

※9月19日以降に出た最新ニュースによると、社名変更や新会社設立等の新たな動きがあるようですが、ここではまず9月7日に開かれた事務所記者会見をベースに内容整理を行っています。
遅ればせながら、再発防止特別チームによる記者会見・調査報告書ならびにジャニーズ事務所の記者会見を見ました。
70ページ近くの報告書を読み、4時間超の記者会見を見続けるのは非常に根気がいりましたが、この事務所記者会見は、今後の歴史を考えても非常に重要なマイルストーン(標石・大きな節目・中間地点)となるため、こつこつ作業を進めました。
ここでは、記者会見の内容から受けた私の分析を共有させていただきます。
事務所の動きはまだ始まったばかりではあるものの、正直前途多難だと感じました。
東山氏はタレントとして、あるいはジャニーズ事務所関係者にとっては信頼に厚い方なのかもしれませんが、今直面している重い問題に率先して対応すべき事務所トップとしては、明らかに不適格です。
一生懸命さや真摯さは伝わったものの、彼には事態を前に推し進める手腕はないと思います。被害者との対峙・対話や現役タレントたちを含めた業界の未来を紡ぐ改革は、道半ばで沈む可能性が大いにあると考えます。
以下、記者会見から感じた問題点を4つの要素に整理しました。
各要素ごとに章立てて、後述しています。
- 事務所として認めた性加害の重さ、事の重大さがまったく認識できていない
- 報告書を受けての話ばかりで、主体的な考えや経営者マインドがない
- 個人的・情緒的な語りばかりで、事務所としてこうするという回答がほとんどない
- 企業における基本的なガバナンスとは何かを経験的に理解している人がいない
※記者会見全体を見て抱いた印象を元にして、各要素に関連する発言箇所を抜き出しているため、恣意的な切り取りにはなっていない(=私の一方的な事前シナリオに合わせて意図的に切り取ったわけではない)つもりですが、あくまでも参考情報としてご覧ください。
※コメントの引用時は、動画の該当箇所にすぐ遷移できるよう秒数指定したリンクを貼っています。
※以降の文字数は引用部分を含め、全部で1万3,000字ほどあります。400字/分と仮定して30分強かかる分量ですが、4時間超の会見映像を見るのに比べれば少ないという捉え方もできます。内容を章立てて分類しているため、興味のある章だけでもお目通しいただけますと幸いです。
1.事務所として認めた性加害の重さ、事の重大さがまったく認識できていない
今回、最も象徴的なこととして『事務所として性加害の事実を認めた』というアクションがあったわけですが、会見の全体を通して、認めたものの大きさ・重さを理解できていないという印象を強く受けました。
1-A:そのスピード感で大丈夫だと思っているのか?
9月7日の記者会見は、大規模な性加害やジャニーズ事務所などの個別情報を除いて一般的な企業の不祥事として考えたとしても、危機管理対応やリスクコミュニケーションといった観点で、あまりにも対応がお粗末です。
- 東山氏が新社長の打診を受けたのは8月の頭とのこと(1時間36分頃)
- 東山氏
「まず提言をいただいたのが8月の29日だったと思うんですけど、そこからの作業でできることにはたしかに限界もありまして、ただやはり急ぎできることをまずしなければいけないですし、被害者の方にも会わなきゃいけないですし意見も聞かなきゃいけないですし、その中で実際何ができるのかというのを探っているのは事実です。なので、この期間にまずできることをまずしようということをですね。」(36分頃) - 東山氏
「必要であれば記者会見を開きますし、みなさんからのご意見もいただきたいなと思っています。体制が整い、で、ほんとに申し訳ないんですけど、僕も年内はお仕事があるものですから、急に8月に社長になることでありましたので、ご報告がいつになるかお知らせすることは今は難しいんですが、できる限りのことはしていきたいと思っております。」(4時間3分頃)
あまりにものんきすぎると言わざるを得ません。タレント業から身を引いて全力を尽くすというお気持ちは素晴らしいのですが、正直初動でこれだけモタモタしていては、関係者が誰一人として救われません。被害者も所属タレントもファンもエンターテイメント業界も。
就任後もしくは就任が決まった段階から、すぐに全力で100%職務にあたれる人が代表にならないとダメです。
この程度の兼務で乗り切れると思っているあたり、問題の大きさを正しく認識できていません。
- 藤島氏
「同族経営が弊害であるということは提言でも伺いましたし、それを変えていかなければならないということも認識しております。ただ、今すぐ株をどうできるかというのは簡単な問題ではございませんので、ここですぐに申し上げられることではございませんが、大変恐縮ですが今ここでいつどこでどういう風にという具体的なお話はできないまでも、検討していきたいとは心から思っております。」(28分頃) - 弁護士の木目田氏
「これから補償につきましては、提言に従って実行してまいる段階でございます。ですので、全体的な金額や具体的な補償の方法、どの財産なり資産をもって充てていくかにつきましては、まだこれから検討していく段階ですので、今の段階でご質問に対してご回答することは差し控えさせていただきたいと思っております。」(52分頃)
上記は一部の例に過ぎませんが、4時間の会見全体を通して、具体的な着手手順や優先順位・おおまかな方針・重視している項目など、とにかく具体的な話がほとんど出てこないことには愕然としました。
もちろん8月29日に調査報告書を受領してから間もないのは分かりますが、具体策は無理としても何かおおまかなベクトル(方向性)くらいは示せないのか?そういう話すらまだ内部で出ていないのか?と思わせるような応答でした。
普通はもっと前から水面下で動いて、様々な状況を想定し案を練ったり何度も話し合ったりするものです。
メディア等で毎週のように新たな情報が出ている中で、『報告書を受けて初めて考え始めました』のような姿勢では話になりません。
性加害という重大事案対応の観点からも、企業経営という観点からも、このスピード感のままではどこかで転覆すると思います。
1-B:起こった性暴力の重みと、組織を徹底改革して二度と起こさないようにする必要性を分かっているのか?
この点に関しては、会見全体を通して言えることなのですが、ここでは一例として『ジャニーズ』という社名に関しての言及箇所を引用しています。
- 東山氏
「仰る通りだと思います。
(中略)
ただやはり僕らは、ファンの方に支えられているものですから、それをどこまで変更することがいいのかということを考えてきました。本当に仰る通りだと思うので、今後はそういうイメージを払拭できるほどみんなが一丸となって頑張っていくべきなのかなと、いう判断を今はしています。」(34分頃) - 35分頃のVIDEO NEWS神保氏の質問
「社長交代と被害者への補償だけで十分と考えているのか。今回の発表のどこが解体的出直しなのか。」に対する東山氏の回答全般。 - 井ノ原氏
「犯罪者の名前ってことですよね。それはやっぱりこれからも考えていかなきゃいけないところだともちろん思ってます。思っていますけれども、今の段階でこれだけ人数がいます。17グループデビュー組でいて、Jr.だけでも10グループいます。みんなでやっぱそこは時間をかけて、変えるんだったら変える、変えないんだったら変えない、しっかりみんなの了解を得ていくのをやっぱり時間を掛けて、東山さんまだ社長になったばっかりなので、これからやってかなきゃいけないと思っています。」(4時間2分頃)
東山氏も井ノ原氏もコメントしていますが、お二人とも物事の整理や優先順位づけが間違っています。やはりどこまでも過去のことで、重大だけど現所属タレントの活動が最優先で、頑張れば今の名前のままブランディングしていける、という大きなボタンの掛け違いが見て取れます。
当時の社長が数百人以上に対して数十年間も性暴力を重ねてきたという事実がどれほど凶悪な内容で、そして事務所ごとつぶれていてもおかしくないような事態であるという認識があれば、話し合って決めないといけないなんて悠長なことは言えないはずです。
それに、BBCの放送やカウアンさんの会見があってからもう半年近く経っています。最終決定は下せないにしても、変えるとしたらこういう風に動こうという話し合いくらいはいつでもできたでしょう。
きっと彼らには『ジャニーズ』への強烈な愛着と、事態の重さを認識できない麻痺した感覚が根強く残っているのでしょう。後述しますが、やはり事務所改革は内部にいた人には無理です。あまりにも中の空気を吸い過ぎてしまっているのですから。
世間には『名前だけ変えても中身が変わらなかったら意味がない』という意見もあるそうですが、あらゆる手を尽くして過去の過ちと決別することを示さないといけない局面で何を悠長なことを言っているのでしょう。
それに、名前を変えずに中身だけ変革するなんて器用なことは実現不可能だと思います。仮にそれができたとしても、世間の理解は得られないでしょう。
たかが名前、されど名前。名前は事務所が活動を続ける限り、至るところで何万回も何億回も使われますし、聞く人のイメージや考え方にすら浸透し、想像以上に影響力を持ちます。そして何より、その名前を冠している組織の考え方を表します。ただの名前だからどうでもいい、ではないのです。
厳しいことを言いますが、東山氏についても述べておきます。
彼は自らの気持ちを語る力があり語り口も落ち着いているけれど、言っている内容はかなり表面的で、この問題の本質的な部分が分かっていない・客観視できていないような印象を強く受けます。
それに、記者からの質問に対して常に曖昧かつ論点がずれ気味で、的確に回答できている箇所は残念ながらあまりありませんでした。
1-C:自身の過去の言動への追及に応じる覚悟はあるのか?
新社長の東山氏については、自身の事務所内での経験や加害的側面についても一部報道がされており、以下に挙げるように会見中も何度か質問を受けています。
- 東山氏
「恥ずかしながら何もできず、何の行動もしておりませんでした。ただ、噂としてはもちろん聞いておりました。私自身は被害を受けたことがなく、受けている現場に立ち会ったこともなく、先輩たちからも後輩たちからも相談もなかったので、噂という認識はありましたけど、自ら行動するということはできずにいました。それを反省を込めて、今後は対応していきたいと考えております。」(19分頃) - 25分頃のArc Times尾形氏の質問
「元Jr.の方などの証言を聞いていると東山さんは(ハラスメント的に)非常に厳しかった、あるいは性加害ということを言っている人もいる。誤解を招くことがあったかもしれないという回答をされているが、それは否定をされているのか。また、誤解があったかもしれないと自分で思っているとすれば、性加害が構造的に繰り返されていた可能性を示しているが、ご自身がその一部になっていたかもしれないものについて、それを無くしていくことができるのか。今社長になったということをどういう風に周りを説得していくのか。」に対する東山氏の回答全般。 - 藤島氏
「性加害はあってはならないと思いますが、言葉の暴力とパワーハラスメントにつきましては、その方たちがいつの時代のことを仰っているのかが私には分からないんですが、以前はたぶん人に教育するときに学校でもそうですし、色々な所でそういうことが起きていた事実というのはあったと思います。もちろんあってはならないことですが当時はあったと思います。それをもし今も繰り返しているのであれば、もちろんそれは資質がないという風に判断せざるを得ないと思いますが、そのときにそういうことを厳しく言った・厳しくしたということが、東山の人格をすべて否定するという風には私は考えておりませんで、」(2時間48分頃)
正直、すべて苦しい回答・ごまかす回答に終始しています。
まず、ジャニー喜多川氏の性加害については、調査報告書の中で
『ヒアリングの各対象者は、下記のとおり、ジャニーズJr.の間では、ジャニー氏から性加害を受ければ優遇され、これを拒めば冷遇されるという認識が広がっていたと供述している』(調査報告書22ページ)という内容が掲載されています。
また、東山氏がデビューする1980年代当時のジャニーズJr.の人数は、10〜20人程度であったとの情報もあります(調査報告書12ページ)。
少なくないJr.たちが同様の認識を共有していたとされ、かつその程度の人数規模の中で、噂以外の情報はなかったという説明はあまりにも無理があるでしょう。
その点は絶対に追及されますし、何かしらの合理的な説明を返していく必要があり、何よりそういう疑念が容易に浮かぶような人物を新社長に据えるのは、もはや判断ミスです。
それから、東山氏自身の加害行為の疑いについて。
彼自身の右往左往する言い訳の連続もそうですが、藤島氏のコメントは完全にアウトです。『昔はそういう時代だったから仕方がない』というのは、何十年も未成年への性加害を放置してきた企業が一番言ってはいけない言葉です。
百歩譲って今回の事案が別の領域の内容(製品リコールなど)だったならまだしも、構造上・性質上性加害と地続きでもあるハラスメントの問題、かつ性加害と同じ背景要因に起因して発生したかもしれない問題を、『時代』の一言で切り捨てる態度はかなり致命的です。
そんな考えの人たちが、被害者との対話や組織改革を進められますか?と言われてしまいます。
たとえ新社長であろうとも、例外を作ってはいけません。というよりも新社長であるからこそ、例外にしてはいけません。
情報収集や調査をし、必要があれば取締役会での協議・解任決議を行って、しっかりとガバナンスを利かせていくという回答が最低限必要でした。
2.報告書を受けての話ばかりで、主体的な考えや経営者マインドがない
会見では『提言を受けて』という言葉が多用されていました。
8月29日に発表された調査報告書を受けての記者会見なので当然だという捉え方もありますが、それを鑑みてもあまりにも提言ありきの態度が透けて見えます。
事務所が依頼をして組成したチームからの提言ですから尊重し重く受け止めるのは当然ですが、それ以上にジャニーズ事務所としてどう受け止め、何を反省し、どのように変わっていくのかという態度を明確に示す必要があります。
ところが、会見内容からはそういった主体性はほとんど感じられませんでした。調査報告書で指摘されているからその通りにやります、世間から怒られているから重く受け止めます、と言っているように聞こえてなりません。
冒頭の謝罪や説明の短さもそうでした(11分過ぎに終わり質疑応答に移っています)。会見をすべて見終わってみると、ああ何も決まっていなかったんだな・・と気づきますが、それでもなお彼らは言葉を紡ぐべきでした。
被害者に向けて、事務所のステークホルダーに向けて、世界に向けて、明確なステートメント(声明)を出すべきでした。
他にも多用されている言葉があります。『難しい』です。
その言葉自体を使うことは否定しません、実際非常に困難な道のりとなるでしょうから。
ただその上で、何がどう難しくて、それに対してどう対処していきたいか、誰と話し合っていきたいかを、もっと解像度を上げて話さないとダメです。
これから改革を推し進める新社長が漠然と難しい、難しいと言っていては話になりません。
(メディアとの関係性の話なので事務所内でのガバナンスという観点では少し本筋から外れますが、)48分頃、東山氏がこのようにコメントしています。
「深いところは分かりませんが、やはり喜多川氏、そしてうちの事務所がすべてが悪いんだと思います。そういう風に思わせてしまった、そう感じさせてしまったというのは。」
私は天を仰ぎました。この人は本当に調査報告書を読んでいるのか。読んだ上で、自身で考えあるいは他の経営陣と話し合いをしているのか。そう疑わざるを得ませんでした。
仮に隅々まで構造を理解していないとしても、もう少しまともなコメントはできるはずです。
さて、今後の事務所改革を進める上で、1つ私が個人的な提案をするとすれば、『人にしっかりとお金をかける』方針への転換でしょうか。
調査報告書の11ページ(ジャニー氏の下での体制)、16ページ(ジュリー氏の下での体制)では、それぞれの時代のジャニーズJr.の管理体制について触れられています。驚くべきことに、株式会社ジャニーズアイランドが設立された今なお、10人程度のマネージャーで約200人にも及ぶジャニーズJr.を管理しているということです。もしかするとマネージャー以外にも補佐をするポジションの方がいるのかもしれないですが、普通に考えるとマネージャー1人あたり20人を受け持つことになり、到底適正な管理やサポートは行えないように思えます。
最近になって、医師や弁護士といった専門家による相談体制等も整えつつあるようですが(調査報告書17・18ページ)、一般のスタッフや専門職スタッフの配置が不十分なのは明らかです。
また、一例とはなりますが、昨今の報道では所属タレントと事務所が結んだ契約書上で、報酬のうちかなりの割合を事務所側が占めているという情報もあります。
つまり、意図的か無知かはさておき、タレントやスタッフや組織体制構築にまともにお金を遣わず、低コストで見込みのある子を引き抜いて売り出すための選別所になっていたかもしれないのです。
事務所の方々はよく『努力』という言葉を口にしますが、『搾取』と履き違えていないかどうか、十分な見守りが必要かと思います。
未成年のタレントを多数預かる以上、しっかりとした安全性・透明性・法令コンプライアンス順守等の体制が明確にとられる必要があるでしょう。
3.個人的・情緒的な語りばかりで、事務所としてこうするという回答がほとんどない
前章の『主体的な考えや経営者マインドがない』とも繋がりますが、会見に出席した彼らからは事務所の代表としての言葉があまり出てきませんでした。
- 東山氏
「社長に就任したばかりですので、私はまだその作業に入ってはいないんですね。ただ今後は本当に必要だと思いますし、やはり今までジャニーズJr.に入るというのは喜多川氏の方法みたいなものがあったものですから、その辺もクリアにしていかないといけないですし、」(1時間14分頃) - 2時間29分頃の朝日新聞タキザワ氏の質問
「特別チームの報告書では、ヒアリングの結果ジャニーズJr.の間では、ジャニー氏から性加害を受ければ優遇されそれを拒めば冷遇されるという認識が広がっていたということで、具体的な証言もかなりあります。さきほどタレントが頑張ってきたことについてお話しされてましたけれども、この報告書の指摘についてはどのように認識されてますでしょうか。」に対する藤島氏・東山氏・井ノ原氏の回答全般。 - 2時間50分頃のジャーナリスト モリケン氏の質問
「70年余り性加害があったがなぜここまで長く続いてきたのか端的に聞きたい。ジャニー喜多川氏に性的な異常性があったというのは報告書にも書かれているが、他に組織の問題、個人の問題等あると思うがどう考えるか。」に対する東山氏の回答全般。 - 3時間17分頃のニューズウィーク日本版 コグレ氏の質問
「現役の所属タレントとどのようなコミュニケーションをとってきたのか。ジャニー喜多川氏の性加害についてどのように説明をされてきたのか。」に対する藤島氏・東山氏・井ノ原氏の回答全般。 - 3時間56分頃のBS-TBS報道1930 カワムラ氏の質問
「あくまでも委員会からの報告を受けてそれを認めたという状態であって、ある種他人に言われて認めさせられたとファンの方には映っているかもしれない。皆さんご自身の中にあるジャニー喜多川氏に対する思いというのは、なんてことをしてくれたんだという思いもありながら、愛情みたいなものもやはり感じてしまうんですね。ただ、この一連の性加害をしてきたジャニー氏をやはり否定することからでしか再出発というのができないと思うんです。ケジメがこれではまったくついていないように思います。社名も変わらない、社長が変わっただけで体制が変わらないような状況に見えてしまう部分があります。ジャニーズタレントの皆さん、バラエティ等でジャニーさんとの思い出を語られることがたくさんあります。そしてファンの方もそれを共有されている。なんですけれども、もうことここにきて、ジャニー氏をそうやって肯定していくことが性加害を肯定することにも繋がると思うんです。
(中略)
権力構造の中で子どもたちを性的に搾取する極めて権力的な人間であったということを、どこかで言わなければいけないと思うんですが、そういった対応というのはこれから取られるんでしょうか。」に対する東山氏・井ノ原氏の回答全般。 - 1時間3〜8分頃に語られている、3名それぞれのファンに向けたメッセージ
挙げ始めるとキリがないのですが、上記に示したようなコメント内容から、個人的・情緒的な語りばかり目につくということが分かっていただけるかと思います。
内容をもう少し細かく見ていきます。
まず、朝日新聞タキザワ氏への回答では、藤島氏・東山氏・井ノ原氏が口を揃えて『努力による結果だ』と言っていましたが、これは個人的感想であり、どちらかというと仕事論の類いです。
もちろん努力も影響しているかもしれませんが、客観的に見れば、結局チャンスをもらいプロデュースしてもらってパフォーマンスの機会があるからこそ、よりファンの目に触れて売れる可能性も高まるわけで、お三方のコメントは客観的な反論にはなっていません。
というよりも、報告書で指摘された圧倒的な力の差や、そう思わざるを得ない状況に置かれていた彼ら元Jr.の状況をきちんと理解しないと、本当の再出発にはなりません。現役タレントを疑念の目から庇いたい気持ちは分かりますが、もっと事務所として構造的・ガバナンス的観点から考えて話さないといけない場面です。
これだと、一種の(宗教の)信仰だと言われてもおかしくない状況です。
また、BS-TBS カワムラ氏の質問は、本質を突いていてとても良い質問です。
事務所として、創業者のジャニー喜多川氏をどんな人物として、あるいは彼の行った行為をどういう位置付けで捉え伝えていくのかというのは、胸が張り裂けるようなつらい作業になるであろうと想像しつつも、絶対に外せない(曖昧にできない)重要なポイントとなります。
ところが、東山氏も井ノ原氏も個人的な気持ちや意見ばかりで、事務所としてどう対処していくのかというコメントがすっぽり抜け落ちています。
さらに、ニューズウィーク日本版 コグレ氏への回答でもわかる通り、現役タレントに対して事務所として公式の通達や説明会を行っている気配はありません。
もし、ここまでの事態になってもなお、一部メンバーへの個人的コミュニケーションしか取っていないのであれば、事務所としてヤバい(会社組織の体を成していない)と言わざるを得ません。
※1時間15分頃の井ノ原氏(ジャニーズJr.の育成を行う株式会社ジャニーズアイランドの社長)の回答にある通り、ジャニーズJr.に対しては何らかの全体説明を実施しているようです。
総合的に見て、やはりジャニーズ事務所の新社長を、事務所内部にどっぷり浸かっていた人物が務めるのは無理があります。
被害側か加害側か傍観(間接的加害)側かは関係ありません。閉鎖的で異常な環境にあった事務所内部の空気を吸い過ぎていれば、客観的な改革はできません。自分自身の個人的経験・感情・視点に引っ張られすぎて、客観的な分析とガバナンス構築、組織統率に必ず支障をきたすからです。
事務所の歴史や変遷を長く見てきた人にはその人なりに果たせる役割があると思いますが、それは事務所トップというポストではない。今回の記者会見で、それがまさに露呈したと感じています。
少し加えると、藤島氏がところどころ『姪として』という言い方をしているのも気になりました。
極端な同族経営という問題はたしかにありました。そして親族が重大な性暴力を起こし続けていたということに対し、個人的な罪悪感が芽生えるのも分かります。
ただ、この記者会見では姪としての決意表明が期待されているわけではありません。加害者の親や家族・親族に無条件で同じ罪を背負わせ、親族側もそれを受け入れるのが当然とされる日本的価値観があることは承知していますが、彼女が背負うべきなのは『姪として』の責任ではなく、『ジャニーズ事務所の経営者として』の責任です。そこを勘違いしてはいけません。
1時間3〜8分頃のジャニーズファンへのメッセージを聞くと、お三方ともなにか熱いものは心の中に持っているのだろうなという印象を受けました。
だから、すべてがダメなわけではないのですが、企業体としての改革部分はもっとちゃんとした手腕のある人に入ってもらわないと、改革が進まず事務所ごと終わると思います。
4.企業における基本的なガバナンスとは何かを経験的に理解している人がいない
再発防止特別チームの調査報告書では、事務所のガバナンスの脆弱性や改善・強化に関して、多くのページが割かれています。元々、ガバナンス上の問題点を指摘するという主題で発足したチームのため当然と言えば当然ですが、報告書を読んでいた私も、ジャニーズ事務所のあまりのガバナンスのなさに頭がくらくらしました。
通常は組織規模の拡大に応じて社内体制を整備していくものですが、ジャニーズ事務所は発足当初の古いやり方のまま組織規模だけが大きくなったという印象です。
調査報告書や各種記者会見では、ガバナンスについて『脆弱』『不全』『改善』『強化』などの言葉が使われていますが、私はガバナンスのガの字もなかった、つまりガバナンスの『不存在』そして『ゼロからの構築』が正確な評価だと考えています。
- 藤島氏
「私藤島ジュリー景子は、特別チームの提言を真摯に受け止め、9月5日をもって経営責任を取り、代表取締役社長を引責辞任いたしました。
(中略)
私藤島ジュリー景子は、再発防止特別チームの提言を受け入れ、社長を辞任いたしましたが、被害者の方々に対する補償を責任を持ってまっとうをするために、当面の間代表取締役として留まりますが、被害者の方々への補償・救済、そして今所属しているタレントそしてJr.の皆さんの心のケア以外の業務執行には関わりません。」(5分頃) - 藤島氏
「現時点ではまだ補償を始めておりませんので、私は100%株主でございますが、色々なことを決めていく上で代表取締役でいて補償について議論していく立場である方が事務所の中で良いという風に判断して、この形に留まっております。補償が速やかに進めば、もちろん代表取締役から降りるということは考えております。株についてでございますが、これも同じくで今の時点では私が100%株を持っていることが、補償についても非常に進めやすいという風には考えております。ただ今後については、同族経営が今回の問題であるというご指摘もいただいておりますので、どういう風にしていくことが一番良いかは、新経営体制の皆様ともご相談しながら色々と協議していきたいと思っております。」(15分頃) - 藤島氏
「自分が退任するという意志を固めたときに、もちろん外部の方にお願いするという選択肢も頭の中にはございました。ただ、今回の問題を振り返って反省したときに、きっと当時のJr.の皆さんと経営陣の間に溝があったことも大きな原因の一つだったのではないかと思いました。それを考えたときに、CCO(チーフコンプライアンスオフィサー)の方、またその他にも経営陣の方に、外部の方・専門知識を持たれた方に入っていただくことを10月の経営刷新に向けて考えておりますが、やはり当時被害に遭われたJr.の方たちに寄り添うことも、今私どもで頑張ってくれている所属タレントやJr.の気持ちを分かる、溝を作らないという意味でも、やはり長くジャニーズ事務所に所属してタレントの気持ちを分かるという人がトップに立つ方が、みんなとの溝を作らないという意味で重要ではないか思って、東山に依頼いたしました。」(1時間46分頃) - 東山氏
「私もですね、考えまして、経営という意味ではやはり外部の方に入ってもらった方が正しいんだと思うんです。でもやはり藤島が僕にオファーをしたというのは、やはりそういった意味合いがとても大きかったと思いますし、知らない方がいきなりいらっしゃってタレントとのコミュニケーションを取るというのはなかなか至難の業でもありますので、その辺のコミュニケーションの取り方という意味を一番重要視したのではないかなと思います。」(1時間47分頃) - 東山氏
「えーと、違いますね、まだだと思います。新体制になってから、ちょっと僕詳しいことはよく分かってないんですけど。先生いかがですか?」(2時間19分頃) - 東山氏
「まずあの、CCO(チーフコンプライアンスオフィサー)を付いてもらうんで、その権力的なことに関してはご指摘をたぶん受けると思うんですね。」(3時間10分頃) - 藤島氏
「あのー、院政を敷くつもりはまったくございませんで、任せた以上は東山に、サポートする経営のチームとともに会社を引っ張って行ってほしいと思っております。」(3時間42分頃)
このように、決意表明や口約束はあれども、ガバナンス的見地からの合理的な説明は何一つないような状態でした。
まず、100%株を保有したまま進めていくという点が、すでに多数の指摘が飛び交っているように、ガバナンスの観点からあり得ないです。少なくとも何かしらの方法で、客観的に見て『株主としてのコントロール』が及ばない形で関与すべきです。残念ながら、創業家かつ問題を防げなかった元社長として大きく信頼を失っている自身の状況と、ガバナンスへの理解があまりにも不十分だと言わざるを得ません。
口約束はガバナンスとは言いません。ガバナンスとは仕組みによって健全な状態に制御する、客観的に監査可能な状態で物事を進めるという意味だと私は捉えています。
東山氏に新社長就任を依頼した理由に関しても、ガバナンスの意識が抜け落ちています。もちろん、タレントとのコミュニケーションは大切ですし、どうでもよいことではありません。ですが、そこだけを見ていてはいけません。
最優先なのはしっかりと被害者と向き合うこと、そしてあらゆる手を尽くして事務所が変わるんだと世界中に示し、実際に変えていくことです。もしも社長とタレントとのコミュニケーションに不安があるのであれば、他のポジションの人がサポートすればいいだけの話であって、東山氏が新社長に就く必然性はないと考えます。
むしろ、長く事務所にいるいわゆる『身内』を選ぶことによって、結局現役タレントをいかに売り続けるかしか考えていないのではないかという疑念を誘発しています。過去の過ちと向き合い、徹底的な改革を進めるという意識が外側から見えづらいのは問題です。
また、藤島氏は院政を敷くつもりはまったくないと言っていますが、これも口約束です。そのような疑念を呼ぶガバナンス体制、あるいは疑念を呼ぶような人選をしている時点で、本気の姿勢が感じられません。
東山氏は、外部からCCOを呼ぶからちゃんと監視してもらえる、というようなことを言っていますが、勘違いしてはいけないのはCCOが全権を握ってすべて面倒を見てくれるわけではないということです。
CCOは重要ポジションではあるけれども事務所にとってはあくまでも1つの機能に過ぎず、改革を進めるには社長をはじめとした経営陣との連携が不可欠であり、さらに言えば100%株主には対抗できません。
さて、調査報告書に立ち戻ると、直近まで取締役会が開かれていなかったことに加え、『決裁権限規定、取締役会等の会議体の開催に関する規定、コンプライアンス規定等の基本的な社内規定を設けていない。』(調査報告書51ページ)とあります。
調査報告書や記者会見を見た上での私の個人的な推測ですが、おそらく『稟議書を書いたことはありますか?』、下手をすると『稟議書って何か分かりますか?』というレベルのガバナンス意識だと思います。
企業体としてはかなり杜撰で低レベル、ガバナンスが存在していないに等しい体制であるため、基盤からかなりテコ入れをして立て直さないといけません。
とんでもない性加害があったと事務所として認めた以上、今後は上場企業に劣らないレベルのガバナンス、情報開示、透明性が求められます。財務情報すら開示していなかったブラックボックス体制を、180度劇的に転換させる必要があるのです。
被害者への謝罪や自分たちの人生への向き合いという意味では『情』は大きな要素かもしれませんが、ガバナンスというのは情や優しさではなく、知識や仕組みや透明性によって構築するものなので、すべてに『情』で対処しようとしている記者会見のお三方の姿勢は間違っているのです。
この問題は、一定程度いたしかたない側面はあるものの、様々なステークホルダーが『情』に引っ張られすぎて大事なことが見えていないと感じます。
最後にもう一点、7月に社外取締役3名が就任してからは定例で取締役会を開いており、東山氏の社長就任に関しても臨時取締役会で議決したと、藤島氏が話しています(2時間14分頃)。
臨時取締役会では社外取締役から厳しい意見をもらったそうですが、実際どういう議論が行われ、どの程度の賛同を得て東山氏が選出されたのか、非常に気になります。本当に東山氏が社長でやっていける・信頼回復できると判断したのか、そのプロセスに懐疑的な眼差しを送らざるをえません。
最新の動き
ここまでは9月7日に開かれたジャニーズ事務所の歴史的な記者会見を中心に見てきたわけですが、直近9月19日の事務所公式発表およびその後の報道等により、10月2日の新体制発表に向けた新たな動きがあったことが示唆されました。
以下が主なトピックのようです。
- 藤島ジュリー景子氏の保有株式の取り扱い
- 被害補償の具体的方策
- 社名の変更
- 所属タレント及び社員の将来に関すること
報道では現役タレントが所属するための新会社を設立し、被害者への補償を行う現ジャニーズ事務所と分離する可能性も報じられています。
相変わらず後手後手ですが、あるべき方向に向かっていること自体は評価したいと思います。
大きな事務所ですから、社外取締役や顧問弁護士などを初めとした、状況を冷静に分析しやるべきこと・事務所として向き合うべきものを見出せるブレーンが何人かはいるでしょう。
ジャニーズ事務所の動きは、日本のエンターテイメント業界、ひいては日本社会全体を変えていく大きな大きな前例となります。
私は1市民として、1人の人間として、今後も事務所やステークホルダーの対応を追っていきたいと思います。