Petition update「あなたの病気を診られる専門医が、この地域にはいません」―国民に必要な医師の育成を求めるための緊急署名!!

【オフトーク(Off-talk)・医学教育についてのひとりごと・その1】 日本の「基礎医学」教育、海外と周回遅れになっていませんか😭💦💦??

一戸 辰夫Hiroshima, Japan
Sep 6, 2026

本署名活動への温かいご支援を始めてくださった皆様へ

先日、「100筆を超えました!」と皆様と一緒に喜んだばかりなのですが、本日、この署名にご賛同くださった方が、とうとう350名を超えました!

臨床研修制度という、医療従事者以外の方々には少し分かりにくい問題について、1,600人を超える方々が閲覧して下さり、これだけ多くの方々が「これは私たちの医療にも関係する問題なのではないか」と思われ、貴重なご署名をいただきましたことを、本当にありがたく思っています。

そこで、嬉しさのあまり、また私の独断と偏見による「オフ・トーク」のおしゃべりをお届けします😆

今日は「卒後」ではなく、その前――医学部で医師がどのように育てられているのか、というお話です。

私は25年以上、大学で医学生の教育に関わってきました。その中で、いつの頃からか、少し気になることがありました。医学部の学生に、「分子生物学(注1)の教科書、何を使ってる?」「生化学(注2)は?」「病理学(注3)の教科書は?」などと聞いてみると、「教科書は持っていません」という答えが返ってくることが、決して珍しくなくなってきたのです!(注1: 遺伝子やDNA、タンパク質などの働きを調べ、生命や病気が起こる仕組みを分子レベルで理解する学問、注2: 体の中で栄養やエネルギーがどのように作られ、使われるのか、また細胞内のシグナル伝達がどのように生命活動や病気に関わるのかを、化学反応の視点から理解する学問、注3:  病気になった細胞や組織を観察し、正常な体がどのように変化して病気になるのかを明らかにする学問)

これを知り合いの先輩教授に質問してみましたところ、「一戸くん、それは今はどこの大学でも常識ですよ。」と即座に返され、愕然としたことがあります。

もちろん、今はインターネットがあります。講義資料もPDFで配られます。動画でも勉強できます。ですから、「紙の教科書を持っていない=勉強していない」という単純化はできません。

でも私は、ときどき考えてしまいます。医師になる学生が、「人体はなぜこのように働くのか」「病気はなぜ起こるのか」を体系的に学ぶ時間そのものが、少しずつ失われてはいないだろうか。

解剖学・生理学(注4)・分子生物学・生化学・薬理学(注5)・病理学。こうした学問を「基礎医学」と呼びます。患者さんを直接診察する知識を教える学問ではありません。(注4: 生きている体の各器官が「どのように働いて命を保っているのか」という仕組みを解き明かす学問、注5: 薬が体の中でどのように作用して病気や症状を抑えるのか、また体が薬をどう分解・排泄するのかという「薬と体の相互関係」を解き明かす学問)

しかし「基礎医学」は、診療を行う際にとても大切な「なぜ、この患者さんはこの病気になったのか」、「なぜ、この薬が効くのか」、「なぜ、この患者さんには効かなかったのか」を考えるための、医学の土台です。

では、海外ではどうなっているのでしょう。

ちょっと、お隣の韓国を見てみました。韓国では、全国40の医学部・医学専門大学院すべてが、ASK2019という医学教育の認証基準による評価を少なくとも一度受けています。しかも、この評価基準には、「科学的方法」と「基礎医学」が明確に位置づけられています

これは単に、「解剖学を何時間教えましたか?」という話ではありません。医師になる人間が、科学的に考えることができるのか。そこまでを医学教育の「質」として保証しようとしているのです。

では、もう少し南へ行って、シンガポールを見てみましょう。シンガポール国立大学の医学部では、医学教育の最初の2年間を、正常な人体と「病気の科学的基盤」を理解するための時期として、はっきり位置づけています。

でも、ここが面白いところです。「最初の2年間は基礎医学。そのあと臨床医学」という昔ながらの教育ではありません。たとえば「血液」というテーマなら、正常な血液はどう作られるのか。何が壊れると病気になるのか。薬はどこに作用するのか。そして患者さんには何が起きているのか。それを、基礎医学と臨床医学に分けずに学びます。

しかも、実際の患者さんに接する臨床教育も1年生から始まります。つまり、「基礎医学か、臨床医学か」ではないのです。基礎医学を使って、患者さんの問題を考える。そして、患者さんを診ながら、もう一度、基礎医学に戻る

世界の医学教育は、少なくともそのような方向へ動いています。

なぜでしょう。私は血液内科医ですので、少しだけ自分の専門の話をさせてください。私が医学生だった頃には存在しなかった新しい治療が、今では毎年のように続々と登場しており、従来は生命を永らえることさえ難しかった患者さんの治療成績が大きく改善されています。分子標的薬。抗体医薬。免疫チェックポイント阻害薬。CAR-T細胞療法。遺伝子治療。現在、開発されている新薬は、すべて基礎医学の知識が乏しいと「薬が効く仕組み」や「思わぬ副作用」を理解することができないものばかりです。逆に基礎医学で、遺伝子とは何か、タンパク質とは何か、リンパ球はどうやって働くのか、がん細胞はなぜ増えるのか、などの基本を良く学んでおけば、新しい治療が登場したときにも、その作用の仕組みをすぐに理解することができるのです。

ここで、日本に戻ってみます。少し心配な数字があります。

2011年3月に開催された文部科学省の検討会では、「この8年間に(おおむね2002年頃→2010年頃)、医学部の基礎系教員は約1,700人から約1,550人へ減少している」ことが報告されています。

およそ10%の減少です。

しかも、その検討会では、国立大学に求められた定員削減の「しわ寄せ」が、基礎系教員の削減に向かったことまで指摘されていました

さらに、文部科学省の医学教育モデル・コア・カリキュラム改訂に向けた調査研究報告書にも、非常に気になる記述があります。

臨床実習が長くなる一方で、「基礎医学教育は前倒し・縮小」され、「基礎医学の実習は減少・簡素化」している、というのです。

これは、少し不思議ではないでしょうか。医学が簡単になったのなら、分かります。でも、実際には逆です。医学は猛烈な勢いで複雑になっています。

がんゲノム・免疫療法・遺伝子/再生治療・AIの導入・データサイエンス。

だから韓国では、「科学的方法」や「基礎医学」を医学教育の質保証の中に位置づける。シンガポールでは、基礎医学と臨床医学を最初から統合し、1年生から患者さんに接しながら「病気の科学」を学ばせる。

ところが、その時代に日本では――その「病気の科学」を教える基礎医学の教員そのものが減ってきた。もしそうだとすれば、私たちは、世界の医学教育が向かっている方向とは、少し逆の方向へ歩いてしまっているのではないでしょうか。

もちろん、医学生には臨床医学をしっかり学んでもらわなければなりません。患者さんと話す力も必要です。診察する力も必要です。救急患者さんを診る力も必要です。

でも、「この病気には、この薬を使います」を覚えるだけなら、その知識は10年後には古くなっているかもしれません。一方、「なぜ、この病気が起こるのか」を考える力は、30年後にも使えます。

私は、医師を育てるということは、「今日の医療ができる人」を作るだけではないと思っています。10年後、20年後、医学がまったく変わってしまったときにも、新しい医学を理解し、目の前の患者さんに何が起きているのかを自分の頭で考え、そして、まだ治せない病気に出会ったときには、「なぜ治せないのだろう?」と問い続けることのできる医師を育てる。

それが、本当の医学教育なのではないでしょうか。

今回の署名活動は、「卒後臨床研修制度」を見直してほしい、というところから始まりました。でも調べれば調べるほど、私には別々の問題には見えなくなってきました。

基礎医学教育・医学研究・大学病院・卒後臨床研修・専門医教育。そして、地域の医師不足。

全部、「この国は、どのような医師を育てたいのか」という一本の問題につながっているのではないでしょうか。

この「ひとりごと」をお読みになられ、「これからの日本の医学教育について、少し考えてみよう」と思ってくだされば、望外の喜びです。

本日もまた、ずいぶん長い「オフ・トーク」になってしまいましたが(苦笑😅)、最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

今日の患者さんを診る医師を育てること。そして、まだ治せない病気を、いつか治せる病気に変える研究ができる医師を育てること。その二つを、どちらも大切にできる日本であってほしいと思います。

私は、心よりそれを願っています💖。ぜひ、皆様のご意見も教えて頂きたく思います。

署名サイトURL: https://c.org/BYfSxz9bvN

一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」代表)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com  いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています](なお、このオフ・トークの内容はあくまで一戸個人の見解であり、本署名活動のサポーター方々や後援団体の立場を表明するものではありません。)

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