生態系被害防止外来種リストの見直しにおける イエネコの取扱いに関する要望書(案)全文


生態系被害防止外来種リストの見直しにおけるイエネコの取扱いに関する要望書(案)
※本要望書案は提出時に些細な変更をする場合があります。
要望の要旨
当基金は、猫(イエネコ)を外来種対策の対象とすること自体が誤りであると考え、環境省に対し、以下のとおり要望します。
1 イエネコ(飼い猫・野良猫)を「防除推進外来種」として扱うことを中止すること。
2 ノネコを「防除推進外来種」から削除する方針に賛同すること(科学的根拠により在来種を絶滅に追い込む危険が証明され、対応がどうしても必要な場合も、駆除ではなく人道的手法によること)。
3 猫の飼養・個体数管理は、外来種対策ではなく動物愛護管理法に基づく適正飼養とTNR・地域猫等の人道的手法によって行い、屋外の猫・地域猫・TNR・給餌活動の制限や関係者への不当な圧力を行わないこと。
4 猫の取扱いに関わる判断は、動物愛護の専門的知見と当事者(環境省動物愛護管理室、動物保護・愛護団体等)を加えた構成のもとで、改めて検討すること。
なお、本要望書に対する貴省のご見解を、貴省が最終的な決定を行う前に、遅くとも令和8年7月18日までに書面にてご回答くださいますようお願いいたします。
拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。平素より、野生生物の保全および動物愛護行政の推進にご尽力を賜り、厚く御礼申し上げます。
当基金は、1988年の創設以来、一貫して猫をはじめとする動物の福祉と適正管理の問題に取り組んでまいりました。全国598の自治体(行政)や環境省と協働し、「さくらねこ無料不妊手術事業」として、これまでに44万頭を超える(累計441,876頭)野良猫や多頭飼育崩壊の猫に無料で不妊去勢手術を実施してきました。こうしたTNR(Trap-Neuter-Return)と適正飼養の普及を通じて、猫の人道的な個体数管理を進めています。
こうした取組は各地で評価をいただき、これまでに35を超える自治体から表彰状・感謝状を頂戴しております。本要望は、これら全国の現場で得た知見に基づくものです。
現在、環境省において「生態系被害防止外来種リスト」の見直しが進められ、イエネコ(飼い猫・野良猫)を防除推進外来種として扱う方向が検討されていると承知しております。
しかし当基金は、人と共に生きてきた伴侶動物であるイエネコを外来種対策の対象とすること自体が、科学的にも制度的にも誤りであると考えます。
この基本的な立場から、科学的知見と動物福祉の観点に立ち、下記のとおり要望いたします。
記
第1 要望事項
1 イエネコ(飼い猫・野良猫)を防除推進外来種として扱うことを中止してください。
2 ノネコを防除推進外来種から削除する方針に賛同します。あわせて、仮に科学的根拠とエビデンスによってイエネコが在来種を絶滅に追い込む危険が証明され、猫への対応がどうしても必要となる場合であっても、駆除を前提とせず、科学的評価と動物福祉に基づく人道的手法によることを求めます。
3 猫(飼い猫・野良猫を含む)の飼養管理および個体数管理は、外来種対策の枠組みではなく、動物の愛護及び管理に関する法律に基づく適正飼養と、TNR・地域猫等の人道的手法によって行ってください。国および地方公共団体は、屋外の猫・地域猫・TNR・給餌活動を制限し、または飼い主・世話人に不当な圧力を加えることのないようにしてください。
4 猫(愛護動物)の取扱いに関わる本件のような判断は、生態系・外来種分野の有識者のみでなく、環境省動物愛護管理室および動物保護・愛護団体等、動物愛護の専門的知見と当事者を加えた構成のもとで、改めて検討してください。
第2 要望の理由
以下の各点は、いずれも「猫を外来種対策の対象とすること自体が誤りである」ことを示しています。
1 イエネコは伴侶動物であり、その管理は科学と動物福祉に基づくべきである
イエネコ(Felis silvestris catus)は、約9500年前から人と共に暮らしてきた伴侶動物であり、本来の野生動物ではありません。飼い猫・野良猫・ノネコは、いずれもその生活形態による区分にすぎません。人と共に生きてきた伴侶動物を一律に「防除推進外来種」として駆除を前提に扱うことは、後述する国際基準とも、検討会委員自身の見解とも整合しません。
2 本土のイエネコが生態系を脅かした科学的根拠は確認できない
環境省のレッドデータブック・レッドリストには、イエネコ(飼い猫・野良猫)が単独の原因となって絶滅させた在来種は一例も記載されていません。日本本土(北海道・本州・四国・九州)は在来の中大型捕食者を有し、生態系も複雑であり、屋外の野良猫の多くは人の生活圏に依存して生息しています。本土のイエネコが在来種を絶滅に追い込むほどの捕食圧を及ぼしているとする科学的知見は確認できません。
▷ 出典:環境省「レッドリスト・レッドデータブック」 https://www.env.go.jp/nature/kisho/hozen/redlist/
いきものログ―環境省第5次絶滅危惧種検索 https://ikilog.biodic.go.jp/rl_rdb/list/
3 アマミノクロウサギの回復は、ノネコ駆除では説明できない(環境省提供データに基づく分析)
アマミノクロウサギは、ノネコの本格的な捕獲が始まる前の2003年から2017年にかけて、フイリマングースが生息する奄美大島と、そもそもマングースが生息しない徳之島の双方で、大幅に増加しました(当基金の分析では約5倍)。この間、ノネコの駆除はほとんど行われていません(奄美大島で試験的に十数頭が捕獲されたのみ)。すなわち、クロウサギの回復の大部分は、ノネコ管理計画(平成30年度/2018年度開始)が始まる前に、すでに達成されていたことになります。さらに、当基金が環境省に資料提供を求め、提供を受けたデータを分析したところ、ノネコの駆除が行われなかった2014〜2017年のクロウサギ増加率(年平均約15%)と、駆除が行われた2018〜2021年の増加率(年平均約14%)との間に、ほとんど差はありませんでした。また、マングースが生息する奄美大島と、生息しない徳之島とで、増加率はいずれも年平均13〜14%とほぼ同等でした。クロウサギが回復した時期は、環境省がフイリマングースの防除を進め、令和6年(2024年)9月に根絶を宣言した時期に重なり、環境省自身、回復の主因をマングース防除と説明しています。以上のデータに照らせば、ノネコ駆除がアマミノクロウサギの回復に寄与したことを示す科学的根拠は、確認できません。なお、この分析は、令和5年(2023年)10月、参議院議員会館で開催された「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」の関係者ヒアリングにおいても報告しています。
▷ 出典:公益財団法人どうぶつ基金「奄美ノネコ駆除はクロウサギ増加に寄与せず」(環境省提供データに基づく分析/2023年10月 動物愛護議員連盟ヒアリング報告) https://www.doubutukikin.or.jp/activity/earthclub/20231023/38411/
環境省 報道発表「奄美大島における特定外来生物フイリマングースの根絶の宣言について」(令和6年9月3日) https://www.env.go.jp/press/press_03661.html
4 IUCNの高リスク評価は「捕食者不在の海洋島」を対象とし、日本の状況とは前提が異なる
IUCNが猫を高リスクと評価する典型は、ハワイ・ガラパゴス・ニュージーランドのように、もともと陸生の捕食者をほとんど欠く海洋島です。一方、奄美・徳之島・沖縄などの南西諸島は、かつて大陸と地続きであった大陸島であり、ハブをはじめとする在来の捕食者が生息し、在来種はこれらと関係しながら進化してきました。捕食者不在の海洋島を対象とする評価を、そのまま日本に一律適用することは科学的に妥当ではありません。
▷ 出典:IUCN Global Invasive Species Database「Species profile: Felis catus」 https://www.iucngisd.org/gisd/speciesname/Felis+catus
5 掲載を推進する委員自身も、対策の核心を「駆除」ではなく「適正飼養・人の管理」に置いている
第5回検討会(令和7年10月23日)の議事概要において、掲載の推進に積極的な委員も含め、対策の核心について次のように述べています。亘委員は、ネコ問題の原因は放し飼いや餌やり等の人の行動であり、人の管理が本質的な対策であるとして適正飼養の必要性を強調し、対策と愛護を対立させる考え方は古いと明言しています。川上委員も、適正に飼育されている猫は対策の対象ではなく、野外に出た個体が対象であると述べています。掲載を推進する立場の委員でさえ、対策の中心を「駆除」ではなく「人の管理・適正飼養」に置いているのです。であれば、野外の猫(ノラネコ)への対応も、駆除ではなくTNR・適正飼養によるべきです。環境省には、この委員自身の整理と整合するよう、猫への対応を人道的手法によって担保することを求めます。
▷ 出典:環境省「生態系被害防止外来種リストの見直しに係る検討会(第5回)議事概要」 https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist/gairailist/byseitailist5/gaiyou.pdf
6 ICAMは、駆除ではなくTNR等の人道的な管理を国際基準としている
国際コンパニオンアニマル管理連合(ICAM)は、犬および猫の人道的な個体数管理に関する国際的なガイダンスを策定しており、駆除は長期的に効果が乏しく(いわゆる真空効果)、TNRを含む人道的・科学的な管理こそが、最も効果的かつ人道的であるとしています。猫の個体数管理は、駆除ではなく、この国際基準に沿ったTNR・適正飼養によって行われるべきです。
▷ 出典:ICAM「Humane Cat Population Management Guidance」(2011) https://www.icam-coalition.org/download/humane-cat-population-management-guidance/
7 島嶼等で対応が必要な場合も、人道的・科学的手法によるべきである(希少種保全の放棄ではない)
当基金は、奄美・沖縄等の島嶼における希少種保全の重要性を否定するものではありません。在来種の保全のために特定の地域で猫への対応が必要な場合であっても、それは一律の「防除推進外来種」指定によるのではなく、不妊去勢・生息域内での保護・順化・適正な譲渡等を含む、個別的で人道的・科学的な手法によって達成されるべきです。ノネコを防除推進外来種から削除することは、希少種保全の放棄を意味するものではなく、その手段を、駆除を前提としたものから人道的・科学的なものへと転換することを求めるものです。なお、現に奄美大島では、ノネコ管理計画(2018〜2027年度)に基づく捕獲の範囲が、森林域から令和7年度に島全域へと拡大され、あわせて集落・市街地のノラネコ対策も進められています。同計画には、譲渡できなかった個体は安楽死させる旨が定められており(住民・愛護団体の尽力により、現時点では殺処分は執行されていないと報じられています)、屋外にいる猫について、ノネコとノラネコの明確な線引きが困難であることも指摘されています。イエネコを全国的に防除推進外来種とすることは、こうした捕獲・殺処分を前提とした枠組みを全国へ広げることにつながりかねず、当基金はこれを深く懸念します。
▷ 出典:奄美市「奄美大島における生態系保全のためのノネコ管理計画」(安楽死に関する定めを含む計画本文・ページ) https://www.city.amami.lg.jp/kankyo/nonekokanri.html
環境省 奄美野生生物保護センター「奄美大島におけるノネコ管理計画」(譲渡できなかった個体は安楽死処置、との記載) https://kyushu.env.go.jp/okinawa/awcc/Wild-dog-Wild-cat-cat-amami.html
8 防除推進外来種化は、多頭飼育崩壊を助長し、国自身の地域猫・TNR施策と矛盾する
全国で問題となっている多頭飼育崩壊の多くは、屋外の猫の世話をしていた住民が、行政や近隣から「餌やりをするな」「飼うなら屋内で飼え、できなければ処分せよ」といった半ば強圧的な対応を受け、やむを得ず多数の猫を屋内に抱え込んだ末に生じています。イエネコを防除推進外来種とすれば、こうした「餌やり禁止・屋内飼育か処分か」という誤った圧力を国が正当化することになり、多頭飼育崩壊をかえって助長しかねません。
また、飼い猫以外の猫を防除推進外来種とすることは、国が「防除(すなわち駆除)を推進せよ」という方針を示すに等しく、環境省・自治体がこれまで推進してきた地域猫活動やTNRの方針と正面から対立します。同一の行政が、一方でTNR・適正管理による人道的な個体数管理を進めながら、他方で駆除を推進するという矛盾は、現場の混乱と動物福祉の後退を招きます。
▷ 出典:環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」(令和3年) https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0303a.html
環境省「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」(平成22年) https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2202.pdf
9 飼い猫の飼養管理は動物愛護管理法の適正飼養として扱うべきであり、外来種リストの範疇ではない
報道によれば、今回の改定では「屋内で適切に飼育されている飼い猫は防除の対象外だが、むやみに外に出したり、遺棄したりしないよう管理徹底を求める」とされています。しかし、屋内の飼い猫は生態系に害を及ぼす加害個体ではなく、その飼い方への要求は生態系被害防止の措置とは性質を異にします。飼い猫の遺棄はすでに動物愛護管理法第44条第3項により罰則をもって禁止され、屋内飼育の推奨や終生飼養・繁殖防止も同法の適正飼養の枠組みで扱われる事項です。これらを法的拘束力のない外来種リストで重ねて規律することは、動物愛護管理法との二重・越権であり、適正飼養(愛護・近隣問題)と外来種被害防止(侵略的定着)の混同を招きます。さらに、「適切に飼育されている」の定義が曖昧なまま「外に出す猫=要管理」という前提が広がれば、屋外の猫・野良猫・地域猫、そして給餌者や世話人への圧力を正当化する足場となり、理由8で述べた多頭飼育崩壊の力学を助長しかねません。飼い猫の飼養管理は、動物愛護管理法に基づく適正飼養として扱い、外来種リストの枠組みから切り離すべきです。
▷ 出典:環境省「虐待や遺棄の禁止」(動物愛護管理法) https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/aigo.html
e-Gov 法令検索「動物の愛護及び管理に関する法律」(昭和48年法律第105号/第7条・第37条・第44条) https://laws.e-gov.go.jp/law/348AC1000000105/
共同通信/Yahoo!ニュース「【独自】生態系対策、イエネコ追加へ 環境省、希少種の捕食などで」 https://news.yahoo.co.jp/articles/db04ddc0904f9d56de72ab42c8bfb5d283e1626a
10 検討会の構成が生態系・外来種分野に偏り、動物愛護の専門的知見と当事者を欠いている
環境省自身、本検討会を「生物学等の専門有識者により構成する」と説明しており、公表されている構成員名簿を見ても、委員は生態学・外来種・農学等の研究者が中心です。他方、今回の判断は、愛護動物である飼い猫・野良猫の取扱いに深く関わるにもかかわらず、猫の適正管理・動物愛護を所管する環境省動物愛護管理室や、現場でTNR・適正飼養・保護に取り組む動物保護・愛護団体の関係者は、構成員に含まれていません(この点は当基金が環境省に確認しています)。動物愛護行政の関与と当事者の知見を欠いた構成で猫の取扱いを決めることは、判断の均衡と正統性を損ない、本件のような結論を招く一因になったと考えられます。猫の取扱いに関わる判断は、動物愛護の専門的知見と当事者の参画を得たうえで、改めて行われるべきです。
▷ 出典:環境省「令和6年度 第3回生態系被害防止外来種リストの見直しに係る検討会の開催について」(委員構成を「生物学等の専門有識者」と明記) https://www.env.go.jp/press/press_03718.html
生態系被害防止外来種リストの見直しに係る検討会 構成員名簿 https://www.env.go.jp/content/000250866.pdf
11 屋内飼育の徹底・強化では実効性がなく、かえって捨て猫・野良猫を増やす
屋内飼育の徹底は、当基金や環境省動物愛護管理室が長年にわたり呼びかけ続けてきたことです。しかし、日本の家屋の構造、地方の風習や生活習慣の違い等から、その徹底には限界があることも、現場の経験から把握しています。まさにこの現実を前提として、殺処分ゼロを実現する現実的な方法として、国や地方自治体と協働し、TNR・地域猫活動を推進してきました。今回、猫を外来種対策の対象としたうえで屋内飼育の徹底・強化を図ったとしても、これまで徹底できなかった状況が大きく変わるとは考えられず、実効性は期待できません。それどころか、理由8で述べたとおり、飼えない・外に出せないという圧力が多頭飼育崩壊を生み、その末に捨て猫や野良猫をかえって増加させる結果を招きます。屋内飼育の徹底・強化を名目に猫を外来種対策の対象とすることは、目的に対して有効でないばかりか、逆効果です。
12 防除推進外来種は、外飼いの飼い猫を含む野外の猫を防除(取り除く)の対象と位置づけ、TNR・地域猫と両立しない
「防除推進外来種」とは、その名のとおり、野外の個体群について防除(取り除くこと)を積極的に推進すべきものとして位置づける区分です。飼い猫が「対象外」とされても、その除外は「屋内で適切に飼育されている」ことを条件とするため、家の中と外を行き来する外飼いの飼い猫は、この条件を満たしません。しかも報道によれば、今回の対象とされる背景は「屋外で不適切に餌付けされた猫などが希少動物を捕食していること」であり、問題視されているのは屋外にいる猫です。さらに、第5回検討会の議事概要によれば、種名掲載を推進する亘委員自身が、「ネコ問題の主役はノラネコだ」「ノラネコを除外してしまっては実効性が失われる」と述べ、対策の主たる対象がまちに暮らす野良猫であることを明言しています。対象は森林の野生化個体(ノネコ)にとどまらないことが、推進側の委員の言葉からも明らかです。すなわち、環境省が「家の中の猫は対象外」と説明することは、裏を返せば「外に出る猫は対象」ということであり、飼い主のいる外飼いの猫も、この線引きの中に入りうるのです。日本の飼い猫は約885万頭にのぼり、完全室内飼育は近年増えているものの、地方の風習や生活習慣から、今なお多くの猫が屋外を行き来しています。すなわち「飼い猫は対象外」という説明は完全室内の猫に限られ、多数の一般家庭の外飼いの猫は除外の外に置かれます。加えて、屋外にいる猫は外飼いの飼い猫・ノラ猫・さくらねこ(不妊手術済みの猫)・地域猫の区別がつかず、「野外の猫を防除対象とする」枠組みは、当基金がTNR・地域猫で守ってきた猫たちを一律に防除(取り除く)の対象の側へ押しやり、国・自治体が進めてきたTNR・地域猫の方針と正面から衝突します(理由8)。なお、本リストには法的拘束力がなく、掲載によって直ちに殺処分が強制されるわけではありません。しかし、国が野外の猫を「防除(取り除く)、あるいは屋内に閉じ込めるべき対象」と公式に位置づければ、その方針は自治体や住民の対応を方向づけ、屋外の猫への現実の圧力となります。当基金は、この是正を求めます。
▷ 出典:共同通信/Yahoo!ニュース「【独自】生態系対策、イエネコ追加へ 環境省、希少種の捕食などで」 https://news.yahoo.co.jp/articles/db04ddc0904f9d56de72ab42c8bfb5d283e1626a
一般社団法人ペットフード協会「全国犬猫飼育実態調査」(飼い猫頭数・室内飼育の動向) https://petfood.or.jp/data-chart/
環境省「生態系被害防止外来種リストの見直しに係る検討会(第5回)議事概要」(亘委員「主役はノラネコ」等の発言) https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist/gairailist/byseitailist5/gaiyou.pdf
13 「防除」は駆除を内包し、被害が生じる前から発動する――「防除は駆除ではない」との説明は当たらない
環境省は、「防除」とは殺処分に限らず保護や移動、TNR等を含む概念であり、リスト掲載はむしろ適正飼養やTNRの後押しになる、と説明することがあります。しかし、「防除」とは本来、被害を未然に防ぐ「予防(防止)」と、取り除く「駆除」とを合わせた概念であり、駆除はその中に内包されています。しかも外来種対策は、実際に被害が生じている場合だけでなく、「被害を及ぼすおそれ」があるとされた段階から対象とするものです。この点は、当該リストの正式名称が「我が国の生態系等に被害を及ぼす『おそれ』のある外来種リスト」であること自体からも明らかです。実際、第5回検討会の議事概要でも、細谷委員が「種の生物学的な特性や予防原則に立つと(防除推進とすべきとの意見に)同感だ」と述べるなど、被害が生じる前に予防的に防除するという発想が委員間で共有されています。すなわち「防除推進外来種」への位置づけは、現に加害していない猫であっても、将来の可能性を理由に、あらかじめ捕獲・駆除の対象としうることを意味します。「防除は駆除ではない」との説明は、駆除が防除に含まれる以上、当たりません。その上でなお、猫を「防除推進外来種」とすることに賛同はできません。第一に、「防除推進外来種」という区分の名称自体が“取り除くこと”を前面に押し出しており、現場や住民には駆除・排除の圧力として受け止められます。第二に、除外されるのは完全室内の飼い猫に限られ、外飼いの猫・地域猫・ノラ猫は対象の側に置かれます(理由12)。第三に、特定外来生物では、いったん「防除すべき外来種」と位置づけられた生物に、条例・回収・集中駆除・罰則が段階的に積み重なってきました(補足資料)。そして何より、もし環境省が真に適正飼養・TNR・保護を意図するのであれば、それはまさに動物愛護管理法が担う適正飼養の領域であり、外来種対策の枠組みで行う必要はありません(理由9)。「防除」の語をどう定義しようとも、猫を外来種対策の対象とすること自体が適切ではないのです。加えて、仮に環境省が、飼い猫や地域猫を実際に取り除くものではないと説明するのであれば、そもそもイエネコを「防除推進外来種」に位置づける必要はありません。防除を推進しないのであればこの区分に位置づける意味はなく、位置づける以上は防除(取り除くこと)を推進することを意味するからです。いずれにせよ、イエネコを防除推進外来種とすべき理由はありません。
▷ 出典:環境省「生態系被害防止外来種リスト」(正式名称「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」) https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist.html
環境省「生態系被害防止外来種リストの見直しに係る検討会(第5回)議事概要」(細谷委員の「予防原則」発言) https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/iaslist/gairailist/byseitailist5/gaiyou.pdf
14 地域猫の推進は、国会の附帯決議でも求められている――本方針は国会の意思とも矛盾する
平成24年(2012年)の動物愛護管理法改正に際し、参議院環境委員会は、法案に対する附帯決議(平成24年8月28日)第八項において、「飼い主のいない猫に不妊去勢手術を施して地域住民の合意の下に管理する地域猫対策は、猫に係る苦情件数の低減及び猫の引取り頭数の減少に効果があることに鑑み、官民挙げて一層の推進を図ること」と明記しました。すなわち、地域猫(TNR)の推進は、環境省の施策であるだけでなく、国会の意思として求められてきたものです。また同項は、駆除目的で捕獲された飼い主のいない猫の「引取り」は動物愛護の観点から原則として認められない、とも述べています。猫を防除推進外来種とし、野外の猫の“取り除き”を推進することは、この附帯決議が示した地域猫推進の方向性と正面から矛盾します。行政の一貫性の観点からも、猫の管理は、外来種対策としての防除ではなく、地域猫・TNR・適正飼養によって行われるべきです(理由8参照)。
▷ 出典:動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議(平成24年8月28日 参議院環境委員会)第八項/環境省 中央環境審議会動物愛護部会 資料に逐語収録 https://www.env.go.jp/council/14animal/mat50_5.pdf
参議院常任委員会調査室・特別調査室「立法と調査」No.415(2019年)(附帯決議と改正経緯) https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2019pdf/20190910120.pdf
15 イエネコは二千年来この地に在り、外来種対策が主眼とする「近年の移入種」とは性質が異なる
日本の外来種対策は、その中核である外来生物法について、環境省自身が「海外から日本に持ち込まれた生物に焦点を絞り、人の移動や物流が盛んになり始めた明治時代以降に導入されたものを中心に対応する」と明言しています。ところがイエネコは、通説の奈良時代(8世紀)よりさらに古く、長崎県壱岐市のカラカミ遺跡から弥生時代(紀元前2世紀ごろ、AMS炭素年代で約2,140年前)のイエネコとされる骨が出土しており、遅くとも奈良時代には確実に日本に生息していました。すなわちイエネコは、少なくとも千年、出土例では二千年にわたり、日本の環境と社会に組み込まれて共存してきた動物です。現に、猫が「特定外来生物」に指定されないのも、この「明治時代以降」という基準に合致しないためと解されます。こうした動物を、明治以降の近年の移入種を想定した枠組みのもとで「防除(駆除)を推進する対象」として扱うことは、環境省自身が示すこの基準と整合しません。改めてご検討いただくよう求めます。
▷ 出典:環境省「侵略的な外来種」(外来生物法は明治時代以降に導入されたものを中心に対応、との記載) https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/invasive.html
壱岐市・カラカミ遺跡出土のイエネコとされる骨(弥生時代・AMS炭素年代 約2,140年前)に関する報道 http://iki-guide.com/?p=1721
結びに
以上のとおり、そもそも猫を外来種対策の対象とすること自体に、科学的にも制度的にも誤りがあります。
この認識に基づき、当基金は、イエネコ(飼い猫・野良猫)を防除推進外来種として扱うことの中止を求めるとともに、ノネコを防除推進外来種から削除する方針に賛同いたします。あわせて、猫の飼養管理および個体数管理は、外来種対策の枠組みではなく、動物愛護管理法に基づく適正飼養とTNR・地域猫等の人道的手法によって行い、屋外の猫・地域猫・TNR・給餌活動の制限や関係者への不当な圧力を行わないことを求めます。さらに、本件の判断過程には動物愛護の専門的知見と当事者が欠けていたことから、適切な構成のもとで改めて検討することを求めます。国の施策の一貫性と多頭飼育崩壊の防止の観点からも、猫の個体数管理を、科学的根拠と動物福祉に基づく人道的手法によって行うことを強く要望いたします。
つきましては、本要望書に対する貴省のご見解を、貴省が最終的な決定を行う前に、遅くとも令和8年7月18日までに、書面にてご回答くださいますようお願い申し上げます。
何卒、当基金の趣旨をご理解賜り、ご高配くださいますようお願い申し上げます。
敬具
【補足資料】特定外来生物における「段階的強化」の実例
―― 防除の枠組みが向かう先について ――
(注)以下は、法的拘束力のある「特定外来生物」(外来生物法)に指定された生物の扱いです。猫が検討されている、法的拘束力のない「生態系被害防止外来種リスト(防除推進外来種)」とは制度が異なり、猫が特定外来生物に指定されるわけではありません。ただし、ある生物がいったん「防除すべき外来種」と公式に位置づけられたとき、そこにどのような措置が積み重ねられてきたかを示す前例として、参考に供します。
1 ブラックバス・ブルーギル(リリース禁止条例・回収・大量駆除・罰則)
国の外来生物法ではその場でのキャッチ&リリースは違反となりませんが、滋賀県では琵琶湖の条例で釣り上げた個体の再放流が全域で禁止され、湖岸に外来魚回収ボックスが設置されています。産卵期の親魚を電気ショッカーボートで集中捕獲し、外来魚の駆除量は平成19年度に543トンに達しました。新潟・山梨・長野・岐阜でも再放流が禁止されています。違反した場合、個人は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人は最大1億円の罰金が科されます。
▷ 出典:滋賀県「外来魚駆除対策事業」(リリース禁止条例・回収ボックス・電気ショッカーボート・駆除量) https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/shigotosangyou/suisan/18681.html
環境省「外来生物法に関するQ&A」(規制内容・罰則) https://www.env.go.jp/nature/intro/1law/qa.html
2 フイリマングース(根絶=地域個体群の絶滅まで)
国レベルの目標として奄美大島等からの根絶が掲げられ、捕殺が続けられた結果、令和6年(2024年)に奄美大島での根絶が宣言されました。「防除」が最終的に地域個体群の絶滅を意味した例です。
▷ 出典:環境省 報道発表「奄美大島における特定外来生物フイリマングースの根絶の宣言について」(令和6年9月) https://www.env.go.jp/press/press_03661.html
3 アライグマ、カミツキガメ、アカミミガメ・アメリカザリガニ 等
アライグマ(緊急対策外来種かつ特定外来生物)は、全国で大量に捕獲・殺処分されています。カミツキガメは特定外来生物、アカミミガメとアメリカザリガニは令和5年(2023年)に条件付特定外来生物となり、飼育は可能でも野外への放出・販売・営利目的の譲渡が禁止されました。
▷ 出典:環境省「日本の外来種対策」(特定外来生物の規制・条件付特定外来生物) https://www.env.go.jp/nature/intro/
これらはいずれも、法的拘束力を伴う「特定外来生物」指定の帰結であり、猫に直ちに適用されるものではありません。しかし、ある生物が「防除すべき外来種」と枠づけられたとき、条例・回収・集中駆除・罰則といった措置が段階的に積み重なってきたことは事実です。当基金は、法的拘束力のない諮問リストへの掲載であっても、それが屋外の猫・給餌・地域猫への圧力や、将来の条例・強化措置の起点となりうることを深く懸念し、猫を外来種対策の対象とすること自体の再考を求めます。
以上
本要望書案は提出時に些細な変更をする場合があります。