【オフトーク(Off-talk)・その1】 がんセンターや大学病院が赤字になるのはなぜ?


支援者の皆様へ
日曜日の夜分に失礼いたします。
大きな地震のニュースに不安が募る週末ですが、明日の深夜にあるサッカーW杯「日本 vs ブラジル戦」に向けての緊張感も高まりますね。
さて今晩は、息抜きコラムとして、皆様が日頃疑問に思っている医療の裏側について、私なりの視点で解説してみたいと思います。
最近、マスコミで「がんセンター」や「大学病院」などの公的病院が、深刻な赤字に陥っているという報道をよく目にしませんか?「なぜ大病院が赤字になるの?」と疑問に思う方も多いはずです。
実は、日本の医療には多くの人が知らない「価格の仕組み」があります。
1. 医療の価格は国が決めている(1点=10円のルール)
病院で行う検査や手術の価格は、「診療報酬点数」として全国共通で決まっています。これは「1点=10円」で固定されており、その換算式はなんと1958年(昭和33年)から一度も変わっていません。
2. モノや電気代は上がるのに、医療費は上がらない
近年、スタッフの人件費や薬剤費、電気代・水道代、医療機器の価格はどんどん上がっています。しかし、医療の価格(診療報酬)は物価に合わせて自動的に上がる仕組みにはなっていません。例えば20年前に100万円かかった治療が、今では物価高で150万円必要になっていたとします。それでも国が決めた価格が100万円のままなら、差額の50万円は病院の赤字(自己負担)になってしまうのです。ちなみにお隣の韓国では、 物価の上昇や経営コストの変化に合わせて、診療報酬の単価(1点あたりの価格)を「換算指数」により毎年見直す仕組みをとっています。
3. やればやるほど赤字になる「不条理」
大学病院や公的病院は、救急医療や重症患者の治療、難しい病気の研究、若い医師の育成など、「利益は出ないけれど、社会に絶対必要な役割」を担っています。そのためコストがかさみ、どうしても赤字になりやすい構造があります。普通の企業なら、原材料が上がれば商品の値上げをしますよね。しかし病院は自分で価格を決められません。「患者が増えれば儲かる」という単純な話ではなく、多くの患者さんを診療すればするほど赤字が増えるケースすらあるのが現状です。一部の病院では、入院患者さんに限り、DPCという制度(病名や治療内容ごとに1日あたりの入院費用が定額で決まる仕組み)が導入されていますが、一度の入院で複数の重い病気の治療を行った場合には、ひとつの病気に対するDPCで診療報酬が支払われることになるため、赤字になることを避けられません。
4. ベテラン医師ほど病院の収入を減らす?奇妙な逆転現象
現在の仕組みは、医師の「経験や技術」ではなく、検査や薬などの「モノ・行為」に対して点数がつきます。そのため、原因が分からずたくさんの検査をする若手医師が診たときの方が病院の収入(医療費)は高くなり、一瞬で正しい診断ができるベテラン医師が診たときの方が、検査が少ないため医療費が安くなってしまいます。
「優れた技術を持つ医師ほど、病院の収入を減らしてしまう」という、おかしな逆転現象が起きているのです。
まとめ〜私たちの未来のために
日本は世界に誇る「国民皆保険制度(みんなが医療を受けられる仕組み)」を持っています。しかし、それを支える病院が倒れてしまえば、将来、私たちが病気になったときに必要な医療を受けられなくなるリスクがあります。さらに現在は、深刻な「円安」も追い打ちをかけています。医薬品や医療機器の輸入依存による赤字(輸入超過額)は年間約6兆円(2024年の推計)にものぼり、医療現場をさらに圧迫しています。
わが国の優れた医療制度を未来へ残すためには、根幹である「診療報酬制度」のあり方を今こそ見直すべきです。市民の声を反映させながら、この制度をより良く改善していくことこそが、未来の私たち自身の命を守る最大の課題ではないでしょうか。
皆さんはどのようにお考えになりますか?
一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」発起人)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています](なお、このオフ・トークの内容はあくまで一戸個人の見解であり、本署名活動のサポーター方々や後援団体の立場を表明するものではありません。)