【オフトーク(Off-talk)・医学教育についてのひとりごと・その3】:諸外国は、必要な診療科の医師数をどのように養成・確保しているのか🧐――日本に欠けている「必要数から逆算する仕組み」


本署名活動に温かいご支援をいただいている皆様
今週になり、この署名活動に関心をお寄せくださった方が2,000名を超え、本日12時の時点で、1,127名もの皆様から貴重なご賛同の一筆をいただきました!
本活動の代表者として、心より深く感謝と御礼を申し上げます。
さて、本日のオフトークでは、医師免許取得後に2年間の臨床研修を終えた若い医師たちが、その後、それぞれの専門診療科(消化器内科、消化器外科、循環器内科、心臓血管外科、脳神経内科、脳神経外科など)をどのように選択していくのか、特に特定の診療科に多くの医師が進み、逆に選択されにくい診療科に医師を補う制度があるのかを、ご紹介したいと思います。
非常に極端な例として、2027年3月に臨床研修を終えると見込まれる9,000人台前半の医師たちが、全員、将来は血液内科を専門にしたいと希望したとします。何と日本には、その希望自体を制限し、国が「あなたは別の診療科へ」と振り分ける法制度はありません(私個人としては、喜びのあまり卒倒しますが🤣……)。もっとも、実際には、それぞれの研修施設に受入定員や採用選考がありますので、希望者全員が血液内科医になるための研修過程へ進めるわけではありません。
もちろん、私は法律による若い医師の強制的な診療科配分を、決して求めているのではありません。問題は、若い医師の自由な意思を制限することではなく、将来必要となる診療科ごとの医師数を国として予測し、それを毎年の養成目標、専門研修ポスト、待遇や労働環境の改善へ結びつける仕組みが、十分に整っていないことなのです。
ここで、わが国の専門医制度について、少し補足しておく必要があります(少し長くなりますことをご容赦ください)。
現在の制度では、臨床研修を終えた医師は、まず内科、外科、小児科、産婦人科などの「19の基本領域」から専門分野を選びます。血液内科や消化器内科などは、その先に位置する「サブスペシャルティ領域」と呼ばれています。したがって、これらは制度上、まったく同じ段階の診療科ではありません。また、その研修内容や資格認定には、日本専門医機構だけでなく、それぞれの専門学会が大きな役割を担っています。
もちろん、国がサブスペシャルティ領域ごとの定員を一方的に決め、若い医師を強制的に割り振ればよいという話ではありません。専門学会の専門性や医師の自律性は、十分に尊重されなければなりません。
しかし、制度上の階層が異なるからといって、国民に必要な血液内科医、消化器内科医、腫瘍内科医などの将来数を、国として把握しなくてよいわけではないでしょう。国、都道府県、日本専門医機構、専門学会、研修施設が協力して、将来の必要数を予測し、不足が見込まれる領域について研修体制、待遇、労働環境などを改善し、その成果を継続的に検証する仕組みが必要なのです。
すなわち、ここで申し上げたいのは、
「基本領域である小児科、産婦人科、外科などの医師は、将来何人必要なのか」
「その先にある消化器内科、血液内科などの医師は、将来何人必要なのか」
「がん薬物療法を専門とする医師を、地域ごとにどのように確保するのか」
をそれぞれの制度的位置づけに応じて定期的に検討し、必要な医師を実際に育成できる環境へ結びつける、一貫した仕組みが十分に機能していないということです。
正確を期すために申し上げると、厚生労働省が何も調べてこなかったわけではありません。
2019年から2020年にかけて、厚生労働省は、将来の人口構成、患者数、医師の勤務時間などをもとに、2036年までに各診療科の医師が何人必要になるかを試算しました。また現在の専門研修制度には、医師がすでに多い都道府県や診療科へ若い医師が集中しすぎないよう、採用人数に上限を設ける「シーリング」という仕組みもあります。
ところが、このシーリングは、医師が多い地域で「これ以上増えすぎないようにする」制度です。
医師が不足している診療科について、
「全国で最低でも毎年何人を育てる」
「その人数に届かなければ、待遇や労働環境を改善する」
「それでも不足した場合には、翌年の政策を修正する」
という仕組みではありません。
言い換えれば、わが国には、一部の地域や基本領域について若い医師の集中を抑える「上限」はあります。しかし、国民に必要な医師数から逆算して、基本領域やサブスペシャルティ領域ごとの年間養成目標を定め、実績がそれを下回った場合に原因を検証し、対策を講じる仕組みは十分に整っていないのです。
ここでいう「養成目標」は、若い医師に特定の診療科を強制的に選ばせるための定員ではありません。また、目標人数に達しなかったことだけを理由に、行政や専門学会を非難しようというものでもありません。若い医師の自由な選択を尊重しながら、なぜその診療科が選ばれないのかを明らかにし、必要な対策を講じるための政策上の目安です。目標に届かなければ、給与や研修ポストを増やすだけでなく、長時間労働の是正、当直や緊急対応の分担、診療報酬上の評価、若手医師がその診療科を経験する機会、指導医の確保、地域間の研修ネットワーク、専門医取得後のキャリア形成などを検証し、必要な対策を講じます。それでも不足が続く場合には、目標や政策そのものを見直します。
では、外国ではどうしているのでしょうか。
もちろん、医療制度は国によって大きく異なります。英国はNHS(注)を中心とする公的な医療提供体制をもち、フランスやオーストラリアも、日本とは医療機関の構成、医師の雇用形態、専門研修への公的関与の程度が異なります。したがって、これらの国の研修ポスト管理を、そのまま日本へ移植できるわけではありません。また、諸外国の制度も決して一様ではなく、すべての国が必要な専門医数の確保に成功しているわけでもありません。ここで比較したいのは、個々の制度をそのまま導入できるかどうかではなく、「将来どの分野の医師が何人必要になるのかを予測し、その結果を養成政策や研修への公的支援に結びつけ、結果を検証する」という機能が、各国でどのように組み込まれているかという点です。[注:NHS(National Health Service:国民保健サービス)は、税金を主な財源として、国が中心となって医療を提供する公的制度です。原則として、住民は受診時の自己負担なしで診察や入院治療を受けられ、かかりつけ医(GP)が専門医療への窓口となります。]
例えばフランスでは、国の制度のもとで、地域・診療科別に専門研修ポストが設定されています。これは、専門医養成数を公的な医療政策と結びつけやすい仕組みです。ただし、医療提供体制そのものが日本と異なるため、同じポスト管理を日本へそのまま導入できるわけではありません。
英国では、専門医になるためには、原則としてNHSの専門研修ポストに採用される必要があります。そのため、研修ポスト数を医療人材政策の一部として調整できます。一方で、必要数の予測や研修ポストの設定が常に適切に行われているとは限らず、英国にも医師不足や診療科間の不均衡という課題があります。
オーストラリアでは、医療提供体制も専門医養成も公私にまたがり、専門医団体が重要な役割を担っています。その一方で、政府は長期的な医師の需要と供給を予測し、公的資金によって不足する診療科や地域の研修ポストを支援しています。日本と制度は異なりますが、専門職の自律性を保ちながら、公的な需給予測と財政支援を組み合わせる例として参考になります。
もちろん、これらの国の制度も決して完璧ではありません。研修枠を設けても、勤務が過酷であったり、待遇や将来のキャリアに魅力がなければ、若い医師は集まりません。
それでも、これらの国には少なくとも、将来の医療需要を予測し、
「将来、どの診療科の医師が何人必要になるのか」
「そのために、毎年何人を育てなければならないのか」
「予定どおり育成できなかった場合、誰が対策を講じるのか」
などの問題を、制度や方法に違いはあっても、専門医養成や研修への公的支援に結びつけようとする仕組みが、さまざまな形で設けられています。日本が学ぶべきなのは、外国の制度をそのまま移植することではなく、この政策循環を日本の医療提供体制に合った形で構築することではないでしょうか。
一方、日本では、専門医として認定するための研修内容や試験は、日本専門医機構やそれぞれの専門学会が整備しています。しかし、日本専門医機構や専門学会は、本来、国民に将来必要となる各診療科の医師数を決定し、その人数を確保する責任を負う行政機関ではありません。
わが国では、国が全国的な制度や指針を整え、都道府県が医療計画や医師確保計画を策定し、日本専門医機構や専門学会が専門研修と資格認定を担い、大学病院や研修病院が実際の医師養成を行っています。したがって、医師を育成し、地域の医療提供体制を確保する責任が、国だけにあるわけではありません。それぞれの主体が役割を分担すること自体は、当然のことです。
しかし、問題は、その役割分担が、
必要数を予測する→国と都道府県が養成・確保の目標を共有する→専門医機構、専門学会、大学・研修病院が育成環境を整える→実際に育成できた人数と地域分布を検証する→不足の原因を分析し、それぞれの権限に応じて対策を修正する
という一つの循環として、十分に接続されていないことです。誰か一つの組織にすべての責任を負わせるのではなく、各段階をどの機関が主導し、どのような指標で評価し、未達の場合に誰が何を見直すのかを明確にする必要があります。
特に、基本領域やサブスペシャルティ領域の医師養成には長い年月が必要であり、若い医師は都道府県を越えて移動します。また、血液疾患や希少がんなどは、一つの都道府県だけでは必要数を安定して推計・養成できない場合があります。このため、地域での配置や確保は都道府県が中心となって担うとしても、全国的な需給推計、共通指標、都道府県を越えた調整、財源の確保については、国の役割が不可欠です。
医学部の入学定員を増やせば、医師の総数は増えるかもしれません。しかし、それだけで、若い医師が小児科、産婦人科、外科、救急科、病理診断科、血液内科など、社会が必要としている診療科へ自然に進んでくれるとは限りません。
畑に植える苗木の数を増やすだけで、必要な種類の作物が、必要な場所に、必要な量だけ実るわけではないのと同じです。
これまでのオフトークでは、医学部における基礎医学離れや、若い医師が患者さんの看取りを十分に経験しないまま研修を終える可能性について、皆様と一緒に考えてきました。
今回は、さらにその先にある問題です。
2年間の臨床研修を終えた若い医師たちを、社会としてどのような専門医に育てていくのか。
そして、10年後、20年後に患者さんが必要とする医師を、今から誰が責任をもって育てるのか。
これは医師だけの問題でも、専門学会だけの問題でもありません。
将来、私たち自身や家族が病気になった時、必要な専門医の診療を受けられるかどうかに直結する、国民全体の問題なのです。
皆様はどのように思われますか? ぜひ多くのご意見をお寄せいただけますとありがたく存じます。
署名サイトURL: https://c.org/BYfSxz9bvN
一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」代表)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています]