【オフトーク(Off-talk)・その4】 「良い医師を育てる」ために「医師国家試験」は必要か?


いつも本署名活動を応援していただいている皆様
前回のオフトークでは、「がん治療専門医・血液専門医の不足」が、日本に限らず、世界的に大きな問題となっていることをご紹介いたしました。
本日は、この話題を書くと、医療関係者であるかないかにかかわらず、「一戸はすっかりイカれている」と落胆される方がほとんどと思い、溜息をつきながら、悩みに悩み抜きましたが、この署名運動にご賛同してくださった皆様には、ぜひ一緒に考えていきたいわが国の医学教育の根本にかかわる大きな問題をあえて紹介することにしました(😮💨)。それは、日本で医業を行うために必須となっている「医師国家試験(以後、国試と略します)」(医師法第十条)が「本当に必要か?」という問題です。
そもそも「医師国家試験」とは、どのようなものなのでしょうか。
皆さんが、自動車の運転免許を取得された時のことを思い出していただくと、わかりやすいと思います。まず多くの場合、教習所に入り、「仮免」を取得し、その後「卒検(公道での技能試験)」に合格すれば、「卒業証明書」を取得することができます。その後、いよいよマークシート方式の「本免学科試験」を受けて100点満点中90点以上を取れれば、晴れて運転免許を交付してもらうことができます。
たとえば、「卒検」で運転技術がまだ未熟と判定された人が、もし「学科試験」の合格だけで、運転免許が取得できるようになるとしたら、あなたは、それに賛成できるでしょうか? 実は、医師として診療できる能力を運転技術にたとえるなら、 「国試」はまさに「本免学科試験」に相当するものとなります(2日間で400問のマルチプルチョイス問題[注]に回答します)。「国試」を受験するための条件は、医師法の中に定められていますが(法文のため、とてもわかりにくいです😭!)、要は「日本の医学部を卒業していれば、受験資格が自動的に与えられる」ということになっています。[注:マルチプルチョイス=いくつかの選択肢の中から、正しいもの(または誤っているもの)を選ぶ形式のテスト]
すなわち、「国試」はあくまで、医学的な知識(記憶力)や推論力を評価する試験であり、必ずしも臨床医として患者さんを診療する能力を評価する試験にはなっていないのです。高校や大学の難しい受験問題を解く能力を磨いてきた医学部生たちが「得意」な試験とも言えるでしょう。
実は海外では、意外と思われるかもしれませんが、このような単なるペーパーテストとしての「医師国家試験」を行っていない国の方が多いのです。たとえばOECD(経済協力開発機構)に加盟している38ヶ国のうち、日本のようなペーパーテストを行っている国は10~15ヶ国程度と言われています。「えっ、そんなに少ないの?」と思われるかもしれませんが、実は国際的に見ると、日本のように「大学を卒業した後に、国が全員に一斉の筆記試験を課す」という仕組みを採用している国の方が少数派なのです。もちろん、ペーパーテストを残している国も多くあり、米国やイギリス、カナダなどの主要国でも、日本と同じように全国一斉の「ナショナル・ライセンス試験」自体は存在します。しかし、その「中身と仕組み」は日本と大きく異なっており、何らかの形で「公道での卒検」にあたる、「臨床スキルを評価する試験」とあわせて合否判定を行っています。もう少し、具体的に日本と海外の医学教育の基本的ポリシーの違いをお知りになりたい方への入門書としては、次の書籍がおすすめです。
『アメリカの医学教育:そのシステムとメカニズム〜ピッツバーグ大学医学部教員日記〜』
(著者:赤津春子, 日本評論社 2008年)
なぜ、私が現在の日本における「国試」を改革する必要があると考えているかという理由は、極めて単純です。わが国の医学部6年生(最終学年)は、卒業前の半年以上をこの「ペーパーテスト」に合格するために多大な努力を強いられます。それまでの臨床実習などで実際の患者さんを診療するために身につけてきた診察能力や思考力は、この「受験勉強」により、完全にリセットされてしまいます。したがって、「国試」に合格して、研修医としての生活を始める時には、また診療のために必要なさまざまな技術を「ゼロから」学び直さなければなりません。
もちろん、私は「国試をなくせば良い」と考えているわけではありません。もし「国試」を行うなら、患者さんを診療する能力をより適切に評価できる仕組みに見直せないか、と考えています。若い医師たちにとっても、患者さんにとっても「有用性」がよくわからない「現在の国試」のあり方は、「病気を丁寧に診る医師」や「がん治療医や血液内科医」が中々増えないことにも無関係ではないでしょう。
たとえば、現在の国試は、提示された選択肢から「1つの正解」を素早く選ぶマークシート方式です。しかし、がん治療や血液内科の現場は真逆です。白血病などの治療では、患者さんの状態や遺伝子変異、合併症の有無によって、治療法をオーダーメイドで「考え抜く」必要があります。「分かりやすい1つの正解」など最初から存在せず、暗記力ではなく、目の前の患者のデータから深く思考する能力が求められる世界です。すなわち、血液内科やがん治療の世界は、マニュアル通りにはいかない、最も『深く考え、丁寧に患者を診る』ことが求められる分野です。だからこそ、医学部の最後に『ただマークシートを解くためだけの丸暗記』を半年も強制する今の「国試」のシステムは、若者たちの『深く考える力』と『現場への熱意』を奪うマイナス要因になってしまっているのではないかという危惧をもたざるを得ません。
また、もし、卒業前の半年間がペーパーテスト対策ではなく、諸外国のように『実際の患者さんをどう診るか』の実技や思考プロセスを評価する試験であれば、学生は最後まで現場感覚を維持したまま、自信を持って腫瘍内科や血液内科の研修に飛び込めます。現在の国試の仕組みは、若者のやる気を削ぎ、現場での挫折リスクを高める壁になってしまっている可能性があります。私たちが若手がん治療医や血液内科医を増やすためには、単に労働環境を良くするだけでなく、彼らの熱意をすり減らしている可能性がある『国家試験のあり方』そのものを変える根本治療が必要なのかもしれません。
オフトークは私の「徒然(つれづれ)ブログ」のようなものですが、支援者の皆様が、どのように読んで下さっているのかを知りたいと思っていますので、「署名の趣旨とズレてきている」とお感じでしたら、いつでも下記の連絡先まで忌憚ない感想をお寄せください。実際、特に今回は内容が「濃い」ため、こっそり個人的に面識がある患者経験者の方に、事前に読んでもらいました。すると、次のような「励ましのお言葉」をいただき、感激と反省(😓)をしております。
『いつも、オフトークでは、非常に深いお話をありがとうございます。マークシートの国試対策が、若いお医者さんの『深く考える力』や『現場への熱意』を奪っているかもしれないというお話、ハッとさせられました。正直、医学教育や診療報酬制度・専門医制度などのお話は、とても大切なことと思うのですが、私のような普通の患者には少し難しく、解決にも長い時間がかかりそうです。一方、地方の「がん治療医」の不足はすでに目の前で起こっている問題です。ぜひ次回のオフトークでは、「もし、この制度の仕組みが良い形に変わったら、地方の病院には、具体的にどんな素晴らしい若手医師が来てくれるようになるのか」という、私たちの街の未来につながるお話も、ぜひワクワクする形でお聞きしてみたいです!』
このようなご忠言をいただけて、大変ありがたく、この活動の発起人として「原点に帰らなければ」と気持ちを新たにしている次第です😭。
ぜひ皆さんからのご意見・アドバイスを切にお待ちしております🙏🏻!
一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」代表)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています](なお、このオフ・トークの内容はあくまで一戸個人の見解であり、本署名活動のサポーター方々や後援団体の立場を表明するものではありません。)