公益通報者の命と尊厳を守るための署名へのご賛同をありがとうございます。
本日、内閣府消費者委員会へ、公益通報後の私の体験等の概略をまとめた資料
「公益通報後に何が起きたのかー鳥取大学補助金流用問題の概要」
を情報提供し、
公益通報者の命と尊厳を守ることができていない現実と
更なる法制度改革の必要性を要請しましたのでご報告致します。
尚、実際に提出した文面は下記のとおりです。
本資料は、今後、消費者長長官や公益通報者保護に関心のありそうな国会議員へも送付し、
更なる法制度の改善を要請する予定です。
今後とも引き続きご支援を賜れますよう、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
記
「公益通報後に何が起きたのか ― 鳥取大学補助金流用問題の概要」
第1 問題発見と内部指摘
2015年春、私は鳥取大学において、教育目的のみに使用することが可能とされていた文部科学省補助金事業について、経済産業省の内視鏡開発事業や厚生労働省の医療用ドリル機器開発事業に流用されている実態を確認しました。
実際に、文部科学省補助金で雇用され、教育に専念すべきとされた教職員が医療機器開発に従事している状況を目の当たりにし、その内容は議事録、出張報告、メール記録などにも残されていました。
また、教育目的の補助金が、教職員の里帰りなど個人的な目的に使用されていました。
さらに、文部科学省補助事業は、申請時に「予定を含めて重複・類似事業がない」ことを確認し「なし」と記載しなければ申請できないと募集要領にありました。しかし実際には、申請時点において、経済産業省事業や科研費事業など、医療機器開発に関する他の公的資金事業が同時に進行しており、人員や事業内容の重複が認められる状況にあったにもかかわらず、「重複・類似事業なし」として申請・採択されました。
このように、私は、募集要領における「重複・類似事業なし」との申請内容と実際の事業運営との間に重大な齟齬があり、その内容には、補助金の申請及び受給に関して、補助金適正化法違反だけではなく、刑法上の詐欺罪に該当する可能性があると考えられる事項が含まれていました。
また、私が問題視した内容には、残業代不払いなどの労働基準法違反に関する事項もありました。
したがって、本件は、公益通報者保護法の対象となる法令違反又は法令違反のおそれに関する事案であると考えられました。
そして、私は、これらの問題に対して、まず学内で改善を求めました。
第2 公益通報
しかし、学内での改善は行われず、上司は、文部科学省補助金で雇用され教育に専念すべき職員に対して、経済産業省の内視鏡開発事業を最優先するよう命じ続けました。
さらに上司からは、「理事から、教育よりも医療介護機器の実用化・製品化が優先との指示が出ている」「理事から、国の補助金事業は手段であって、文部科学省など国の補助金を利用して、目的である医療・介護機器開発の製品化・市場化を行う指示が出ている」と説明を受けました。
また、私が改善を求めた文部科学省事業担当の准教授からは、「理事に相談したが、補助金の流用を継続したままで、文部科学省を何とか納得させるよう指示を受けた」と言われました。
当時、私への残業代の支払いが行われず、この点についても上司に支払いを求めましたが、却下されました。
私は、学内での改善は困難であると判断し、文部科学省、厚生労働省などに対して公益通報を行いました。
第3 公的機関による調査と是正
私が公益通報した内容については、その後、複数の行政機関による実地調査が行われました。その結果、補助金返還、不適切使用・不正使用の認定、返還命令、未払賃金の是正などの措置が実施されました。
公益通報後、文部科学省は2015年8月に実地調査を実施しました。その結果、
・個人的里帰りに使用された補助金の返還
・補助金の使用区分の明確化
・教育専念義務のある教員の従事状況の確認・改善
などについて指導が行われました。
しかし、改善されることはなく、私は再度、文部科学省、厚生労働省、AMEDへ通報しました。
その後、
・文部科学省による再調査(2016年8月)
・厚生労働省・AMEDによる実地調査(2016年12月)
が行われました。
その結果、
・文部科学省補助金約7,600万円の不適切使用の公表
・厚生労働省・AMED事業約400万円の目的外使用および約99万円の不正使用の公表
・AMEDによる研究者への資格制限措置と大学への返還命令
・労働基準監督署による未払残業代の是正勧告・指導および検察庁への送致
このように、私が公益通報した内容については、文部科学省、厚生労働省、AMED、労働基準監督署など複数の公的機関が調査を実施し、補助金返還や不正使用の公表、未払賃金の是正などの措置が行われました。
第4 不利益取扱い
私が公益通報を行い、公的機関による調査や是正措置が進むにつれ、私を取り巻く職場環境は大きく変化しました。
私が受けた不利益取扱い例は次のとおりです。
・過重労働と更なる時間外労働賃金不払い
・事実に基づかない理由による業務変更
・他の職員との接触を禁じる命令を出すなど人間関係の切り離し
このうち、
賃金不払いについては、
・労働基準監督署による是正勧告・指導
・告訴状の検察庁送致
を経て、裁判での和解により不払い賃金が支払われました。
また、
・教授による威圧的言動や身体接触
・病院長による事実に基づかない注意や業務変更
・上司による指導の範囲を逸脱した辛辣な言動
などについては、一審判決において違法性が認定されました。
第5 休業命令・雇止めと裁判
通報後も公的機関による調査や是正措置が続く中、私はそれまで継続して行っていた業務から外され、病院長から休業命令を受け、その後雇止めとなりました。
病院長は、休業命令と共に、
・他の職員との一切の連絡・接触の禁止
・大学敷地内への立入り禁止
なども文書と共に命じました。
一方で、この時期にも文部科学省や厚生労働省による調査や指導、大学内部での調査は継続して行われていました。
最終的に、私は、これらの一連の鳥取大学の措置が、公益通報を行ったことに対する不利益取扱いであるとして裁判を提起しました。
現在、その裁判は控訴審が結審し、2026年7月29日に判決が言い渡される予定です。
第6 なぜ制度問題なのか
(1)いまだ解明・説明責任が果たされていない二つの疑問
本件には、いまだ十分な説明がなされていない二つの大きな疑問があります。
第一に、募集要領では、他の補助金等による経費措置を受けている事業や、予定を含めて同一又は類似の事業が存在する場合には選定されないとされていたにもかかわらず、なぜ鳥取大学は「重複事業なし」として申請し、採択を受けることができたのかという点です。
第二に、教育目的で採択された補助金事業の人員や経費が、なぜ内視鏡開発や医療用ドリル開発など主に同じ教授が研究代表者となっている医療機器開発事業と重なって運用され、補助金返還に至るまで数年以上にわたって継続していたのかという点です。
私は、これらの疑問について、大学から説明責任が果たされていないと考えています。
(2)公益通報者を守る仕組みは機能したのか
本件は、公益通報者保護法の対象となる法令違反又は法令違反のおそれについて通報した結果、複数の行政機関による調査と是正措置が行われたにもかかわらず、通報者の保護が十分に実現されたのかが問われている事案です。
私の公益通報後、文部科学省、厚生労働省、AMED、労働基準監督署など複数の公的機関が調査を実施し、補助金返還、不正使用の公表、未払賃金の是正などの措置を行いました。
しかし一方で、私は業務変更、職場での人間関係の切り離し、休業命令、雇止めなどの不利益取扱いを受けました。
また、一審判決では、教授や上司らによる一部の言動について違法性が認定されました。
このように、公益通報によって公的機関による調査や是正措置が実現したにもかかわらず、通報者自身は十分に保護されなかったのではないかという問題が残されています。
(3)情報開示と人格攻撃の問題
本件では、補助金問題やハラスメントの事実確認に関係する監視カメラ映像や会議録音記録などについて、大学は情報開示を拒否し続けました。
また裁判においても、大学は私に対して事実に基づかない人格攻撃や信用性を否定する主張を繰り返しました。
例えば、大学ホームページで公開されている「鳥取大学におけるハラスメントの防止等に関する規程」には、調査委員として当事者の利害関係者を選任してはならない旨が定められていました。しかし大学は、2026年4月30日付の裁判準備書面において、そのような規程は存在しないと主張し、別の規程を裁判所へ証拠として提出しました。
また、私が当該規程を証拠・根拠として調査委員会の公平性に疑問を呈したことについて、大学は裁判で、「規程は存在しない」と主張した上で、私が「ストーリーを作り上げている」と事実に基づかない理由で私の人格を攻撃する主張をしました。
さらに、私が在職中に私と同部屋や共に業務をしていた職員の中に自ら希望して退職した人はいませんでしたが、大学は「私が原因で退職した人がいる」などと主張し、私に人格的な問題があったと主張しました。
私は、このような事実に基づかない主張による人格攻撃が、長年続いたことで、大きな精神的負担を受け続けました。
公益通報制度が実効的に機能するためには、通報者が事実確認に必要な証拠へ適切にアクセスできること、客観的証拠となる情報開示がなされること、また、事実に基づかない人格攻撃から保護されることも重要であると考えます。
(4)制度改革への願い
もし職場で不正を発見した人が、通報によって仕事や生活を失うのであれば、誰も声を上げなくなります。その結果、社会は不正を発見し是正する機会そのものを失うことになります。
・公益通報者に対する不利益取扱い防止を実効性あるものにすること
・客観的事実確認に必要な情報開示や証拠へのアクセス確保を実効性あるものにすること
・通報者に対する事実に基づかない人格攻撃や報復からの保護を実効性あるものにすること
・通報者が通報段階から実効ある救済を迅速に受けられるようにすること
などの公益通報者保護制度の抜本的な改善につながることを願っています。
2026年12月には改正公益通報者保護法が施行されます。しかし、本件で私が問題提起してきたように、行政機関によって問題が認定され、是正措置が行われた場合であっても、通報者自身は長年にわたり重大な不利益を受け続けることがあります。また、近年では和歌山市や兵庫県において、公益通報後に深刻な被害を受け、自死に追い込まれた事例も報告されています。
これ以上犠牲者を出さないために、改正法の施行後も、その運用状況を継続的に検証し、「不正を告発した人が犠牲になる社会」ではなく、「国民・社会の利益を守るために行動をした人が守られる社会」を早急に実現する必要があります。
本件が、そのための制度改革と社会的議論につながり、公益通報者の命と尊厳が守られる社会の実現に少しでも寄与することを願っています。
2026年6月18日
松江和子