【オフトーク(Off-talk)・その6】 病院集約化の「思わぬ落とし穴」😊


お盆のお休みを終え、皆様、大変お忙しくされていることと思いますが、くれぐれもご自愛ください。
お盆中もお仕事をされていた方々は、お疲れが出やすい頃と存じます。少しでも心身を休めるお時間ができますことを願っております。
さて、本日のオフトークでは、最近よく耳にする「病院の集約化」について、皆様と一緒に考えてみたいと思います。
複数の病院を統合すれば、患者さんにとっては病院が遠くなり、不便になる場合があります。一方、それによって病院の赤字を減らし、医療従事者の過労を防ぎながら、より質の高い医療を、より多くの患者さんに提供できるのであれば、私も「集約化」そのものに反対ではありません。
しかし、本当にそのようになるのでしょうか?
😊そもそも「集約化」はなぜ始まったのでしょう?:
何事を考える時にも、歴史を振り返ることは重要です。
そこで、医療政策として「集約化」がどのように登場し、現在に至ったのかをチャッピー君に質問してみました。
『現在の「病院の集約化」は突然出てきた政策ではなく、1980年代から続く病院再編政策が、2000年代に医師不足対策と結びつき、2020年代に人口減少・医療従事者不足への対応として全面化してきたものと見るのが適切です。』という答えが返ってきました。
ここで重要なのは、「医師不足への対策」として集約化が前面に出てきたことです。
特に大きな転換点となったのが2005年です。小児科や産科の医師不足・偏在が深刻になったことから、国は「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化」を推進するようになりました。
つまり、簡単に言えば、
「医師が足りないのであれば、医師を一つの病院に集めよう」
という考え方です。
私たちがこの活動で改善を求めている、がん診療や血液疾患診療でも「集約化」が謳われるようになっています。その背景には、地域における専門医不足や専門医の偏在があることは間違いないでしょう。
そこで、一つの重要な疑問が生じます。
専門医そのものを増やす対策が十分に行われないまま、病院の集約化だけを進めたら、いったい何が起こるのでしょうか?
😊実際の「集約化の成功例」から考えてみましょう:
病院集約化の成功代表例の一つとして知られているのが、兵庫県立はりま姫路総合医療センター(「はり姫」)です。統合後3年半の実績について、現院長自身が2026年の論文で報告しています。
「はり姫」は現在、736床、医師約300人、看護師約1,000人、総職員約2,500人という巨大病院になっています。外来患者は1日約1,300人。手術は月約800件。救急搬送も月約700件に達し、病床稼働率は90%を超えています。医療を提供する能力は大幅に増えました。
一見すると、まさに「集約化の大成功」です。
ところが、この論文には大変興味深いことも書かれています。
患者さん、手術、救急診療が大幅に増えた結果、月80時間を超える時間外勤務を行っている医師が多数存在し、統合前の2病院と比較しても、新病院では医師の時間外労働が増加傾向にあるというのです。AIを含むさまざまなDXを導入しても、時間外勤務は減少していないと報告されています。
これは、病院集約化を考えるうえで、とても重要な事実です。
つまり、
集約する
→ 患者さんが増える
→ 手術・救急・高度医療が増える
→ 医療従事者も増員する
→ それでも患者さんの増加に追いつかない
→ 医療従事者の負担が増える
ということが、実際に起こり得るのです。
😊「病院を一つにすれば効率が上がる」とは限りません:
そもそも、集約化の受け皿となる基幹病院は、その地域ですでに最も忙しく働いている病院であることが少なくありません。そこには、もともと大きな「余裕」があるわけではありません。
その病院に、周囲の病院からさらに患者さんが流れ込んできます。
すると、
手術室が足りない。
麻酔科医が足りない。
ICUが満床になる。
看護師が足りない。
病理診断が追いつかない。
画像診断が追いつかない。
薬剤部の仕事も増える――。
ということが起こり得ます。
つまり、
「病院は集約された。しかし、患者さんを診療する能力は、それに比例して増えなかった」
という事態です。
そうなれば、そのしわ寄せを受けるのは、そこで働く医療従事者だけではありません。
現在でも長い患者さんの待ち時間が、さらに長くなる可能性があります。
残念ながら、「はり姫」については、外来や手術の待ち時間を統合前後で比較できるデータを、私は見つけることができませんでした。
😊建物は移せても、「人」は簡単には移せません」:
もう一つ忘れてはいけない問題があります。
病院を統合したからといって、そこで働いていた医師、看護師、薬剤師、技師などが、全員そのまま新しい病院へ移ってくれるとは限りません。人間は、病床や医療機器のように簡単に移動できないからです。
それまで働いていた病院と、集約後に働くことになる病院が50 km離れていたとしたら、皆様ならどうされるでしょうか。通勤時間、子育て、介護、配偶者の仕事などを考えて、「転勤は難しい」と考える方がいても不思議ではありません。
患者さんは集約先へ移った。
しかし、そこで働く医療従事者は同じ割合では移らなかった。
もしそうなれば、集約先の病院にはさらに大きな負荷がかかります。
😊そして最大の問題――「誰がお金を払うのか?」:
さらに重要なのが、増員する医療従事者の人件費を誰が負担するのかという問題です。患者さんが増えれば、それに対応する医師、看護師、薬剤師、技師、事務職員なども必要になります。しかも人件費は、新病院を建設するときに一度だけ必要になるお金ではありません。毎年、継続して必要になるお金です。
ところが、統合の対象となる病院は、集約化の中心となる病院を含め、すでに厳しい経営状態に置かれている場合があります(詳しくは6月28日に配信した「オフトーク#1:がんセンターや大学病院が赤字になるのはなぜ?」をお読みください)。そのため、赤字病院と赤字病院を統合し、さらに巨額の新病院建設費と人件費が加われば、統合しただけで経営問題が解決するとは限りません。国もこの問題を認識しており、「病床機能再編支援事業」など、公費による支援制度が設けられています。
しかし、ここまでの議論をまとめると、国も問題は認識している。人材確保策も検討している。しかし、患者さんが増える
→ 必要な医療従事者数を計算する
→ 必要な人数を新たに雇用する
→ その人件費を将来にわたって保障する
という一連の仕組みが、まだ十分に見えてこない――。私は、これが現在の病院集約化政策の大きな課題だと考えています。
😊そして、もう一つ不思議なことがあります:
日本の公立病院の統合後の評価を見ると、病床利用率、救急搬送件数、救急応需率、手術件数、外来患者数、医師数――。こうした数字はかなり詳しく公表されています。
ところが、患者さんにとって極めて重要な、
「手術まで何日待ったのか」
「初診から治療開始まで何日かかったのか」
「専門外来の予約を取るまで何週間待ったのか」
といった、「患者さんがどれだけ待たされたのか」を示すデータは、ほとんど体系的に公表されていません。私は、これはかなり重大な問題だと思います。
病院集約化の成否を評価するのであれば、「病院を何施設から何施設に減らしたか」だけを見ていてはいけません。少なくとも、次の4つをセットで考える必要があります。
1) 集約によって、基幹病院に何人の患者さんが新たに流入するのか?
2 その患者さんを安全に診療するために、医師・看護師・薬剤師・技師などが何人追加で必要なのか?
3) その人たちを継続して雇用するための人件費を、誰が恒久的に負担するのか?
4) 外来・手術・救急の待ち時間や、医療従事者の労働時間が悪化していないことを、誰が検証するのか?
この4点を示さないまま、「病院を集約すれば、医療を効率化できる」と考えることには危険があります。
なぜなら、その陰で、
「患者さんが以前より長く待つようになっていないか」
「医療従事者が以前より疲弊していないか」
という、医療にとって最も大切な問題を見落としてしまう可能性があるからです。
繰り返しとなりますが、私は「集約化」そのものに反対しているわけではありません。しかし、「専門医が足りないから、病院を集約する」だけでは、専門医不足そのものは解決しません。
むしろ、専門医不足への対策と、集約先の病院への十分な人員・財政支援を同時に行わなければ、「医師不足を解決するための集約化」が、集約先の医療従事者をさらに疲弊させるという逆説が起こる可能性さえあります。
以上をお読みいただいて、皆様は、「専門医不足を理由に集約化を進める」政策について、どのように思われたでしょうか。
この問題は、すでに全国各地で起こり始めています。私たちの活動の要望書にも、この問題を新たに書き加えたいと考えております。
ぜひ、患者さん、ご家族、医療従事者、そして地域に暮らす多くの皆様からご意見を伺えればと思います。お気づきの点やご経験がございましたら、ぜひお気軽に下記の連絡先までご意見をお寄せください。
署名サイトURL: https://c.org/wNtJ4MWsWD
一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」代表)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています](なお、このオフ・トークの内容はあくまで一戸個人の見解であり、本署名活動のサポーター方々や後援団体の立場を表明するものではありません。)