

2020年11月、社会福祉法人グロー(以下「グロー」)元理事長の北岡賢剛氏による長年にわたる性暴力やハラスメント被害を受けた原告2名が、北岡賢剛氏と社会福祉法人グローに対し法的責任と損害賠償を求めて提訴していた裁判(以下「グロー裁判」)で、1年前の2024年10月24日、原告の主張がほぼ認められた判決(以下「10.24判決」)が下りました。グローは控訴せず判決が確定した一方、北岡氏は控訴して裁判が続いていましたが、今年4月に控訴を取り下げ、全ての裁判が終結しました。
私たち、社会福祉法人グローにおける性加害問題を考える会・滋賀(以下、当会)は、北岡賢剛氏、社会福祉法人グロー、滋賀県に性加害の告発に向き合うことを求めて 2024年2月から署名を募り、グローおよび滋賀県に提出しました(北岡氏へは現在まで署名を届けられていません)。「10.24判決」後、当会では声明(2024.11.22)を出し、滋賀県に署名と申入書を提出(2024.11.27)、回答を受けてコメント(2025.2.16)を出しました。北岡氏の控訴取り下げで裁判が終結した後には、グローにも署名提出と申入(2025.5.9)を行いました。その後、2025年6月9日にはグローが「社会福祉法人グローハラスメント防止対策外部評価委員会による訴訟事案の検証について」を公表するとともに、6月12日には当会の申入への回答がありました。滋賀県も、2025年6月13日に「社会福祉法人グローにおける性暴力・ハラスメント事案に係る県の対応の振り返りを踏まえた今後の対応について」(以下「対応の振り返り」)を公表するなど、慌ただしい動きがありました。
当初、グローの「外部評価委員会」の検証結果が2025年9月中には出されるとされていたため、当会もその結果を見てから見解を出そうと思っていましたが、検証結果の公表が11月末まで延期されるとのお知らせが出されましたので、判決から1年の節目に、特に今年6月以後の動きを踏まえた見解と、今後に向けた声明を出すことにしました。
1.グロー、県の現在までの対応についての見解
1-1 グローの「外部評価委員会」は「第三者委員会」と言えるのか
原告は、2024年12月に牛谷前理事長から謝罪を受けた際、「グローからは独立した第三者委員会で、今回の事案を検証しなければ原因究明と再発防止にならない」と伝えましたが、牛谷前理事長は「今のところ第三者委員会を設置する予定はない。今後は、外部評価を機能させる」と回答したとされます。現在、グローが「事案の検証」を委ねているのは、この前理事長が2024年12月に設置した「ハラスメント防止対策外部評価委員会」(以下「外部評価委員会」)です。5月20日に当会がグローに申し入れた際、久保理事長は、前理事長の方針を踏襲せずに「外部評価委員会には、日弁連の第三者委員会ガイドラインに則って事案の検証をお願いしている」旨述べましたが、6月12日の当会への回答では、その旨は明言されていません。
現在までのところ、「外部評価委員会」は、原告へのヒアリングすら行っていないようであり、当会は、この「外部評価委員会」で本当に原告が求めるような日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」に則った検証が行われているのか、大いに疑問を抱いています。
滋賀県は「対応の振り返り」で、「信頼回復に向けた真摯な取組が確認できない場合等は、入所者のケアに配慮しつつ、厳正に対応していく」としていますが、何をもって「信頼回復に向けた真摯な取組」と見なすのか、判断基準が示されていません。仮にこのまま原告へのヒアリングさえ行わないまま「外部評価委員会」の検証が終了した場合、それは「真摯な取り組み」と見なされうるのでしょうか?
また、「外部評価委員会」の検証対象が「訴訟事案」に限られていることも問題です。2022年1月31日付「社会福祉法人グローのハラスメント裁判開始から1年」(障害者ドットコム)で、グローの「企画事業部文化芸術推進課」の元社員らを対象にハラスメント行為の有無や内容について退職者有志が行った調査結果の一部が報道されていますが、グローではセクハラもパワハラも蔓延していたことがうかがわれます。当会が直接・間接に把握している事例もあります。
当会は、訴訟事案の検証はもちろんのこと、原告以外のセクハラ・パワハラ被害者の存在も想定した幅広いヒアリングやホットライン設置を通じた実態把握と検証を、日弁連第三者委ガイドラインに厳密に基づいて行ってはじめて、グローの信頼回復は果たされると考えます。
1-2 滋賀県の「対応の振り返り」は検証の名に値しない
滋賀県は、6月13日に「対応の振り返り」を公表しましたが、当会が昨年11月27日の申入で求めたのは、「検証」であって、「振り返り」ではありません。この「対応の振り返り」には次のような問題点があります。
1-2-1 「外部有識者5名」について
滋賀県が意見を聴いたという「外部有識者5名」は、集まって会議を開いたわけでも、5人の責任で報告書をまとめたわけでもなく、ただ個別に各自が述べた「意見」「助言」を、誰の「意見」「助言」なのかも分からない状態でまとめたものが「対応の振り返り」です。5名が「意見」「助言」を述べる上で、県から与えられた情報・資料が何であるのかも、わかりません。例えば、指定管理者選定委員会の議事に関する資料、退職者有志による調査結果を伝える記事、原告が裁判の過程で発信していたメッセージなどは「外部有識者」に提供されていたのでしょうか。
さらに、「外部有識者」のうち、少なくとも1名は、本件に関して「外部」とは言えません。むしろ「内部」者として検証を受けるべき立場にあります。すなわち、植松潤治氏は、複数の指定管理者選定委員会の委員や委員長を務め、他ならぬ、県立むれやま荘や県立信楽学園の指定管理選定委員や委員長をした人物です(2020年度にグローを指定管理者に選定した時は委員、2023年度には1回の審議で通常通り5年の指定管理者に選定した時は委員長)。
また、「外部有識者」には、滋賀県男女共同参画審議会委員や滋賀県人権施策推進審議会委員長の肩書きの者も含まれていますが、当の滋賀県男女共同参画審議会や滋賀県人権施策推進審議会では、提訴後にも判決後にも、このような重大事案が県立施設の指定管理者に長年選定されている法人で発生してしまったことを受けて、真剣な議論が行われた形跡はみあたりません。
1-2-2 指定管理者選定について
裁判進行中の2023年度の指定管理者選定委員会で、たった1回の審議で通常通り5年間の指定管理者選定をしたことについて、何の検証もなされていません。前述の通り、その決定をした植松潤治委員長を「外部有識者」として意見を聴いている時点で、検証をするつもりがなかったことがよくわかります。また、「県立施設の指定管理者制度運用ガイドライン」等においてハラスメント対策に関する内容が盛り込まれるなどの変化は現時点でみられません。
1-2-3 女性活躍推進企業認証について
女性活躍推進企業認証について、当会は、2024年3月にグローの認証取消を申し入れましたが、その時の県の回答は「認証見直しの必要はない」でした。判決確定後の2024年12月にようやく認証を取り消しましたが、その際にも裁判中の2022年度にも認証(更新)したことが不適切であったということを、県は認めませんでした。「外部有識者」の意見を受けてようやく「認証すべきではなかった」と認めたようです。であるならば、なぜ2022年度に認証してしまったのか、なぜ2023年度に当会が申し入れた際にも「認証見直しの必要はない」と回答してしまったのか、県は検証し、その結果を原告と県民に知らせ、原告に謝罪するべきではないでしょうか。
グローが県に女性活躍推進企業に認証(更新)申請し、県が認証したのは、原告が記者会見等を通じて、県による女性活躍推進企業認証への不信感を述べ、そのことが複数の記事や動画で公開された後です。県は、原告の声を知りながら無視して認証したのか、知らなかったのかが問われます。知らなかったならば、訴訟に関する情報を県では何もフォローしないまま認証したことの不適切さが問われます。これは指定管理者選定にも言えることです。
なお、県は今年10月1日付で「滋賀県女性活躍推進企業認証基準」を改正し、「ハラスメント対策をより実効性のある取組とする工夫をしていること」を必須の認証基準としました。これでどの程度効果があるのかは疑問ですが、原告の勇気ある告発がもたらした貴重な変化だと考えます。
以上のように、具体的な事実と照らし合わせた「検証」が必要なのであり、この問題についてどのような意味で「有識」であるのかわからない「外部有識者」に意見を求めて「振り返る」だけでは、「やったふり」に過ぎないと言わざるを得ません。
2.判決から1年にあたり改めてうったえたいこと
提訴後も全く説明責任を果たそうとしなかったグローや県の姿勢からは、判決後も原告に損害賠償だけして、後は「知らんぷり」を決め込むという最悪の展開もありえた中、グローが人事を一新して「外部評価委員会」を稼働させ、県も「対応の振り返り」を実施し公表したこと自体は、評価できます。このような結果は、原告のお二人が勇気を持って告発しなければ、決してもたらされなかったでしょう。当会の署名活動も多少なりとも影響があったと信じたいです。しかしながら、1で述べたように、このままではあまりに不十分であり、グローや滋賀県への信頼回復はできません。判決から1年にあたり、改めてうったえたいことは次の4点です。
2-1 北岡賢剛氏は原告に謝罪を
北岡賢剛氏は、2025年4月の控訴取り下げ後も、原告に謝罪もしていないと伝えられています。判決で認定された性暴力についてのみならず、裁判の過程における二次加害行為も含めて、一刻も早く、誠実に原告に謝罪をすることを求めます。「グロー裁判」において、北岡氏が滋賀県社会福祉事業団(グローの前身)理事長に就任した頃から継続して性加害が行われてきたことが認定されました。このような経緯がある中で、北岡氏が既に役職を離れているからといって滋賀県やグローが無関係を決め込むのは無責任です。北岡氏が誠実な対応をとるように最善を尽くしてください。
2-2 グロー、県は国際基準に則った検証を
2024 年 7 月に策定された「滋賀県人権施策推進計画(第2次改定版)」では、「『ビジネスと人権に関する指導原則』に基づく企業活動の推進」が掲げられています。三日月知事も今年6月17日の定例会見で「世界基準に照らしたビジネスと人権に関する指導原則を改めて検討を徹底する」と述べています。日弁連第三者委ガイドラインに厳密に基づかない「外部評価委員会」(グロー)でも、検証の名に値しない「対応の振り返り」(県)でもなく、「ビジネスと人権に関する指導原則」に照らした真摯な検証を行ってください。
2-3 滋賀県で「実効的な救済へのアクセス」の仕組み作りを
「グロー裁判」の原告は、司法に救済を求める以外に方法が無いところまで追い詰められた末に提訴に踏み切りました。性暴力事件において、公開原則で行われる裁判における原告側の精神的負担はとても重く、司法以外の救済の道があることはとても重要です。2-2で述べた検証を踏まえて、「ビジネスと人権に関する指導原則」の第3章で詳しく述べられている「実効的な救済へのアクセス」の仕組み作りを滋賀県が率先して行ってください。知事自身が「徹底する」と決意を表明した「ビジネスと人権に関する指導原則」をこの点において具現化してください。
当会でも、今後、「ビジネスと人権に関する指導原則」の学習会を企画するなどして、地域での「実効的な救済へのアクセス」の仕組み作りに向けた活動を積極的に行っていきたいと考えています。
2-4 暴力が見逃される構造に加担していなかったか省察を
原告の木村倫さんは、判決後に「彼(北岡氏)の暴力を助長し、長年にわたる被害を生み出した背景には、周囲で見てみぬふりをした権力を持つ人たちにも大きな責任があると考えています。(略)私の被害を生んだのは北岡氏一人ではなく、そのような構造を許してきた周囲にも原因があります」とのコメントを出しました。
「そのような構造を許してきた」中には、滋賀県をはじめ、関係したあらゆる団体・個人があるでしょう。それぞれが、北岡氏が権力を持っていく過程や、権力を振るっている時に、ハラスメントを「見てみぬふり」をしていなかったか、裁判提訴後でさえも「見てみぬふり」をしていなかったか、不作為を通じて暴力が見逃される構造に加担していなかったか、胸に手を当てて省察する必要があるでしょう。