案は事後調査報告として環境アセス審議会で審議されることになりますが、今度こそ、事業者の意向に配慮することなく、中立の立場で提出資料を精査・検証し、環境への影響を正しく判断し、厳正に審議されることを強く要望します。