
2026年1月28日に第3回口頭弁論を終え、私たちはいま、3月4日の結審を待っています。この原稿を書いている今、皆さんにいただいた署名は8,610。ありがとうございます。10,000の署名まであと少し。
4日の結審までに、あともう少しだけ背中を押していただきたいです。そのためにも、私たちの現在地を口頭弁論レポートとして発信していきます。どうかどうか応援していただけるご友人やご家族などにお声がけ、SNSでの拡散など、ご協力ください。
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この事件の概要
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川崎重工業㈱(以下、川重)で働いていた35歳のエンジニア・清島浩司さんが、中国の合弁会社へ出向し、わずか3カ月後の2013年7月10日に、自宅マンションから飛び降り自死した事件です。
▼ 中国で二社板挟み・二重雇用状態に
清島さんは、妻・綾子さんと1歳と5歳のお子さんを日本に残したまま赴任していました。合弁会社に所属していながらも川重からも業務指示を受け、二重雇用の過重労働であっただけではなく、それぞれの会社の板挟みにあった清島さん。
▼ 労災認定にもかかわらず、川重は過重労働を否定
川重側は、清島さんの中国での仕事は日本での業務の延長で、「過重なものではなかった」と説明しました。しかし、神戸東労働基準監督署は清島さんの業務は過重な業務であったと労災認定しました。遺族が川重へ謝罪と賠償を求めたところ、川重は責任を認めませんでした。
▼ 地裁へ。業務と自死は関係ないとの川重の主張
遺族は2022年5月に神戸地裁へ提訴。川重側は、誤って転落しただけではないか、自死であったとしても業務は過重なものではなく、自死とは関係ないなどと主張しました。2025年1月の一審判決では、自死は認めましたが、他方で業務が過重でなかったとして川重の責任を否定しました。
▼ 控訴中の現在。過重労働の実態が浮き彫りに
現在継続している控訴審では、清島さんが業務で使用していたパソコンに残っていた作業データをあらためて解析しています。清島さんが二重雇用の状態となっており、相矛盾した命令を受け、苦悩していた実態が浮き彫りとなりました。
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第3回口頭弁論レポート
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期日・日付:2026年1月28日
主な争点・議論内容:
①業務の過重性
②転落死か自死か
▼ 弁護団側の主張
①清島さんは川重から機械トラブルの対応について次々と業務を指示され、さらに川重の設計業務も手伝わされるなど、本来出向先でしなければならない設計業務を長期にわたって放置することになり、過重であったことは明らか。
②バルコニーには1.2mの手すりがあり、清島さんのみぞおち付近の高さであった。清島さんの意思を介さずに転落することなどあり得ない。
▼ 川重側の主張
①川重の業務を担ってもらうことは、出向先の業務執行責任者との間で話がついていた。川重の設計業務を担ってはもらったが、正式な担当業務ではなかった。
②バルコニーからの転落死で、誤って転落死した事例も存在する。
▼ 裁判官の対応等
すでに議論が繰り返しになってきたが、弁護団が反論が必要というのであれば、分量も考えながら反論してください。
▼ まとめ:精神を引き裂く、明らかな二重雇用であると認めてほしい
川重は、中国の合弁会社へ清島さんを出向させ、その期間は休職処分としていました。しかし、川重は清島さんへ合弁会社の内部情報の横流しを求めるなど、川重の社員として引き続き雇用を続けました。こうした雇用は二重雇用として禁止されています。
川重は、違法に清島さんに命令を出し続け、その結果、清島さんは精神が引き裂かれてうつ病を発症しました。海外に派遣されての労働は、出向社員と出向元会社とのやり取りが、出向先会社には見えにくく、二重雇用の問題が起きやすくなります。
地裁での判決が覆らなければ、海外派遣において起こる「見えづらい過重労働」が放置され、見過ごされてしまいます。今後もこのような悲しく不条理な労働問題が解決されることなく、繰り返されてしまうのではないでしょうか。どうかご支援ください。
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第3回口頭弁論報告集会
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第3回口頭弁論の傍聴席は満席、さらにその後行なわれた報告集会も約70人が集い、本裁判への高い注目度がうかがわれました。
▼ 原告・験馬綾子スピーチより
本日はお忙しいなか、報告集会にお集まりいただき、ありがとうございます。初めて来てくださった方、何度も足を運んでくださっている方、皆様にこうして関心を寄せていただけること自体が私にとって大きな力になっています。
私は、川崎重工業・中国出向エンジニア過労死事件の遺族として、この裁判に関わってきました。当初は、これはとても個人的な問題だと思っていました。夫を亡くしたのは私の家庭の出来事で、私が耐えて、私が抱えて、私が向き合うしかないものだと思っていました。
振り返ると私は、しんどさを抱えている自覚すらなく、昔話に出てくる「子泣きじじい」という妖怪のように、気づかないうちに、肩に重たい荷物を担いだまま、それが当たり前だと思って生きていたのだと思います。
そんな気持ちが変わるきっかけの一つが、署名活動でした。ともに街頭に立ってくれた支援者の方の、「これは社会を変えていくための署名です。一人ひとりに関わる問題なんです」という言葉を聞いて、一人の女性が、迷いなく、まっすぐに歩み寄り、署名をしてくださいました。その姿を見たとき、私ははっとしました。これは、私個人の問題ではない。夫を亡くした私だけの出来事でもない。社会全体が向き合うべき問題なんだと、そのとき初めて、実感しました。
さらに、その思いを確かなものにしてくれたのが、海外労働連絡会との関わりでした。
海外で働くということには、国内では見えにくい、けれど確実に存在する特有の労働問題があります。情報が限られ、相談先も分かりにくく、「現地の事情だから仕方がない」「会社の指示だから従うしかない」、そうして、声を上げる前に諦めてしまう環境が生まれやすい。海外労働連絡会で活動するなかで、夫の出来事も、個人の性格や努力不足ではなく、構造の中で起きた問題だったのだと、よりはっきり理解できるようになりました。
弁護団の八木和也弁護士は、第2回口頭弁論を終えた後、「川重の非人道性を白日のもとにさらすことができた」と言われました。私はこの言葉に、深くうなずきました。この裁判は、勝つか負けるかだけを問うものではありません。これまで見えにくかった働き方の実態や、企業の中で処理され、外に出てこなかった問題を、社会の前に明らかにしてきた裁判だと思っています。
その一方で、川崎重工業は年末、30年にわたる燃費データの不正を公表しましたが、記者会見は行われませんでした。多くの人が休みに入る時期に、大きく報じられることもなく、この出来事を知らない、あるいは忘れてしまっている方も少なくないのではないかと思います。けれど、問題は「終わったこと」にしてよいものなのか。私自身、そのことを考え続けています。
説明を尽くさず、静かにやり過ごすことで、本当に責任を果たしたと言えるのか。その点も含めて、この裁判は社会に問いかけているのだと思っています。
私はしんどさを「シェアしよう」という言葉だけでは足りなくて、それを受け止められる土台が、組織や社会の側に用意されているかが大切なんだと、今は思っています。
控訴審に入り、不安を感じることもあります。それでも、一人で背負っていた子泣きじじいを、少しずつ下ろせている感覚があります。今日ここに集まってくださったことが、過去を振り返るだけで終わらず、同じことを繰り返さない社会につながる一歩になれば嬉しいです。本日は本当にありがとうございました。
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今後の予定
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▼ 第4回口頭弁論
日時:2026年3月4日(水)11:00〜
場所:大阪高等裁判所
ぜひ、傍聴支援をお願いいたします。