Petition update「あなたの病気を診られる専門医が、この地域にはいません」―国民に必要な医師の育成を求めるための緊急署名!!

【オフトーク(Off-talk)・医学教育についてのひとりごと・その2】: 研修医は患者さんに寄り添い「最期の時」に立ち会うことをどのように学ぶのか…とても重く、でも大切な問題

一戸 辰夫Hiroshima, Japan
Sep 11, 2026

この署名活動に貴重なご支援をいただいている皆様

本活動を開始してから、本日でちょうど1ヶ月を迎えました。この間、この活動を知っていただいた方々が2,000名近くとなり、すでに500名以上の皆様にご賛同の一筆をいただいていることに心より深く感謝申し上げます。

この活動では、患者さんやご家族が求める「お医者さん」が、現在のわが国ではどのように育てられているか、その現状を調べながら、「より良い医師の育成が行える教育制度」を市民の皆さんとともに創り上げていくことを目標としております。

そこで皆様の大切な土曜日の朝ですのに、今日は少し重いお話をさせていただくことにしました。

医学部の学生たちが、在学中には決して学べず、医師となってからはじめて学ぶとても大切なことがあります。それは力を尽くして治療を重ねたにもかかわらず、患者さんが亡くなる時、「人の死」を目の前で経験し、患者さんとご家族のお気持ちに寄り添いながら、どのようにその「とても辛い事実」をお伝えして、忘れ難い想いを共有できるのか、ということです。

医師として働いていると、どうしても患者さんを看取らなければならないことがあります。
心臓が止まり、呼吸が止まり、ご家族がベッドのそばに集まり、嘆きの涙がたくさん流れる中で、医師は死亡を確認し、死亡診断書を書きます。
すなわち、医療には、病気を治すことだけではなく、人の最期に寄り添うというとても大切な役割が課されているのです。

私自身、長く医師として働いてきましたが、現在も患者さんの死はとても厳粛な時間で、そこに立ち会うことにより、多くのことを学ばせていただいております。

自分たちがもっと何かできたのではないか。
ご家族に何と声をかければよいのか。

いつでも答えが見つからないまま、自問自答を繰り返しています。
そして、「人の最期の時をより良く迎える」ためには、医療従事者としての高い情熱と優れたチーム医療が必要であることを、多くの患者さんとご家族から教えていただいております

では現在の若い医師たちは、どのくらい患者さんの死に立ち会っているのでしょうか。
近年、研修医の教育に携わる医師たちの間では、「9時−17時医師」という少し気になる言葉を耳にすることがあります。勤務時間が終わると速やかに帰宅するという、近年の若い医師の勤務スタイルを表した、いわば医療現場の「隠語」のようなものです。

もちろん、決められた勤務時間を守ること自体を批判するつもりはありません。また、この言葉が現在の研修医の実態を本当に表しているのかについても、きちんと検証する必要があります。ただ、「医師の働き方改革」をはじめ、若い医師たちを取り巻く勤務環境が大きく変化する中で、研修医が患者さんの最期に立ち会う機会にも、何らかの変化が起きているかもしれません

少し気になって、厚生労働省の過去の調査を調べてみました。
すると、興味深い数字が出てきました。

■ 「死亡診断書を6通以上書いた研修医」が減っています:
研修医が患者さんの死にどのくらい接したかを、直接数えた全国統計はありません。
しかし、その代わりに使える一つの指標があります。
それが、「2年間の臨床研修中に、死亡診断書を何通作成したか」という調査です。
もちろん、死亡診断書を書いた数=患者さんの死に立ち会った数、は等しくないかもしれません。
しかし、全国の研修医を長年比較できる、かなり貴重な指標です。

私自身は、1990年代前半に研修をしましたが、おそらく少なくとも20名以上の患者さんの死亡に立ち会い、死亡診断書を作成しました。
2004年に始まった現在の「卒後臨床研修制度」以前となる、旧制度最後の世代に近い2003年。2年間の研修で死亡診断書を6通以上書いた研修医は、約42%いました。
ところが2016年には、約30%まで減っています。
さらに2018年には、27.8%でした。

つまり15年ほどの間に、死亡診断書を比較的多く作成した研修医の割合は、およそ3分の1減ったことになります。以前と比較して、現在の研修医は、患者さんの最期に立ち会う経験が限られているのかもしれない。そんな可能性が見えてきます。

■これは良いことなのでしょうか、悪いことなのでしょうか:
もちろん、「患者さんがたくさん亡くなる病院で働けばよい」などと言いたいのではありません。
そうではなく、医師という仕事には、どうしても避けることのできない「死の迎え方」があります
例えば、
治療をどこまで続けるのか。
心肺蘇生を行うのか。
患者さん本人は何を望んでいるのか。
家族はどう受け止めているのか。
亡くなる直前の苦痛をどう和らげるのか。
そして亡くなられた後、ご家族に何を伝えるのか。

これらは、教科書を読んだだけでは決して身につきません。

■ 「死亡確認」は、もちろん単なる手技ではありません:
死亡確認という行為だけを取り出せば、
心音を確認する。
呼吸を確認する。
瞳孔を確認する。
死亡時刻を記録する。
という手順になります。

でも実際には、その瞬間、医師の目の前には患者さんだけではなく、その方を大切にしてきたご家族がいます。「先生、もう亡くなったんですか」と聞かれるかもしれません。
その時、どのように言葉を選ぶのか。どのくらい沈黙するのか。ご家族が泣いている時に、医師はどこに立てばよいのか。

こうしたことを、私たちは患者さんとご家族から教えていただきながら、少しずつ「医師」(医師免許を持っている者)から「医者」(患者さんと向き合う能力を持った者)になってきたのではないかと思います。

■では、なぜこの経験は減っているのでしょう?:
ここは、まだ簡単には結論できません。現在よく言われる「医師の働き方改革」だけが原因ではありません。なぜなら、死亡診断書の作成経験数の減少は、2024年の働き方改革よりずっと前、遅くとも2010年代からすでに見られているからです。

考えられる背景はいくつもあります。
入院期間が短くなったこと。
終末期の患者さんが、大学病院から地域の病院や在宅医療へ移るようになったこと。
主治医一人ではなく、チームで患者さんを診るようになったこと。
夜間の勤務体制が変わったこと。
研修医の受け持つ患者さんの数が変わったこと。

どれか一つが原因なのではなく、
医療全体の形が変わった結果なのかもしれません。

■でも、ここで一つ考えたいことがあります:
研修制度を考える時、私たちはどうしても、
「何時間働いてもらうのか」
「何科を何か月ずつ回るのか」
「どの病気を経験するか」
という話をします。

もちろん、それらは大切です。
でも、「医師としてどのような場面に立ち会い、そこで何を学ぶのか」という視点も、同じくらい大切ではないでしょうか。
患者さんが元気になって退院する場面から学ぶことがあります。
救命できた患者さんから学ぶことがあります。
そして、救えなかった患者さん、人生の最期を迎えた患者さんからしか、教えていただけないこともあるように思います。

■「死を多く経験させる」という話ではありません:
この話を読んでいただく時、一番誤解していただきたくないことがあります。
私は、「研修医にもっと死亡患者を担当させるべきだ」と言いたいのではありません。
大切なのは、患者さんの死に接した時に、その経験を教育としてきちんと受け止める仕組みがあるかということだと考えています。

上級医と一緒に死亡確認をする。家族への説明を見てもらう。
その後で、
「あの時、どう感じた?」
「家族には、どう伝えればよかったと思う?」
と振り返る。
そういう教育は、
働く時間を長くすることとは別の問題です。

■ 若い医師を守ることと、医師として育てること:
若い医師を長時間労働から守ることは、当然必要です。私も、それに反対するつもりはありません。
しかしながら、若い医師を守ることと、医師として必要な経験を守ることは、本来、両立させなければならないはずです。
勤務時間を短くするのであれば、その限られた時間の中で、何を必ず経験してもらうのか。何を上級医が一緒に教えるのか。何を経験できなかった場合には、別の方法で補うのか。
そこまで考えて初めて、「教育制度」と呼べるのではないでしょうか。

20年前と比べて、死亡診断書を比較的多く作成した研修医の割合は、確かに低下しています。
そのこと自体が、直ちに「問題である」とは言えません。
しかし、若い医師が患者さんの「生」だけではなく、「死」と向き合いながら医師として成長していく機会まで、知らないうちに失われてはいないでしょうか。
もしそうだとすれば、それは勤務時間だけを見ていても気づくことのできない、臨床研修制度のもう一つの問題なのかもしれません。

今回の署名活動で私がお願いしている、
「この20年間の卒後臨床研修制度を、一度きちんと検証してください」
ということには、こうした問題も含まれています

若い医師を疲弊させないこと。
患者さんの安全を守ること。
そして、患者さんの人生と最期に向き合うことのできる医師を育てること。

その三つを、どれか一つ犠牲にするのではなく、どうすれば一緒に実現できるのか。
そんなことを考えながら、昨晩は古い厚生労働省の資料を読んでいました。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
皆様の良い週末をお祈りしております。

署名サイトURL: https://c.org/BYfSxz9bvN

一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」代表)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com  いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています]

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