家事労働者に労基法・労災保険の適用を! 1週間・24時間拘束労働で亡くなった高齢女性の過労死を認定してください!

家事労働者に労基法・労災保険の適用を! 1週間・24時間拘束労働で亡くなった高齢女性の過労死を認定してください!
NPO法人POSSEと労災ユニオン(総合サポートユニオン労災支部)が支援している過労死遺族が、国に対して労災認定を求める裁判を起こしています。
2015年春に、家事労働者として1週間・24時間拘束労働で働いていた高齢女性が亡くなりました。しかし、国は家事労働者には労働基準法や労災保険は適用されないとして、彼女の死を過労死と認めていません。現行の労働基準法や労災保険は、家事労働者を適用除外としているからです。
現在、共働き世帯の増加や少子高齢化の影響で、家事代行サービスは拡大を続けています。市場規模は、約698億円(2017年)と推計され、 将来の市場規模は、少なくても2,000億円程度、最大で8,000億円程度にまで拡大する可能性があると言われています(2018年に出された野村総合研究所「家事支援サービス業の推計市場規模」)。
しかし、働く現場では、今回亡くなったAさんのように、基本的な労働者としての権利が認められず「無権利状態」で働かされている家事労働者が多くいるのです。
国の労災不支給の判断に納得できない遺族は、2020年3月に国に対して裁判を提訴し闘ってきました。そして、2022年9月29日に東京地裁で判決が言い渡されます。
裁判については、2022年9月6日に大きく報道もされました(「家事代行者の「労災認めて」 妻急死の夫が国に労基法の「例外」撤回求め7年 近く地裁判決」)。
この裁判は、女性や高齢者の労働環境改善に大きな影響を与えるものです。ぜひ、多くの方にこの事件について知っていただくとともに、今後社会的に過労死を無くしていくため、署名へご協力をお願い致します。署名は、裁判所はもちろん、厚労省など国へも提出を予定しています。
◆事件概要
2015年5月27日夜、家事代行及び訪問介護ヘルパーとして働いていた女性のAさん(当時68歳)は、私的に訪れた入浴施設で倒れているところを救急搬送され、翌日、急性心筋梗塞で亡くなりました。
Aさんは株式会社Y社の紹介で、認知症を患う寝たきりの高齢者(要介護度は一番重い「5」)の個人宅にて住み込みで働いていました。常時対応が必要なため、2015年20日~26日までの1週間、ほぼ24時間休みなしで、清掃や洗濯、食事の用意、介護など家事業務と介護業務が渾然一体となった状態で働いていました。
多種多様で専門性も高く責任重大な「ケア労働」を、たった1人で担っていたのです。
「求人票兼労働条件通知書」には休憩時間が深夜0時~5時と記載されており、そもそも24時間中5時間しか休むことが想定されていない契約書となっていました。さらに、Aさんの同僚は「派遣された家政婦は、ろくに睡眠時間も取れない上に、2時間おきのおむつ替え、定期的な失禁にも対応しなければならなかった。事実上24時間労働であり、労働から解放されることがない」旨の証言をしています。そこからも、Aさんがほぼ24時間の過酷な労働を強いられていたことがわかります。
Aさんの死は仕事が原因だと思った遺族は、2017年5月に渋谷労働基準監督署に労災申請をしましたが、2018年1月に不支給決定となりました。その後の異議申し立ての手続きである審査請求、再審査請求も国から退けられました。
その理由は、Aさんが労働基準法116条2項の「家事使用人」に該当し、同法及び労働者災害補償保険法の適用除外となるため、というものでした。遺族は、過重労働が原因で死亡したのに、家事労働者に労災が認められないのは不当だとして、2020年3月に国を相手に東京地裁へ提訴しました。遺族は会見で「家事労働者が労働者として守られないのは重大な人権侵害で納得できない」と訴えました。
【経過】
2013年8月 Aさんは要介護高齢者向けの居宅介護支援サービスや家事代行サービスを展開する都内の株式会社Y社に入社。
2015年5月20~26日 6日間、24時間ほぼ休みなく個人宅で住み込み勤務
2015年5月27日 入浴施設で倒れ、救急搬送。
2015年5月28日 急性心筋梗塞のため亡くなる。
2017年5月 遺族が渋谷労働基準監督署に労災を申請。
2018年1月 労災の不支給決定が下る。その後の審求請求、再審査請求も退けられた。
2020年3月 遺族が国を相手に労災認定を求めて東京地裁に提訴
2022年9月29日 東京地裁判決
◆労働基準法上の「家事使用人」の定義
・労基法116条第2項(1947年成立)では、「この法律は、同居の親族のみを使用する事業を及び家事使用人については、適用しない。」と定めています。個人家庭と直接契約を交わし、指揮命令を受け対価を得ている場合は「家事使用人」となり、労働基準法や労災保険が適用されません。
・一方で、厚労省通達の基礎第150号には「個人家庭における家事を事業として請け負う者に雇われて、その指揮命令の下に当該家事を行う者は家事使用人に該当しない。」とあり、全ての家事労働者が「家事使用人」になる訳ではなく、仲介会社と契約を交わし、指揮命令を受け対価を得ている場合は「家事使用人」とはならず、労働基準法や労災保険の適用対象の労働者となります。
→AさんはY社から詳細な「業務指示書」を渡され指揮命令を受け、報酬もY社からAさんへ直接支払われ、毎月手数料も徴収されており、実態としてはY社に雇用されている状況でした。私たちは、このような実態から判断し、Aさんは「家事使用人」には該当せず、「労働者」として労基法や労災保険が適用されるべきだと主張しています。
◆実態と解離した現行の労働基準法と問題の拡大
さらに、私たちは、そもそも労基法第116条2項によって「家事使用人」へ労基法や労災保険が適用されない現状自体がおかしいと考えています。かつては労基法が想定しているような長期で個人宅へ住み込みで働く「家事使用人」もいましたが、現在は、紹介所等を通じ「労働者」として各家庭に働きにいっているのが実態です。
現在のように「家事使用人」について労基法や労災保険の適用を除外してしまった場合、「賃金、就業時間、休息その他の労働条件に関する基準」が何も定まっていない状態で働き、労災などが起こっても救済されないことになります。
Aさんは利用者に対する24時間対応を余儀なくされ、それが原因で亡くなっていますが、この法律をこのまま放置してしまえば、Aさんと同じように24時間業務を強いられて過労死し、救済もされない家事労働者が今後も発生していく可能性があります。
◆家事労働者として働く多くの女性労働者の環境改善へ
Aさんもそうであるように、家事労働者の多くは女性です。国はこれまで、家事労働者の実態把握等を十分にしておらず、調査等もほとんどありませんが、2015年の国勢調査では、日本国内に約1万1千人の家事労働者(統計上は「家政婦(夫)」)がいるとされ、97%が女性となっています(個人契約の全てを把握できないため、この数字も氷山の一角と予想されます)。家事労働者として働く多くの女性が無権利状態で働いているのです。
一方で、日本とは異なり、国際的には家事労働者の権利は拡大を続けています。2000年代中頃から女性団体や労働組合、NGOなどが連携し家事労働者の国際的な待遇改善を進め、2011年6月、ILO第100回総会で「家事労働者の適切な仕事に関する条約(第189号条約)」が採択されています。この条約では、家事労働者は他の労働者と同じ基本的な労働者の権利を有するべきとして、「安全で健康的な労働環境の権利」、「一般の労働者と等しい労働時間」などが規定されています。
しかし、日本は同条約を未だ批准しておらず、国連女子差別撤廃委員会から勧告も受けていますが、改善の動きは未だありません。
◆増え続ける高齢者の労災問題
今回の裁判のもう一つの論点は、高齢者の労災問題です。亡くなったAさんは68歳という年齢でほぼ24時間休みなしという過酷な労働環境で働かされていました。2021年、労働災害で亡くなった60歳以上の高齢者が360人に達し、労災死亡者全体の43.3%を占めました(令和3年 高年齢労働者の労働災害発生状況)。社会保障が削減され、医療費や生活費のために働かざるを得ない高齢者が増え続け、その中で命を落とす高齢者も増加傾向にあります。この裁判を契機として、年齢に関わらず誰もが安心して働ける社会に変えていく必要があります。
◆原告コメント
私は、懸命に家事労働をしていた妻が、労働基準法や労災保険が適用されるべき「労働者」であったことを認めて欲しいだけです。家事労働者として働いているのは大部分が女性であり、法律の保護の枠外に置かれた状態で、社会的に必要不可欠な「ケア労働」を担っています。妻同様に、現在も制度的に差別されている女性の労働環境の改善に寄与したい、妻に起きたようなことが今後起こって欲しくない、その一心で私は裁判を続けてきました。
良い判決を期待することはもちろん、そもそも家事労働者へ労基法や労災保険が適用されないという現状の法制度上の不備についても、変えていきたいと考えています。
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◆過労死関連の相談や支援ボランティアへの参加は以下の連絡先まで
日本では国が認めるだけでも毎年200人近い方が、過労死や過労自死、ハラスメント自死など、職場の労働環境が原因で命を落としています。しかし、その背後には、過労死だと思ってもどうすればいいかわからずにアクションを取れないご遺族や、労災申請したくても会社から申請を妨害されたり、証拠を集められずに困っている労災被害当事者の方が何千人、何万人もいると言われています。
過労死や職場での怪我や精神疾患をはじめとする病気になった場合、ご遺族やご本人が国に対して労働災害を申請してはじめて国が調査を行い、病気などが労災に当たるのかを判断します。
そのためには証拠集めなどが必要になりますが、お一人やご家族だけで行うのは時間的にも精神的にも負担が大きいかと思います。裁判や労災申請と聞いてもあまりイメージができなかったり、そこまでやりたくないとお考えかもしれませんが、「過労死かもしれない」、「これは労災なのでは?」と思った際には、どういった解決策がありうるのかを確かめるだけでも結構ですので、POSSEの無料相談窓口にご連絡ください。相談料はかかりません。秘密厳守でご相談に対応いたします。
また、今回の過労死裁判支援をはじめとした過労死問題への取り組みは、POSSEの学生や若手社会人が中心を担っています。毎回の裁判期日での傍聴支援、問題の情報発信、記者会見の準備、オンライン署名の作成等を、皆で企画・検討し進めています。
「過労死を無くしたい、仕事が原因で命が失われる社会を変えたい」という学生や若手社会人の方は、ぜひボランティアを募集していますので、私たちまでご連絡ください。一緒に今の社会を変えていきましょう。
NPO法人POSSE
過労死相談ページ:https://www.npoposse.jp/karoshi-workplaceinjuries
ボランティア募集ページ:https://www.npoposse.jp/volunteer
相談電話:
03-6699-9359(相談は、平日17:00-21:00 / 日祝13:00-17:00 水曜・土曜定休)
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◆あなたの経験を聞かせてください!
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