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お世話になっております。
2022年8月30日、高松地方裁判所において、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下、ゲーム条例)違憲訴訟の第一審の判決、そして、その2日後、5回目のゲーム条例住民訴訟が執り行われました。前者では判決が下された法廷に立ち会い、後者では当事者として参加しました。
今回は、香川県・岡山県ローカル局のKSB(瀬戸内海放送、テレビ朝日系)、RNC(西日本放送、日本テレビ系)、OHK(岡山放送、フジテレビ系)、RSK (山陽放送、TBS系)、NHK高松が、この時事をニュース映像として報じました。
この時事を報じたKSBのニュース映像は こちら から視聴いただけます。
また、ゲーム条例違憲訴訟の第一審判決が下された翌日の8月31日、香川県においては、地元紙の四国新聞をはじめとする新聞各紙で、この時事が記事化されました。毎日新聞(デジタル配信版)の記事は こちら からご覧いただけます。
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ゲーム条例違憲訴訟(第一審)の判決文は、こちら から入手、閲覧いただけます。
注意:判決文を閲覧するICT機器にて、PDF文書の読み込みができるアプリが導入されていることの確認をお願いいたします。
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[ 報道から何が見えますか? ]
時事を捉える視点は人によって異なります。ですので、各社の報道によって多彩な視点から今回の時事が解説されることは歓迎すべきことです。しかし、感情や偏見が入っていたり、事実と明らかに異なっていることが堂々と記載されていたりすることは、ジャーナリズムの観点からは歓迎できません。今回の時事を扱った報道記事では、一部にその傾向が顕著だったことから、あえて取り上げさせていただきます。
報道記事全体としては、「今回の時事をもって、ゲーム条例そのものもしくはそれに準じた内容の法令は合憲という判例が得られることになった。よって、ゲーム行動症の予防を目的とするビデオゲームの時間規制を法令(や規則)で行うことに関する問題解決は終わった」と結論付け、問題そのものをなかったことにしようとする旨の論調が目立っていました。違憲訴訟の結果を受けた 香川県議会のコメント でも、その意思がありありと見受けられます。
特に個人的に酷いと感じたのは、日本テレビ系の地元TV局、RNC(西日本放送)によるニュース報道でした。判決文には記載があるが訴訟とは関係のない枝葉末節の事柄を扱い、「原告をはじめとするゲーム条例に反対する人は皆これほど愚鈍なのだ」と視聴者に印象付ける内容の報道をしていたからです。これは、客観性が重んじられる報道用コンテンツにはあるまじき編成であり、悪辣さすら感じました。
また、産経新聞における社説 では、ビデオゲーム愛好家そのものを見下すような記載がされていました。この記載は、意識的に煽った文面にした結果そうなったのか、そもそも社説の執筆者が持っているビデオゲームに対する偏見が駆り立てたものなのか、著者の意図は不明です。それらを差し引いても、客観性を著しく欠損している文面である*1ことは、社説が目に入った刹那に感じました。
また、一部の大手新聞では、事実と反する記載がされています。それは、以下の表現です。
「ゲーム行動症がWHO(世界保健機関)によって病気と認定された」
事実を反映した正確な記載は「ゲーム行動症は、病因や死因を分類し、その分類をもとにした統計データを体系的に記録・分析するための資料、ICD-11(アイシーディー・イレブン)に収載された」です。つまり、ゲーム行動症は、少なくとも、2022年9月10日時点では、世界中のどの国でも病気としてみなされていません。報道を生業とするのですから、メディア各社の担当者は、専門用語はきちんと調べて適切に使っていただきたいものです。
そして、判決は「ゲーム条例は違憲ではない」が、正確な表記です。「ゲーム条例は合憲である」ではありません。推察を含みますが、その理由は次で示します。
[ 法学の観点から何が見えますか? ]
日本国における違憲訴訟については、損害賠償を被ったことを示す明確な証拠が求められます。しかし、ゲーム条例違憲訴訟では、ビデオゲームのプレイ時間を規制されたことによる原告側の幸福追求権が受けた損害内容を具体的に示す意見陳述が、原告側からされていません。これが、今回の訴訟で、裁判所が下した判断の内容にかかわっていると推察されます。
さて、日本国の裁判制度では、三審制が採用されています。ご存知と思いますが、これは、判決に不服があれば、上位機関である高等裁判所や最高裁判所に掛け合うことができることが保証されている裁判の制度です。
今回の時事は、高松地方裁判所、つまり、第一審での判断です。
そして、法曹界では、原則として、判例とは「最高裁判所が示した判断の内容」を言います(ちなみに、地方裁判所や高等裁判所の判断は『裁判例』と呼びます)。
これは、ゲーム条例関係の訴訟において、今回の高松地方裁判所での判断は「判例としてみなされない」ことを意味します。換言すれば、原則として、最高裁判所での判断が下されない限り、法学の観点では、ゲーム条例に関する法廷闘争は終わっていないのです。
翻って、報道各社は、「今回の高松地方裁判所での判断が判例になった(錦の御旗が掲げられた)」と読者や視聴者に思わせるような報道をしています。前の段落で「報道各社は、ゲーム行動症の予防を目的とするビデオゲームの時間規制を法令(や規則)で行うことに関する問題をなかったことにしようとしているきらいがある」と書いた理由はそこにあります。
また、今回の裁判で原告側に下された判断は「原告請求棄却」です。私は、判決が下された法廷におり、裁判官が発したその言葉を直に聞いています。「原告敗訴」ではないのです。
- 敗訴 とは、原告の言い分が裁判所側に認められなかったときに、原告に出される判断です。
- 棄却 とは、原告の言い分を裁判所側が吟味したが、何らかの理由によって、原告の訴えが裁判所側で取り扱ってもらえなかった(これ以上裁判を開いても意味がないと裁判所側が判断した)ときに、原告に出される判断です。
実際の判決要旨にも「原告の請求を棄却する」と書かれています。簡単に書くと、今回の裁判は「原告からの訴えを吟味しましたが、それなりの事由があるので、裁判所側としては、原告の訴えは排斥する扱いとします」と、裁判所側から原告に宣告された形です。
ここで、前段落を振り返ります。そこでは「ゲーム条例は違憲ではない、が正確な表記」と書いています。裁判所側は、事由があって、原告側の訴えは吟味した結果「なかったこと」扱いにしています。このため、裁判所側は、ゲーム条例の内容について「合憲である」明記をしなかったものと推察されます。それを示すように、実際の判決文は、ほぼ全ての論点について「相当でないとはいえない」「許されないとはいえない」と、奥歯に物が挟まったかのような表現が並んでいます。
実際、「AはBではない。(A is not B.)」と「AはBではないとはいえない。(It cannot be said that A is not B.)」は、論理的に完全一致しません。
これは、「ゲーム条例は合憲である(A is not B.)」は、事実を反映していない報道内容であることを示します。
しかしながら、判決文では、被告側である香川県の言い分が全面的に採用されています。これは重大なことです。ゲーム条例の違憲性が確定していない状態ではありますが、判決文のこの記載内容が原因で、ゲーム条例や、これに似た概念を掲げてビデオゲームやICT機器の使用時間の規制を行う法令や規則に対して反意を抱いている人にとっては、不利な環境になってしまったことを意味するからです。
[ 被告(香川県)が判決文で提示した“科学的根拠”についてはどうなの? ]
判決文に記載されている被告側の言い分には、参照しているエビデンス(科学的根拠)の内容からして間違っている旨の指摘が外部の専門家からされています*3。しかし、前述の理由から、被告側の言い分にどれだけ科学的根拠が間違っていたり欠損していたりしても、それが是とみなされてしまいます。
そのことを差し引いても、医学的な知見が確立されていないにもかかわらず、偏った専門家の助言をもとに市民を啓発することは危険な行為である、と私は思います。
ちなみに、被告側が採用したエビデンスには、ゲーム条例の策定時に香川県議会が招聘した樋口 進氏(久里浜医療センター所属、名誉院長)や岡田 尊司氏(岡田クリニック所属、院長)のものが散見されるようです。両者とも、ゲーム条例策定工程において香川県議会に供出した資料やロジックに、相当数のフェイク(誤認を誘導させる論旨)やデタラメ(科学的根拠に基づかない論旨)が混じっていることが明らかになっています。こちら にてその検証結果が参照いただけます。
[ ゲーム条例“住民訴訟”との関係性は? ]
ゲーム条例住民訴訟については、引き続き審理が行われます。以前のお知らせ でも記載したように、住民訴訟は、違憲訴訟とは完全に別の訴訟として処理されるからです。
さて、ゲーム条例違憲訴訟の判決文を読んだ住民訴訟の原告側の弁護士、作花氏は
「ゲーム条例の内容は単なる努力義務であり、未成年の権利を侵害するものではない…とするなら、そのような単純な判断をするためだけに、県外から弁護士を3人も招聘した香川県は、彼らに払う報酬など訴訟関連費用としての県税を無駄に多く投入している、と尚更にいえるのではないか」
と、記者からの質問に答えています。地方財政法4条1項にも「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度を超えて、これを支出してはならない」とあります。今回の違憲訴訟でとった香川県の行動は、これに反している可能性があります。この捉え方は、以前のお知らせ でも示した通り、ゲーム条例の違憲性を問題の核としていることを前提としています。
これは、住民訴訟でも、ゲーム条例の違憲性を主張できることを意味します。実際、9月1日の審理が始まる前に、被告側の香川県は、違憲訴訟の判決文そのものを証拠として原告側に提出しています。この行動は、同条例の合憲性を主張することが目的と推察されます。このことからでも、同条例の違憲性については、住民訴訟でも争点となることがわかると思います。
なお、違憲訴訟については、原告側のわたる氏が控訴を決断しないと、高松地方裁判所で行われた第一審判決の内容で判決内容が確定します。もしそうなったとしても、住民訴訟のほうでは「最終的には最高裁判所まで争い、最高裁の判断を仰ぐ (作花弁護士)」ことができます。
話は変わりますが、「住民訴訟」を担当する裁判官3人のうち1人は、「違憲訴訟」とは別の裁判官です。
このことから、もし、違憲訴訟の判断が3人の裁判官で割れ、被告側支持が2人、原告側支持が1人となり、多数意見を採用した結果があの判決だったならば、住民訴訟でかなり違う判決が出る可能性はあります。しかし、裁判長は両裁判とも同じなので、住民訴訟においても、ゲーム条例に関する司法判断が変わる可能性は低いかもしれません。「住民訴訟」が結審される前に、そのことはここで申し上げておきます。
次回の住民訴訟の審理は、10月24日、高松地方裁判所にて行われます。ご都合がよろしければ、ぜひ傍聴いただきたく存じます。
[ さいごに:本当に、何も終わっていない ]
香川県議会議員、秋山 時貞氏がTwitterで投稿しているように、「ゲーム条例が違憲ではないこと」は、これが「必要で素晴らしい法令である」ことを意味するものではありません。実際、ゲーム行動症に関する世の認識を歪め、ゲーム行動症に苛まれる方への正しいアプローチをさせ難くするばかりか、世界のICT教育標準「デジタルシティズンシップ教育」と真逆のICT教育の推進を希求する(ICTへの恐怖心を過剰に抱かせてその使用意欲を縮退させる)、ゲーム条例及びこれに類似した法令や規制の問題点は、何も解決していないのです。
ミクロレベルでいえば、すでに香川県内では、同条例の悪影響が出始めています。例えば、GIGAスクール端末を家に持ち帰れるかを児童生徒に尋ねられた教師が「キミがネット・ゲーム依存症になるかもしれないからそれはまだできない」と答えていたり、IT業界への就職を希望する学生が就職先を選ぶ際、香川県を選択肢から外す傾向が出ていたりします。この2つは根も葉もない噂ではなく、実際に県内の市議会議員に報告された内容であり、IT業界にいる県内の方が話していたことです。これらの事例のように、膿が出るかの如く、各所で悪影響が出てくることは十分予想されます。
法的なものを除けば、ゲーム条例の拡散を抑止するための効果的なアプローチは、実際の運用で出る(であろう)悪影響の内容の把握・分析と、それを反映させた、正確で信頼性の高いエビデンスに基づいた情報の啓発を進めることにあると思います。
今回の違憲訴訟の第一審判決が下されたその瞬間から、名実ともに、ゲーム条例に関する問題は、香川県限定の問題ではなくなりました。今回の違憲訴訟の結果を受け、お住まいの地域の行政府や議会で、ゲーム条例と同様の規制が検討され始める、あるいは、実行される可能性が飛躍的に高まったからです。
このことから、ぜひ、機会を設けて、ご家族や知人らとゲーム条例の問題点について話し合うことをお勧めいたします。もし、可能であれば、本キャンペーンにおける署名への協力を依頼していただければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
主催者 きしもと みつひろ
[ 参考資料、引用元 ]
*1 弁護士もクラウドファンディングで支援していることがわかるので、産経新聞の当該社説の記載は事実と反する。松本常広氏のTwitterの投稿より(https://twitter.com/matsumoto_toki/status/1273970037125046273)
*2 秋山時貞氏のTwitterの投稿より (https://twitter.com/akym_tksd/status/1564631229135491078)
*3 井出草平氏のTwitterの投稿より(https://twitter.com/Sohei_IDE/status/1567944658038439937)(https://twitter.com/Sohei_IDE/status/1567949787273764864)

