

キャンペーンに賛同いただきました皆様へ
お世話になっております。
2022年10月24日、高松地方裁判所において、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下、ゲーム条例)住民訴訟の第6回審理以下、本審理)が執り行われ、当事者として参加しました。本審理をもって、住民訴訟のほうもひとまず結審となります。
さて、この文書の推敲中、ゲーム条例違憲訴訟(以下、違憲訴訟)の判決内容が正式に確定した報道がありましたので、まずはそちらからお伝えいたします。この時事を報じたKSBのニュース映像は こちら からご覧いただけます。
結果から申し上げますと、2022年8月に高松地方裁判所が下した判決内容「ゲーム条例の内容に違憲性はない」で、違憲訴訟の結果が正式に確定しました。この判決内容に関するレポートは こちら からご覧いただけます。
ゲーム条例違憲訴訟(第一審)の判決文は、こちら から入手、閲覧いただけます。
注意:判決文を閲覧するICT機器にて、PDF文書の読み込みができるアプリが導入されていることの確認をお願いいたします。
[ 本審理で質していること ]
本審理では、被告の香川県は、違憲訴訟の判決文を準備書面の添付資料として用いています。これは、ゲーム条例住民訴訟でも、ゲーム条例の違憲性が争点になることを意味しています。本審理では、判決文の内容を受けて、原告が訴えている「違憲訴訟にあてた県税は無駄遣いである」を別の視点から訴求する形になっています。簡単に書くと、ゲーム条例住民訴訟は、違憲訴訟で原告が問うた内容を引き継いだうえで、その違憲訴訟に投じられた県税の金額が適切であるか否かを問う訴訟になったのです。
違憲訴訟の判決文を読んだうえで、原告側は、今回の審理にあたって提出した準備書面において「違憲訴訟にあてた県税は無駄遣いである」ことを論じるため、日本国憲法32条と、地方財政法4条1項を用いています。
日本国憲法32条は「裁判を受ける権利」について規定しています。
裁判を受ける権利は、日本国民として住む“人”すべてに保証されている基本的人権の1つです。しかし、この条項に言う「人」には例外が存在します。それは、公法人です。
判決文の中で、被告である香川県は「裁判を受ける権利がある」としていますが、原則として、公法人は基本的人権を有しません。ただし、この「公法人」にも、実は例外が存在します。例外の対象になる公法人とは、政府との関係で組織運営に高い自律性が求められる公法人です。具体的には、NHKや国立大学が当てはまります。このことは、大学の講義で用いられるレベルの法学の解説書に明記されています。
香川県は、地方公共団体であるため、前述した「裁判を受ける権利を有する公法人の条件」が適用できません。これは、香川県には、公法人として裁判を受ける権利が保障されていないことを意味します。
また、違憲訴訟の判決は「ゲーム条例は県民の権利を制限するものではなく、単なる努力義務を記載しているので違憲とは言えない(要するに、単なるガイドライン)」なのですが、訴訟の結果がそれならば、わざわざ香川県外在住の弁護士を3人も契約して臨む訴訟ではないはずです。
実際、ゲーム条例違憲訴訟の場合、実務面における違憲訴訟の裁判手続きは、担当部署の職員だけでも可能です。違憲訴訟の係争中、一時的にTwitterなどで噂に上った「香川県は、ビデオゲームのプレイを幸福追求権とみなしていない*1」は、県職員に反論文の編成を(ある程度)任せていたことを推測させるものです。このことから、個人的には、実務面では、香川県は、違憲訴訟のために弁護士を契約するにしても、1人で十分だったと思います。
ここで、地方財政法4条1項に抵触する可能性が出てきます。
地方財政法4条1項では、地方自治体の予算の執行について規定しています。簡単に書くと「地方自治体がその事業の遂行で費消する経費は、必要最小限でなければならない」と法で定めたものです。
もし、ゲーム条例違憲訴訟において、実務面における香川県側の裁判手続きが担当部署の職員だけでも遂行可能だったのならば、結果として、香川県は、費用(県税)を過剰に投入していたと推測できます。
以上の内容を踏まえて、原告側は「裁判を受ける権利を有しないにもかかわらず、“単なるガイドライン”を法的に擁護するためだけに、県外在住の弁護士3人と契約して違憲訴訟に臨んだ香川県は、訴訟費用としての県税を過剰に投入した疑いがある」とロジックを組み立て、準備書面に落とし込んでいます。
[ ゲーム条例の法廷闘争は「終わっていません」 ]
違憲訴訟では、高松地方裁判所で行われた第一審判決の内容で判決内容が確定しましたが、住民訴訟のほうでは「最終的には最高裁判所まで争い、その判断を仰ぐ (作花弁護士)」ことができます。
翻って、メディアの報道では「判例が出された形になったので、ゲーム条例に関する法廷闘争は終わった」旨の論旨が目立ちますが、実際はそうではありません。住民訴訟が続く限り「法廷闘争は続きます」し、ゲーム条例に起因する具体的な損害や精神的苦痛が原告以外の個人、もしくは、法人に生じている場合は、香川県を相手取って新規に訴訟が提起される可能性があるからです。法学の観点でも、最高裁判所での判断が下されない限り、原則として、ゲーム条例に関する法廷闘争は終わっていません。判例とは「最高裁判所が示した判断の内容」を示すものだからです (ちなみに、地方裁判所や高等裁判所の判断は『裁判例』と呼びます)。
話は変わりますが、「住民訴訟」を担当する裁判官3人のうち1人は、「違憲訴訟」とは別の裁判官です。
このことから、もし、違憲訴訟の判断が3人の裁判官で割れ、被告側支持が2人、原告側支持が1人となり、多数意見を採用した結果があの判決だったならば、住民訴訟でかなり違う判決が出る可能性はあります。しかし、裁判長は両裁判とも同じなので、住民訴訟においても、ゲーム条例に関する司法判断が変わる可能性は低いかもしれません。
ゲーム条例住民訴訟の判決は、2023年1月26日に公表されます。ご都合がよろしければ、ぜひ高松地方裁判所まで訪問いただきたく存じます。
[ さいごに:「影響」はこれから顕在化する可能性がある ]
香川県議会議員、秋山 時貞氏がTwitterで投稿しているように、「ゲーム条例が違憲ではないこと」は、これが「必要で素晴らしい法令である」ことを意味するものではありません*2。実際、ゲーム行動症(ゲーム依存症/ゲーム障害)に関する世の認識を歪め、ゲーム行動症に苛まれる方への正しいアプローチをさせ難くするばかりか、世界のICT教育標準「デジタルシティズンシップ教育」と真逆のICT教育の推進を希求する(ICTへの恐怖心を過剰に抱かせてその使用意欲を縮退させる)、ゲーム条例及びこれに類似した法令・規制の問題点は、何も解決していないのです。
実務上、日本国の小中高校のICT教育で採用が進んでいくことが不可避な「デジタルシティズンシップ教育」の内容と、2022年2月に更新されたICD-11(国際疾病分類および関連健康問題 第11版)において、ゲーム行動症の診断要件が厳格化したことを鑑みると、ゲーム条例及びこれに類似した法令・規制が掲げる「ビデオゲームなど勉学に関係ない個人向けICTサービスの過剰な使用によって生活(サイクルの維持)が困難になる事象をゲーム行動症という」ロジックは、その齟齬や誤りが徐々に明確になると推測できるからです。
実は、前述の「定義」は、ICD-11での説明に則ると、ゲーム行動症のそれではなく、ゲーム行動症と似ているが全くそれと異なる健康上の問題の1つです*3。ゲーム行動症当事者への支援や診療を行うにあたって、ICD-11を完全に無視することはできないでしょう。
一方、デジタルシティズンシップ教育における「メディアバランスの習得」では、ゲーム依存/スマホ依存/ネット依存に類する表現は一切使われません*4。そこでは、ICTサービスの使用で発生する健康上の問題への対策ともに、ICTサービスとの距離感覚を自律的に御すためのノウハウのみが扱われるからです。使用障害(依存症)はICTサービスの使い過ぎとは関係がない事柄*5なので、「メディアバランスの習得」で扱う内容は、あるべき使用障害の啓発とICT教育の観点からいえば正確です。
つまり、医療と教育という、ゲーム条例及びこれに類似した法令・規制の重点適用範囲になっているこの2つの分野での実務で、法令や規則で定めたことが徐々に形骸化していくことが予想されます。勿論、ゲーム条例及びこれに類似した法令・規制を参照した仕事もできますが、それは、悪い意味でのレガシーなロジックに基づき仕事をすることと同義になるので、“お客様”に対して真に価値のある仕事ができないどころか、害悪をもたらす可能性があることを意味します。
それはさておき、違憲訴訟の判決内容が正式に確定したことから、ゲーム条例に関する問題が、香川県限定の問題ではなくなったことも正式に確定しました。これは、お住まいの地域の行政府や議会で、ゲーム条例と同様の規制が検討され始める、あるいは、実行される可能性が飛躍的に高まったことを意味します。このことから、ぜひ、機会を設けて、ご家族や知人らとゲーム条例の問題点について話し合うことをお勧めいたします。もし、可能であれば、本キャンペーンにおける署名への協力を依頼していただければ幸いです。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
主催者 きしもと みつひろ
[ 参考資料、引用元 ]
*1なか2656のblog「幸福追求権は基本的人権ではない-香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた」(https://www.naka2656-b.site/archives/29492066.html
*2 秋山時貞氏のTwitterの投稿より (https://twitter.com/akym_tksd/status/1564631229135491078
*3 World Health Organization『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics #6C51 "Gaming Disorder"』、『ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics #QE22 "Hazardous gaming"』
*4 『デジタル・シティズンシップ・プラス』坂本旬、豊福晋平、今度珠美、林一真、平井聡一郎、芳賀高洋、阿部和広、我妻潤子(大月書店)
*5 井出草平「香川県ネット・ゲーム依存対策条例を考える 講演資料 2020年2月9日版」