一戸 辰夫Hiroshima, Japan
Jul 3, 2026

全国の活動支援者の皆様

今日の広島は梅雨空が戻り、朝から大雨です。先月から全国各地で発生している豪雨災害で被災されている皆さんがどのような状況なのか、大変心配しております。

さて、本活動の目標は、医療の未来を担う若手のがん治療専門医や血液専門医の偏在を改善し、全国のどの地域でも安心して働ける環境を、医学教育や医療制度の改革を通じて実現することです。そこで本日は、そもそもわが国において「専門医」を取得する意味について、皆さんと建設的な議論をするための話題提供をQ&A形式で説明してみたいと思います。一方、医療従事者の皆様には、それは「医療界のタブー」なので市民の方に真実を開示することを「やめておいた方が良い」と危険に思われる方も多いかもしれません⚠️😅

Q1:「専門医」になると収入が増えるの?

A1:   残念ながら増えません(一部の病院では例外的に「専門医手当」を支給している場合もあります)。

まず、海外ではどうなっているのかを紹介しておきます。もっとも極端な米国の例をあげますと、レジデント(日本の「研修医」)の間は年収約6万〜7万ドル(約900万〜1,000万円)ですが、専門医になると、一気に年収は30万〜60万ドル(約4,500万〜9,000万円以上)程度に跳ね上がります。一方、米国では専門医でないと民間医療保険会社との契約が結べず、病院が診療を行う許可を下さなかったりします。つまり、専門医資格がないと保険診療の請求ができないため、医師としての市場価値がゼロになってしまうという非常にシビアな構造になっています。その対価として、専門医にはかなりの高収入が保証されています。

ただし、米国の医療制度は世界の中でもかなり特殊なので(まだ観られていない方は、ぜひマイケル・ムーア監督の名作医療映画「シッコ(2007年)」をご覧ください)、英国・ヨーロッパを見てみましょう。

イギリスは完全国営医療のため、患者さんはNHS(National Health Service:国民保健サービス)の病院で医療を受ける限り、いかなる診療を受けても、院外処方のお薬代以外は、医療費を支払う必要はありません。専門医には米国と同様に収入上の大きなメリットがあり、研修医(ジュニアドクター)の間は、基本給が年約3.7万〜6.3万ポンド(約700万〜1,200万円)ですが、専門医になると「コンサルタント」とい高い職位に応募できるようになります。コンサルタントになると基本給だけで約10.5万〜14万ポンド(約2,000万〜2,700万円)に跳ね上がり、民間診療(自由診療)を行うことも可能となるため、収入が激増します。

一方、フランスは日本に似ており、公立病院勤務の場合、給与は国家の法令で定められた共通の俸給表によって厳密に決められています。駆け出しの頃は、約60,000〜80,000ユーロ(約1,000万〜1,300万円)、ベテランになっても約120,000ユーロ(約2,000万円)前後です。しかし、専門医資格をもって開業医になると、国が定める料金に加えて、医師が独自の判断で「上乗せ料金」を患者に請求できる制度が存在しており、技術や人気の高い専門医がこれを選択すると、年収は200,000〜350,000ユーロ(約3,300万〜5,800万円以上)へと跳ね上がります。

さて、日本の場合、どの診療科でも「専門医」を取得して資格を維持するためには「時間とお金(受験料・資格更新料)」がかかりますが、待遇が変わる制度は設けられておらず、給与体系上は「専門医未取得者」と同様に扱われます。

Q2:  「専門医証」は診療能力の証明書?

A2:  診療能力を客観的に評価することは難しく何とも言えません。

多くの学会では、専門領域の患者さんの診療経験や手術件数、それまでに書いた論文の申告に加え、ペーパーテストで合格すると「専門医」の資格が取得できるようになっています。診療経験の申告はレポート形式で行われるため、実際の診療能力をそのまま表しているわけではありません。仮想症例に対する診断方針・治療方針などのレポートを追加すれば、ある程度、受験者の医師としての判断力や知識の広さを評価することができるかもしれませんが、採点する側の負担も大きく、知る限り「専門医試験」でそのような実践的な能力を確認している学会はほとんどないと思われます。したがって、多くの方々から強いご批判を受ける覚悟で、あえて申し上げるのなら、現在のわが国の「専門医資格」は、「多くの医師が普通に通るべき道を辿ってきた証明」という程度のものとなっています。

なお今回は、海外の例ばかりを紹介したので、研修医(レジデントやジュニアドクター)の給料が高いことにも驚かれたと思いますが、日本の若い医師たちの収入は、高度な医療を行う公的基幹病院や大学病院ほど低くなっており、正確な統計資料がないためあくまで推測ですが、大学病院で働く若手医師の本務先給与は、施設や身分によって差がありますが、30代では400~500万円台程度にとどまる例も少なくないはずです(日本の労働者の年収中央値が400万円前後である今の社会情勢を考えれば、『十分に恵まれているではないか』と感じられる方もいらっしゃるかと思いますが、週60〜80時間を超える過酷な労働を時給換算すれば一般的なアルバイト水準以下です)。そのため、本業以外に他の病院で非常勤医師として兼業を行わざるを得なく、自らの勉強や家族と過ごすための時間を削らざるを得ない状況となっています。その上、「専門医」を取得するために学会に出張する際の旅費や、資格を取得・更新するための費用も病院から経費として手当が出るわけではなく、多くの場合「自腹」で支払わなければなりません。(注:あくまで私見ですが、2024年4月から本格導入された「医師の働き方改革(時間外労働の上限規制)」では、兼業の時間も制限されるようになったため、待遇の悪い大学病院を辞めて、最初から給与の高い市中病院(一般病院)へ就職しようとする若手医師が増加していることも「がん治療医」や「血液内科医」の不足が進んでいることと無関係ではないと考えています。)

本日は、ずいぶん生々しい話をしてしまいましたが、私が考える「専門医制度の問題」は、単なる医師の待遇改善を訴えるものではなく、皆様の声とお力をお借りして、以下のような改革を実現したいと思っているので、あえてご紹介いたしました。

1)若手医師が、お金や時間に追われることなく、目の前の患者さんとじっくり向き合える環境を作ること。

2)国際基準に劣らない、真に高い診療能力を持った「本物の専門医」が地域に増え続ける仕組みを作ること。

若手を育てる環境を整えることは、めぐりめぐって、未来の患者さんたちが受け取る「医療の質」を高めることに直結しています。医療の未来を、そして皆様の安心を守るために、私も医学教育者・医療従事者として何ができるのかを考え続けて参ります。

皆様は「若い医師を育てる」という観点から、このような現状をどのように思われるでしょうか。ぜひご忌憚のないご意見(お叱りも大歓迎です)をお待ちしています!

一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」発起人)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com  いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています](なお、このオフ・トークの内容はあくまで一戸個人の見解であり、本署名活動のサポーター方々や後援団体の立場を表明するものではありません。)

 

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