

昨年12月の社会福祉法人グローのハラスメント防止対策外部評価委員会 「検証報告書」の公表および記者会見を受けてコメントを出しましたので、長文ですが是非ご一読下さい。
社会福祉法人グロー(以下「グロー」)が北岡賢剛理事長(当時)による性暴力とセクシュアル・ハラスメントから労働者を守る安全配慮義務の違反を問われた裁判で、2024年10月24日に損害賠償を命じる判決が下されました。これをうけ、グローは2024年12月26日、ハラスメント防止対策外部評価委員会(以下「外部評価委員会」)を設置し、2025年4月より訴訟事案発生の原因・背景、組織的課題の検証を委嘱していました。約8ヶ月を経て、2025年12月3日に検証報告書がグローに提出され、12月8日付で公表、12月9日にグローによる記者会見が行われました。
当会は、北岡賢剛氏、グロー、滋賀県に性加害の告発に向き合うことを求めて2024年2月から署名を募り、グロー及び滋賀県に署名を提出するとともに複数回にわたり申入れを行って、第三者委員会設置による徹底した検証を求めてきました。その立場から、外部評価委員会による検証報告書およびグローによる記者会見の内容について、コメントを公表します。
なお、コメント中で言及した主な文書は末尾に関連文書として一覧を示しました。
目次
1.外部評価委員会による検証報告書について
1-1 原告や退職者の声を一切聞こうとしていない
1-2 検証にあたっての基準や定義が不明確
1-3 公表されている情報からもわかる重要な事実の見落とし
1-4 新事実を摘示しながらも問題を指摘せずにむしろ評価
1-5 原因・背景を意識の問題に矮小化し、組織上の問題は無視... 5
2.記者会見について
2-1 外部評価委員会が記者会見をするべき
2-2 グローが北岡氏に損害賠償請求をすることについて
3.滋賀県の対応について
4.改めて国際基準に則った検証を強く求めます
関連文書一覧
1.外部評価委員会による検証報告書について
原告は、判決確定後の2024年12月3日に牛谷理事長(当時)から謝罪を受けた際、「グローからは独立した第三者委員会で、今回の事案を検証しなければ原因究明と再発防止にならない」と伝えていました。それに対し、牛谷前理事長は、「今のところ第三者委員会を設置する予定はない。今後は、外部評価を機能させる」と回答したとされます。この度の検証を行った外部評価委員会は、牛谷前理事長が2024年12月26日に設置したものです。
当会は、原告の思いを受け止め、2025年5月9日のグローへの申入において第三者委員会設置による検証を強く求めました。5月20日の当会との対話において、久保理事長は、前理事長の方針を踏襲せずに「外部評価委員会には、日弁連の第三者委員会ガイドラインに則って事案の検証をお願いしている」旨述べたため、当会では検証結果が出ることを見守って来ました。
ところが当初予定されていた9月末になっても検証結果が出ず、2ヶ月の延期が発表されました。しかも、その時点で原告へのヒアリングすら行っていないことがわかったため、2025年10月25日に公表した声明「社会福祉法人グローにおける性加害裁判・判決から1年にあたって」において、訴訟事案の検証はもちろんのこと、原告以外のセクハラ・パワハラ被害者の存在も想定した幅広いヒアリングやホットライン設置を通じた実態把握と検証を、日弁連第三者委ガイドラインに厳密に基づいて行ってはじめて、グローの信頼回復は果たされると改めて強調しました。
しかし、2025年12月8日に公表された検証報告書は、およそ検証の名に値しないものでした。12月9日に行われた記者会見でも、当会メンバーの質問に対し、久保理事長は外部評価委員会から渡されたメモを読み上げる形で「日弁連ガイドラインとは目的が異なる」「委員会はグローのハラスメント対策を外部の視点で評価することを目的としてされた委員会であり、その目的を果たす一環で事案の検証を行った」旨の回答をしました。すなわち、2024年12月3日に牛谷前理事長が原告に対し「第三者委員会を設置する予定はない」と回答したところから結局一歩も進んでいなかったことが、1年も経って明らかになったと言わざるを得ません。
原告も2025年12月12日に発したコメント(文書③)で「原告の思いや、判決が示した組織全体の問題点に真正面から向き合ったものとは到底思え」ないとして、「深い落胆」を表明しています。また、裁判が「単に加害を認めさせるためのものではなく、組織が変わるきっかけを作るため」であったが、検証報告書はそのような原告の期待を裏切る内容であったと述べています。
以下、検証報告書に具体的に言及しながら問題を指摘します。直接引用した文言は太字にし、公表版では墨消しで伏せ字となっている役職者名は顕名としました。
1-1 原告や退職者の声を一切聞こうとしていない
外部評価委員会は、「事案の事実関係は確定判決の事実認定に依るもの」(p.3)とする検証指針により、原告・鈴木朝子さん(仮名)および北岡賢剛氏へのヒアリングは実施しない(p.5)としています。しかし「元理事長の元職員に対する性加害・ハラスメント事案」の「発生の原因・背景を検証するとともに、組織的課題についても検証」するという外部評価委員会の目的は、不法行為の有無を判断する裁判の目的とは異なります。原告がグロー在職時に救済されなかったことの原因・背景は司法の場ではわからないことであり、外部評価委員会がその目的に沿って検証するのであれば、原告にヒアリングする以外に方法がないはずです。裁判で認定された事実関係は判決に依るとしても、外部評価委員会の目的を遂行するためにも原告へのヒアリングは、「一丁目一番地」、必要不可欠のはずです。
また、原告の木村倫さん(仮名)の事案に至っては、そもそも検証委員会が検証する対象にもしていません。しかし木村さんはグローの前身である滋賀県社会福祉事業団時代に、北岡氏の部下として働いたことがあり、その当時からハラスメントを受けていたことが判決で明らかになっている以上、当然にヒアリングをした上で、社会福祉事業団時代から長年放置されてきたことの構造的な問題を検証するべきです。
さらに外部評価委員会は、役員は退いた者もヒアリング対象としながら、職員については現職のみを対象としており、原告を含む退職者はヒアリングの対象としていません。また、「職員ホットライン」が2025年9月になってようやく設置されたようですが、これも現職の職員にしか通知されていません。このホットラインは何についての情報提供を求めるホットラインであったのか、何件の情報提供があったのかすら、検証報告書には書かれていません。12月9日の記者会見での質疑により、何も情報が寄せられなかったことがその場でようやく明らかにされたという次第です。
2022年1月31日付「社会福祉法人グローのハラスメント裁判開始から1年」(障害者ドットコム)で、グローの「企画事業部文化芸術推進課」の元職員らを対象にハラスメント行為の有無や内容について退職者有志が行った調査結果の一部が報道され、誰でも知ることができます。この記事で言及されている調査結果は裁判で証拠提出されました。原告のコメント(文書③)もこの退職者有志による調査結果を外部評価委員会が無視していることについて、次のように強い言葉で批判しています。
「特に、外部評価委員会による検証範囲が極めて限定的であり、被害者や当時の職場環境を知る元同僚たちの声が一切反映されていない点には、強い失望を禁じ得ません。外部評価委員会からは原告に対してヒアリングの意向を確認する働きかけはありませんでした。裁判で、原告が在籍した期間(2012年4月~2019年8月)に企画事業部文化芸術推進課に在籍し、既に退職している方(原告を除く21人)を対象とした「ハラスメント実態調査報告書」を証拠提出しました。この調査には全体の67%にあたる14人(正規職員の回答は100%)が回答し、「セクハラを見聞きした」と回答したのは77%、「パワハラを見聞きした」と回答したのは100%に達しています。当時の組織の実態を如実に示すこの資料ですが、今回の外部評価委員会では検証対象から除外されていたことに驚きを隠せません。」
外部評価委員会は、「検証に必要と考えられる資料を可能な限り広く収集」したとしていますが、この退職者有志の調査結果やそれを報道した記事、原告の記者会見の内容などの資料をすべて縦覧したとは考えにくい上に、ヒアリングも実施していないという根本的な問題があります。なお、当会は2025年5月20日にグローに申し入れに行った際には、原告を含む退職者へのヒアリングは必須であると強く主張し、そのことを外部評価委員にも伝えてほしいと久保理事長に伝えました。
1-2 検証にあたっての基準や定義が不明確
検証報告書には「検証の指針」(p.3)が示されていますが、ここには検証にあたっての基準や定義は何も書かれていません。例えば2025年3月31日に公表されたフジテレビの第三者委員会調査報告書では、検証の基準を「国連指導原則等の国際人権基準が求める企業の人権尊重責任、特に人権救済メカニズムの観点から検証」すると明示した上で検証しています。国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」は、国や県も企業に遵守を呼びかけているものであり、今回の検証で参照する基準としてふさわしいはずです。
同様にフジテレビの第三者委員会調査報告書では、セクシュアル・ハラスメントや性暴力についても定義を明確にした上で検証しています。特に性暴力については、世界保健機構(WHO)が公表している「World Report on Violence and Health」(2002年)の「性暴力(Sexual Violence)」についての以下の定義を参照しています。
「強制力を用いたあらゆる性的な行為、性的な行為を求める試み、望まない性的な発言や誘い、売春、その他個人の性に向けられた行為をいい、被害者との関係性を問わず、家庭や職場を含むあらゆる環境で起こり得るものである。また、この定義における「強制力」とは、有形力に限らず、心理的な威圧、ゆすり、その他脅しが含まれるもので、その強制力の程度は問題とならない。」
裁判で事実認定された北岡氏の行為は、ホテルでの事件だけでなく、日常的な「性的な発言」「個人の性にむけられた行為」も含めてこの性暴力の定義に当てはまるものばかりです。
一方、グローの外部評価委員会による検証報告書は、性暴力やセクシュアル・ハラスメントの定義を行わないまま、委員会が「認定した事実」として北岡氏の「常習的なセクハラ行為」の言動を8つ列挙した上で(p.11-12)、それらを「環境型セクハラに該当すると認められる」としています(p.12)。しかし、列挙された行為の多くは上記のWHOの定義に従えば性暴力です。
1-3 公表されている情報からもわかる重要な事実の見落とし
検証報告書の「Ⅳ 検証の結果確認された事実関係」(p.10~15)では、原告の意見陳述等、公表されている情報からもわかる重要な事実が見落とされています。例えば、「2 北岡元理事長のセクハラ行為に対するグロー内部の反応」(p.12)において、「職員から抗議の声が上がったり、相談窓口に相談がなされたことはなく」とありますが、原告の鈴木朝子さんの意見陳述で、在職中に「理事長のセクハラは目に余るから注意すべき」と上司に訴えたが対応してもらえなかったとしています。このような点こそ原告へヒアリングし、当時、鈴木さんがかろうじてあげた「抗議の声」がどのように無視されたのかを検証すべきです。それをせずに、どうやって再発を防止するのでしょうか。1-1で指摘した通り、外部調査委員会が原告へのヒアリングを不要と判断したことの誤りがここに顕著に露呈しています。
1-4 新事実を摘示しながらも問題を指摘せずにむしろ評価
検証報告書の「Ⅳ 検証の結果確認された事実関係」の「4 本事案に関するグローの対応状況」(p.13~15)には、グローの内部資料調査に基づいて、少なくとも一般には知られていなかった事実が摘示されています。例えば提訴がなされた2020年11月13日に渡邉光春代表理事(当時)名で次のような「職員へのメッセージ」を発出したとされています。
「一方的に当法人及び理事長に対する糾弾がなされておりますが、当法人としては、訴訟において毅然として対応していく所存です。皆さまには、うわさレベルの誹謗中傷が耳に入る可能性がありますが、動揺することなく法人理念に基づく真摯な利用者様への対応を続けていただきますようお願いいたします。」
続けて、2020年12月7日にも渡邉光春代表理事名で施設長会議に向けて次のメッセージが発出されたとしています。
「私たちは法廷において①理事長による不法行為についてはその真偽を、②安全配慮義務違反については原告在職当時の法人の規定の実効性及び職場環境について事実確認を進めて争っていきます。」「訴訟を抱え今後も報道等で法人、理事長を中傷するような記事が出る可能性がありますが、私たちが提供するサービスを必要とする皆さまに日々、真摯に向き合っていただきますようお願いいたします。」
同じ時期に、北岡氏が理事を務めていた愛成会(もう一人の原告・木村倫さんが所属)では、評議員会が北岡氏を擁護した理事を解任する決議をしていたこととはあまりにも対照的な組織対応であり、性暴力とハラスメントに苦しんで退職した元職員の必死の訴えに耳を傾けるつもりが全くなかったことがよくわかります。
ところが、続く「Ⅴ 当委員会の検証結果」では、事案認識後のグローの組織としての対応におけるこのような問題点については全く検証していません。「法人の事業を守ることに注力」した結果、職員(原告のことではなく、当時グローに在職していた職員のこと)に対して「真摯な状況説明がなされていたとは言い難く、施設利用者と直に接する職員は、業務において多大な心理的負荷を被ったうえ、組織に対する不信感を抱かせることにもなった」と述べていますが、「誹謗中傷」などの原告への二次加害については全く触れていません。それどころか、グローは事案認識後にハラスメント対策委員会を立ち上げて体制整備に取り組み、その後も継続的に改善がなされているとして「これらの対応は評価に値する」とまで述べています。
1-5 原因・背景を意識の問題に矮小化し、組織上の問題は無視
検証報告書は、「はじめに」で「検証においては、本件事案に対し、法人として誰も北岡理事長にものが言えないような組織の状況にあったのかどうか、また組織的に黙認するということにしてきたのかどうか、そうでないとすれば、なぜ本件事案の発生に気づくことができなかったのか」(p.1~2)という問いを設定しています。その検証結果は「Ⅴ 当委員会の検証結果」の「第1 本事案が発生した原因および背景」(p.16~17)に示されていると思われますが、北岡元理事長の規範意識の欠如、役職員の危機意識の鈍麻の2つしか指摘していません。そればかりか、組織上の問題はむしろ無かったかのような評価を下しています(p.17(4)(5))。
まず「誰も北岡理事長にものが言えないような組織の状況にあったのかどうか」に対応する内容としては、「業務で北岡元理事長に接する役員及び職員が、権威に対する畏怖心から北岡元理事長に対してものを申すことができないというような状況があったという事実も確認されなかった」(p.17)としています。1-1で指摘したように、退職者有志の実態調査報告書では企画事業部の退職者14名全員がパワハラを認知していたとされています。また、判決後の2024年11月28日に行われた記者会見において、牛谷前理事長自身が、「被害を防げなかった原因として、前理事長に権力が集中しすぎていた可能性」を指摘していました。しかし外部評価委員会による検証結果では、「権力が集中しすぎていた可能性」の指摘すらなく、むしろそのような問題は無かったと結論付けたに等しいです。また、牛谷前理事長は、報道を「一方的糾弾」としながらも判決まで説明責任を果たさなかったことについて、記者会見で誤りを認めていました。外部評価委員会はこのことに関しても何ら言及しておらず、牛谷前理事長の記者会見当時よりも後退しているとも言えます。
原告の鈴木朝子さんは、他ならぬこの記者会見での牛谷発言を受けて、「これらの原因について『可能性』と推測しかできないのであれば、グローからは独立した第三者委員会で、今回の事案を検証しなければ原因究明と再発防止にならないと思います」と指摘されていました。ところが、今回の外部評価委員会は、原告や退職者の声も聞かないまま、限られた「関係者」にだけヒアリングを行って、牛谷前理事長が述べたような問題さえ「無かった」かのような検証報告書を出したのです。
続いて検証報告書は「グローの指定管理事業や施設管理事業に関する内部統制やガバナンスについては、代表理事の関与や経営会議での協議等、組織として業務の適性を確保するための体制は整えられており、それが機能していなかったなどの問題点は見受けられなかった」(p.17)ともしています。「Ⅶ 結語」でも再度「組織の内部統制やガバナンスについて大きな問題となる部分は見当たらなかった」(p.21)としており、企画事業部の業務過多には多少の問題があったが、事案発生前も事案把握後も大きな問題はなかったというのが外部評価委員会の評価なのでしょう。全く理解に苦しみます。
検証報告書「第2 グローにおける内部統制・ガバナンス体制」「2 意志決定のしくみ」(p.7)によれば、日常的な判断(意志決定)は理事長と業務執行理事が行っており、経営判断や法人経営に関する協議は、理事長(北岡賢剛氏)、代表理事(渡邊光春氏)、副理事長(牛谷正人氏)、理事(どの理事かは不明)の4名からなる月1回の「経営会議」で行われていたとのことです。検証報告書では経営会議の議事録は収集・精査したとのことですが(p.5)、北岡氏自身および、裁判提訴後も北岡氏を擁護した「経営会議」のメンバーによる内部統制やガバナンスに何の問題も見いだせなかったのでしょうか。例えば、1-4で述べたような提訴直後の組織対応は本当に適切だったのでしょうか。裁判中に女性活躍推進企業の認定申請をしたことも適切だったのでしょうか。当時代表理事だった渡邊光春氏は、外部調査委員会によるヒアリング協力依頼に応じなかった(p.5)とされ、その理由は明らかにされていませんが、極めて不誠実だと言わざるを得ません。そのことも含め、グローの内部統制・ガバナンス体制に何の問題もなかったという検証結果は妥当なのでしょうか。
「2 意志決定のしくみ」(p.7)でわかるのは、グローの意志決定は北岡氏および北岡氏と親しい、年配の男性のみによって日常的に行われていたということです。「経営会議」だけでなく、理事会や評議員会も北岡氏の親しい者のみで構成され、裁判提訴当時、理事会は監事を除き全て男性でした。このようなホモソーシャルな組織構成であったことが、事案把握後も愛成会のような自浄作用をもたらさなかった背景として容易に指摘できます。すなわち、愛成会では、2017年の社会福祉法人法改正で理事会を牽制する役割を持たされた評議員会がその機能を発揮し、ハラスメント事案に関わった理事を評議員会の権限で解任した上で、ジェンダーバランスを考慮した新理事体制を速やかに構築し、被害者を守る側に立ちました。一方のグローは、北岡氏は解任されることなく任期満了まで理事に留まり、1-4で前述の通り原告の告発やメディアの報道を「誹謗中傷」「一方的な糾弾」などとする文書を内外に発しました。このような組織の構造的な原因・背景について、外部評価委員会は一切検証していません。グローの記者会見資料(文書②)では、組織の構造的な問題について言及する箇所がありますが、外部評価委員会が指摘してもいない問題について「受け止め」を綴るという奇妙なことになっています。
2.記者会見について
2-1 外部評価委員会が記者会見をするべき
2025年12月9日にグローの久保理事長、北川理事(業務執行理事)による記者会見が行われましたが、外部評価委員会の検証報告書の内容については、外部評価委員が直接記者会見を行うべきであったと考えます。検証報告書の内容の公表を受けた記者会見であるにもかかわらず、検証報告書の内容にかかわる質問をしても、「外部評価委員ではないので答える立場ではない」ということの繰り返しでした。今からでも、外部評価委員会による記者会見の開催を求めます。
2-2 グローが北岡氏に損害賠償請求をすることについて
12月9日の記者会見において、久保理事長は、グローが裁判に敗訴して原告に支払った賠償金額や裁判費用について、北岡氏に損害賠償請求をすると唐突に明らかにしました。しかし、グローが原告に賠償したのは、北岡氏ではなくグローが安全配慮義務違反の責任を問われたからであって、それをグローが北岡氏によって被った「損害」と見なすというのは非常識です。また、裁判費用については、裁判で原告への二次加害になるような意見陳述までしながら最後まで争う姿勢で臨んだのは、他ならぬグローです。そのような裁判提訴後の組織対応への検証も反省もないままに、裁判に要した費用を北岡氏に損害賠償請求するというのは、いったいどういうことでしょうか。記者会見ではこのことに記者達の質問が集中し、久保理事長は「組織としての責任は重く受け止めている」としながらも、非常識な判断であるということを理解できない様子でした。このような発言は、久保理事長一人の個人的な考えではないはずで、理事会で話し合った上での発言だと思われます。久保理事長およびグローの理事の皆様は、原告がなぜ北岡氏とは別にグローを被告として訴えたのか、その思いに真摯に耳を傾けることから始めていただきたいです。
3.滋賀県の対応について
滋賀県は2024年6月に「対応の振り返り」を公表しました。この問題点については、2025年10月25日に「社会福祉法人グローにおける性加害裁判・判決から1年にあたって」で指摘しました。ここでは、滋賀県が「信頼回復に向けた真摯な取組が確認できない場合等は、入所者のケアに配慮しつつ、厳正に対応していく」としていたことに関連して述べます。何をもって「信頼回復に向けた真摯な取組」と見なすのか、判断基準が示されていませんが、上記に述べたような問題だらけの検証報告書と記者会見で、滋賀県は「真摯な取り組み」と見なすのでしょうか。他ならぬ原告が「深い落胆」を表明しているような検証報告書を持って「幕引き」とするのでしょうか。滋賀県の対応も注視していきたいです。
4.改めて国際基準に則った検証を強く求めます
原告の木村倫さんは、2024年11月に北岡氏の控訴を受けて、次のようなコメントを出しました。
「私は、原告2〔鈴木朝子さんのこと ― 引用者〕や私のような被害が繰り返されないように、恥辱的な被害を世間にさらす覚悟で、原告2とこの裁判に立ち向かってきました。それは、「ここではない社会」で生きたいという切実な願いと、そうした未来への進化を強く希望するのが、自分の尊厳を取り戻すための私の意思であるからです。」
グローおよび外部評価委員会は、今回の検証報告書と記者会見で、原告が切実に求めた「ここではない社会」に進化させることができると自信を持って言えるのでしょうか。このことは、2025年6月に「対応の振り返り」を公表した滋賀県についても同様です。
当会は2025年10月25日に出した「社会福祉法人グローにおける性加害裁判・判決から1年にあたって」でも、グローと県に「ビジネスと人権に関する指導原則」に照らした真摯な検証を行うように求めましたが、原告が尊厳を取り戻すことができたと言える「ここではない社会」に近づくために、改めて国際基準に則った検証を強く求めます。
フジテレビの問題においては、問題を検証し組織が生まれ変わるためには当初の記者会見が極めて不十分だったことから、第三者委員会による検証後に委員会の記者会見が行われ、そのうえでフジテレビの再度の記者会見が行われました。
12月9日のグローの記者会見の状況を踏まえると、まず外部評価委員会は「日弁連の第三者委員会ガイドラインに則っ」たものではなかったとグロー自ら認めたわけであり、また、それだけに上述したように真の検証という点では様々な問題点があるものですので、この度の事案についての滋賀県とグローの両方の対応を「ビジネスと人権に関する指導原則」に照らして検証を行う第三者委員会の設置が改めて必要だと考えます。そのために委員の選任や費用の負担等の課題があったとしても、それは、再出発のために必要なコストです。
それをせずして、グローの組織的な生まれ変わりはあり得ないし、原告が求めた「ここではない社会」への一歩にはならないと強く表明するものです。
関連文書一覧
◆社会福祉法人グロー「ハラスメント防止対策外部評価委員会の検証について」
① 社会福祉法人グローハラスメント防止対策外部評価委員会「検証報告書」(2025年12月3日)
② 社会福祉法人グロー「資料提供:社会福祉法人グローハラスメント防止対策外部評価委員会による訴訟事案に関する検証結果を受けた法人の受け止めと今後の対応について」(2025年12月9日)
◆Dignity for All -社会福祉法人役員による性暴力・ハラスメント裁判の原告を支える会- #ただふつうに働きたかった
③ 原告 鈴木朝子(仮名)さんのコメント(2025年12月12日)
④ 笹本弁護士のコメント(2025年12月18日)
◆社会福祉法人グローにおける性加害問題を考える会・滋賀
⑤ 社会福祉法人グローへの申入(2025年5月9日)
⑥ 「社会福祉法人グローにおける性加害裁判・判決から1年にあたって」(2025年10月25日)
⑦ 河かおる「社会福祉法人グロー前理事長による性暴力事件と『福祉先進県』レガシー」『しがの住民と自治』第402号、2025年1月15日