我らが聖典、井手英策教授の「ベーシックサービス: 「貯蓄ゼロでも不安ゼロ」の社会」(小学館)が文庫で出ているようです。改めて再読してみるとスウェーデンの経済学者ミュルダール(夫)の「消費の社会化」が思い浮かびました。生活する上で必要な教育・医療・介護などのサービスやモノの消費(特に子供に関すること)を国がサポート(社会化)するというミュルダールの考えはベーシックサービスに通ずるものがある気がします。ただミュルダールは少子化による人口減少が消費と投資の減少につながり失業と貧困という結果をもたらすから子供を増やす国のサポートが必要という考えです。それに対し井手教授は少子化などの人口問題は関心が薄いように思えます。少子化対策をして子供が増えれば介護・医療などの労働力不足などの社会問題が解決するというような社会の都合ではなく私たち個人の誰もが最低限満たされるべきニーズに公平に応える公的サービスがベーシックサービスなのです。解決すべき問題と方法が同じですが目指しているものが違う。
ベーシックサービスによって何がもたらされるかというと「ライフセキュリティ社会」が実現されるというのです。そこでは人々が「支えあい」「信頼しあえる」社会で必要な税負担も分かち合えてベーシックサービスの実現が可能であるという一種の好循環社会です。
そのためにはわれわれの現状の「税負担という助け合いをしない」という意識の変化で社会を変える必要があります。必要な税負担を社会が許容し生み出された財源で積極財政をやり生活していくうえで必要なモノやサービスを今手にしていない人へ行きわたるという再分配を行う。
やはり井手教授は性善説の人だと思いました。そしてこれでは世の多くの人に消費税増税の必要性を納得してもらうのは難しいと思いました。わたしは基本性悪説の人間なのでオンライン署名の内容も飴(インセンティブ)と鞭(増税)はセットでないと受け入れないとしてあれこれ提案しています。消費税増税と負の消費税という負担軽減。あるいは大学の無償化はそのメリットがない同世代の勤労者の税・保険料の免除、などしないと受け入れられないと考えています。しかし全世代のすべての人が納得するようなものではまだない、こう言っては何ですがオンライン署名はまだまだ未完成なところがあり今後もブラシュアップしていくつもりです。そのため消費税増税の増税分をすべての世代に不公平感無く再分配することができる提案を思いつけることがあれば今後も盛り込んでいきたいですし皆様からもご提案などあればぜひコメント欄にお願いいたします
〇MMT(現代貨幣論)批判と投資の社会化
井手教授は単行本の時点(2021年)でMMTについてかなり批判的なことを書かれています。しかし今はすでに一部の信者以外にはオワコンになっているMMTへの批判は死体蹴りに等しいでしょう。MMTが有効なのは強い貨幣という条件がないとだめで、かつて日本のMMT信者はすでに通貨安になりつつある「円」を過信しすぎていた。もしくはアメリカの学者が強いドルという前提を当たり前としていたのに日本のおっちょこちょいさんが持ち込んだ際に抜け落ちてしまったように言えます。インフレ・通貨安・人口減少・膨大な国債残高という日本でさらに国債を大量に発行し円安が進めばアメリカと違って燃料や食料をなど外国から輸入せねばならない庶民の生活に関わるモノの値段がさらに上がるでしょう。そんな窮乏生活を国民が強いられても輸出産業が必ずしもシェアをとれるわけではないのからあまり日本経済にプラスにならないでしょう。円安が進んでも海外の工場が国内に戻ってくるわけでもないしそもそもどこも人手不足なのに戻ったところで人が集まらないでしょう。
MMT信者はやたら貨幣や租税について自分たち以外が正しい認識を持っていないから日本経済が良くならないみたいなことを述べています。なかでも経産省の幹部N氏の財務省の役人が間違った考えを持っているから日本経済がダメなのだというようなことを言っています。しかしこれは経産省の役人による財務省への責任のなすりつけでしかないと思います。N氏の所属する経産省にも相当程度日本経済が成長しないことの責任があるはずです。まずN氏は経産省における自己批判が必要ではないでしょうか。
ついでに言えばMMT信者は、目の敵にする主流派経済学者の貨幣論は間違っている、何故ならMMTの貨幣論と違うから、ハイ論破。みたいな感じの意見が多すぎます。
しかしこれはMMTのもとになったケインズ経済学においてケインズ亡き後にイギリスとアメリカのケインズ経済学者間の「正当な継承者」争いのようなものです。イギリスのケインズ学派にすればサミュエルソンとか学生に媚びるかのように単純化・図式化してケインズ経済学を勝手に「改変」している。イギリスのケインズ学派の批判は相当程度妥当だと思います。(イギリスのケインズ学派のジョーン・ロビンソンなどの批判が正しいという前提で)しかしそんな「間違った」経済学者たちが経済学会を支配するアメリカが経済成長しているのにイギリスの「正しい」ケインズ経済学者たちは「イギリス病」の治療に何の役にも立ちませんでした。MMTのいう正しい貨幣観や租税観を日本人がみな持ったら日本経済が良くなるとは思えません。多分正しい正しくないではなく捉え方の違いでしかないのですから。
MMT(というかその前提のケインズ経済)は景気が良くなれば貧困などの社会問題が解決できるとしましたがそうではないというのがミュルダールというか北欧の福祉国家の経済学者です。カネにならない分野の財源をどうするのか。いくら公共性が高いといえど儲からない事業に民間は投資しません。国や地方自治体が責任をもってやらないといけない。その元手が消費税をはじめとする税金です。つまり税金とは社会への投資であるのです。税金では予算を賄えないからやむを得ず国債を発行するのですが、MMTでは国内で消化できるならいくら国債を発行しても構わないといいます。しかし事実上お金が増えることにより為替において需要と供給の法則から円安になるのは予想できなかったのでしょうか(ドルとは違うのだよ、ドルとは)。
税収が足りないから安易に国債を発行しさらなる円安を招き、結局国民生活を窮乏させるよりも経済成長しない日本で投資先がないから成長著しい海外へ投資(つまり事実上、円を売ってドルを買う)する「資産に余裕のある層」に「富裕税」を課すほうが経済格差是正と国内にお金を回すことにつながるのです。

