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2023年1月26日、高松地方裁判所において、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下、ゲーム条例)住民訴訟の第一審の判決が言い渡されました。私は、当事者として、法廷でその判決内容を聞きました。
この模様は、香川県・岡山県ローカル局のKSB(瀬戸内海放送、テレビ朝日系)、そして、NHK高松が、この時事をニュース映像として報じました。この時事を報じたKSBのニュース映像は こちら からご覧いただけます。
その翌日の1月27日、香川県においては、毎日新聞、朝日新聞、地元紙の四国新聞にて、この時事が記事化されました。四国新聞(デジタル配信版、要有料会員登録)の記事は こちら からご覧いただけます。
- ゲーム条例住民訴訟(第一審)の判決文は、こちら からご覧いただけます。
注意:判決文を閲覧するICT機器にて、PDF文書の読み込みができるアプリが導入されていることの確認をお願いいたします。
[ 判決文を読んでの所感 ]
ゲーム条例住民訴訟(第一審)の判決文ですが、訴訟の当事者である本レポート執筆者は原本の複写を持っています。判決が確定後、内容をある程度把握したうえで、その所感を記者会見で述べる必要があったからです。下記に示す3つの理由から、「肝心な争点から逃げている、内容が薄い判決内容」の印象を受けました。
1.ゲーム条例が違憲であるかの判断、および、判断をした理由が明記されていないが?
KSB社の報道で取材にあたった記者や、原告の1人である松崎氏が述べたように、今回の判決では「今回の判決は、ゲーム条例が憲法違反かどうかについては踏み込んでいない」内容でした。
前回のレポート にもあるように、住民訴訟は、昨年判決が確定した国賠訴訟において原告側が訴求していた内容を継承しています。このため、本訴訟は、同条例の違憲性を問う訴訟でもあるのです。
「憲法違反のゲーム条例に弁護士費用を支出するのは違法」と原告側が訴えているのですから、訴えに応じて答える側は、まず、この条例が憲法違反であるか否かを判断したうえで、その理由を説明する必要があります。
しかし、判決文ではそれがありません。ゆえに、「地裁側が回答することから逃げた*1」と原告側が納得しない旨の感想を持っても致し方ない対処をしているといえます。
この関係もあり、本条例最大の問題点とされる18条2項についても、判決文では、その違憲性を含め、当然、触れていません。ただし、この条項に関しては、国賠訴訟で、同条項に記載された時間制限はゲーム行動症対策と関係がないことを裁判所側が示唆しています。住民訴訟の原告は、この点を気にしています。
2.国賠訴訟で香川県が弁護士費用として投入した金額と、契約した弁護士の人数は本当に妥当か?
判決文では、以下の理由を挙げて「妥当」と判断しています。
(判決文の内容を少し意訳しています)
-国賠訴訟では、ゲーム行動症の疾病該当性を含めて科学的根拠を有し、立法事実に支えられた立法であって、立法手段とも関連性を有し、憲法適合性それ自体という重要なものであることに加え、国賠訴訟における争点が多くあったうえ、条例制定過程にはパブリックコメントや香川県弁護士会会長声明といった経過があって相応の対応を要すること、かつ、上記の科学的根拠についても専門的な見地からの検討を要することになるため、香川県は、上記に観点から行政訴訟、医学、憲法といった各分野で、これらの主張を適切に分担して対応する必要があると判断した。その理由から、弁護士3人と契約したことは当時の県知事の裁量の範囲内である。
また、訴訟内容が多岐にわたることから、国賠訴訟の経済的利益の額を「算出不可能」として、香川県は、報酬基準等に基づき、原告側が求めた請求額(160万円)を上回った額面(800万円)と着手金を定めたが、この額面は、前述の理由により違法ということはできない-
さて、KSB社は、国賠訴訟の弁護士費用の仔細について、香川県に情報開示請求を行いました。伝手があり、その開示された内容の概要版を、住民訴訟の原告側は所持しています。
その資料を見ると、私たち5人の香川県民が住民訴訟を起こした後は、香川県側が契約した弁護士の交通費が圧縮されていることがわかります。ただ、国賠訴訟の判決を受けて、その被告側が香川県側に支払った額面はすでに明らかになっており、報道でもそれは具体的な値で示されています。そのことから、住民訴訟の原告側は、前述の「交通費に関する事象」で住民監査請求や新しい住民訴訟を提起する予定は、現時点ではありません。
なお、国賠訴訟の判決を受けて、その被告側は、法の定めた手続きに則り、被告である香川県から請求された額面は支払い済みです。
3.合憲なら、いびつな過程を経て制定されたいびつな内容の法令でも存在を許していいのか
これは、原告側の1人が「一市民としての個人的な感想」として記者会見で述べていたことです。住民訴訟の判決文において「ゲーム条例は違憲とは言えない」の文言がやはり目立っていたことを受けてのコメントですが、その背景には、いびつな過程をもって扱われたパブリックコメントがあります。
既報の通り、同条例のパブリックコメントは、公募の条件から始まりその結果の公表の仕方、挙句の果てに、本来すべての県議会議員に閲覧されなければならないその内容を、当時の県議会議長、大山一郎氏が、権限を用いて実質的に閲覧禁止にするなど、扱い方そのものがいびつでした。およそ、それらは、議会制民主主義を採用した日本国で行われるものとはかけ離れていました。
加えて、パブリックコメントの内容は重視されることなく本条例が制定されています*2。
「そのようないびつな過程を経て制定された法令なので、内容もそれを受けていびつなもの。それなのに、合憲と裁判所が判断すれば、そのいびつさは“なかったこと”にされてしまうの?」
と疑問に思うのは、県税を払っている大人の一香川県民として当然のことと感じます。
もちろん、この方が住民訴訟に参加するほど同条例に反対している理由は、それだけではありません。詳細は伏せますが、ある理由がもとで、同条例18条2項の内容はあまりにも乱暴かつ粗雑であることを認識しているからです。
[ 個人的な感想 ]
私としては、国賠訴訟で香川県側が証拠の裏付けとして採用した各種の資料、特に、ゲーム行動症関連のものに対して、正確な科学的根拠に基づいたものであるか否かの精査が行われているかどうかについて疑問が残っています。少なくとも、2022年2月に更新されたICD-11(国際疾病分類および関連健康問題 第11版)の「Gaming Disorder」の内容は、精査の対象に入っていないと推察しています。そのことから「更新されたGaming Disorderの内容と、ゲーム条例に言うネット・ゲーム依存症の定義とを突合して整合性が取れているのかについては、追及の対象として扱ってもよいのでは」と個人的には考えています。ゲーム条例の制定の背景には、2019年5月に報じられた、ゲーム行動症がICD-11に収載される決定がされた時事があるからです。
[ これで法廷闘争は“エンドゲーム”ですか? ]
いいえ。同条例に関する法廷闘争は継続されます。
住民訴訟のほうでは「最終的には最高裁判所まで争い、その判断を仰ぐ」ことができます(原告側弁護士、作花氏のコメントより)。
裁判所側は、同条例の違憲性に関して「違憲ではないとは言えない」と定まっていない見解を述べています。実際、前述のとおり、同条例18条2項について同条項に記載されたICT機器の使用時間及び時間帯の制限は、ゲーム行動症対策と関係がないことを裁判所側が示唆しています。
それらを踏まえ、同条例の違憲性に関して明確な説明を求めたいことから、住民訴訟の原告側は控訴を行います。
少なくとも、法廷闘争が行われている間は、ゲーム条例およびそれに類似した、国内各地の地方自治体で策定や検討が始まっている、正確な医学的根拠のないビデオゲーム含めた個人利用のICT機器に対する行政機関の使用制限を掲げる法令、また、それに準拠した啓発や施策において、看破できない問題点があることが、報道を通じて世論に認識されることもあります。ゲーム条例の内容に似た法令や規制が行われる行政管轄地域を、香川県以外に増やしてはならないからです。それは、以下の理由があります。
- ICT教育の世界標準で日本国政府も採用を促進する「デジタルシティズンシップ教育」を、教育行政が実質的に導入しない流れを防ぐことにつながる
- 誤った認識のもと独り歩きしている「ゲーム依存」対策の名の下に考案された、技術標準及び正確な医学的根拠に則らないデタラメなICT機器の使い方を、子どもたちやその保護者に啓発する流れを防ぐことにつながる
- ゲーム行動症に関する正しい医療的アプローチや私たちの認識が誤った方向で進むことの抑止につながる
ICTエンジニアの立場からは、上記の「流れ」を防ぎつつ、同時に、真に健康的なICT機器の使い方を啓発・普及させることが、誰もが望む「ゲーム依存」対策の1つと捉えています。
[ さいごに:本当に、何も終わっていない ]
香川県議会議員、秋山時貞氏がTwitterで投稿しているように、「ゲーム条例が違憲ではないこと」は、これが「必要で素晴らしい法令である」ことを意味するものではありません。実際、国賠訴訟の判決が確定した後も、ゲーム条例の問題点は何も解決していません。
ミクロレベルでいえば、香川県内では、同条例の悪影響がすでに出始めています。例えば、GIGAスクール端末を家に持ち帰れるかを児童生徒に尋ねられた教師が「キミがネット依存やゲーム依存になるかもしれないからそれはまだできない」と答えていたり、ICT業界への就職を希望する学生が就職先を選ぶ際、香川県を選択肢から外す傾向が出ていたりします。この2つは根も葉もない噂ではなく、実際に香川県内の市議会議員に報告された内容であり、ICT業界で働く香川県在住者が話していたことです。これらの事例のように、膿が出るかの如く各所で悪影響が出てくることは十分予想されます。
国賠訴訟の判決が確定したその瞬間から、名実ともに、ゲーム条例に関する問題は、香川県限定の問題ではなくなっています。国賠訴訟の判決結果を受け、お住まいの地域の行政府や議会で、ゲーム条例と同様の規制が検討され始める、あるいは、実行される可能性が飛躍的に高まったからです。このことから、ぜひ、機会を設けて、ご家族や知人らとゲーム条例の問題点について話し合うことをお勧めいたします。
もし、可能であれば、本キャンペーンにおける署名への協力を依頼していただければ幸いです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
主催者 きしもと みつひろ
[ 参考資料、引用元 ]
*1 香川県ゲーム条例の裁判情報(@hidemitusi) 氏のTweetより
(https://twitter.com/hidemitusi/status/1618644569620643841
*2 KSBニュース「香川県ゲーム条例 検討委員務めた県議会の新副議長『パブリックコメントの意見は重視していなかった』」

