一戸 辰夫Hiroshima, Japan
Oct 9, 2026

本署名活動をご支援いただいている皆様へ

本日から三連休。少しでもごゆっくりとしていただけるお時間にお読みいただければと思い、本日のオフトークでは私たちが行っているもうひとつの署名活動をご紹介いたします。

若くしてがんになった人が、安心して治療に専念できる社会へ――AYA世代がん患者さんの休職中における社会保険料免除を求めます!
署名サイトURL: https://c.org/yzqSdVvSZH

すでによくご存じの皆様も多いと思いますが、AYA(Adolescent and Young Adult)世代とは、15〜39歳の若い世代を指す言葉です。進学、就職、結婚、出産、子育てなど、人生の大切なライフイベントが次々と訪れる時期にあたり、一般には病気にかかることが比較的少なく、まさに「社会の未来と活力を担う世代」といえる方々です。

しかし、そのような人生の希望と可能性に満ちたAYA世代の若者たちも、ある日突然、「がん」という大きな病気に直面することがあります。日本では、年間約20,000〜22,000人のAYA世代の方々が、新たにがんと診断されていると推定されています。

がんと診断された若者たちの中には、手術や抗がん剤治療などのために、それまで続けていた仕事を長期間休まざるを得なくなる方もいらっしゃいます。

そのようなとき、会社などに勤め、健康保険に加入している方々の生活を支える仕組みとして、「傷病手当金」という制度があります。病気のために働くことができず、給与を受け取れなくなった場合などに、一定の条件を満たせば、給与のおおむね3分の2に相当する金額が、通算1年6か月を限度として支給される制度です。これは、病気になった方々の生活を守るための、とても大切な社会保障制度です。

ところが、ここにあまり知られていない問題があります。

実は、傷病手当金を受け取りながら療養している間も、会社に在籍して社会保険の被保険者である限り、原則として健康保険料や厚生年金保険料を納め続けなければならないのです。

たとえば、月給30万円で働いていた若者が、がんの治療のために休職した場合を考えてみましょう。

それまで毎月30万円あった給与収入がなくなり、傷病手当金として受け取れる金額は、おおむね月20万円になります。ところが、その20万円からも、休職前と同じように健康保険料や厚生年金保険料を負担しなければなりません。

その結果、実際に生活費として使えるお金は、さらに少なくなってしまいます。

就職して間もなく、十分な貯蓄がない方もいらっしゃるでしょう。奨学金を返済している方、結婚したばかりの方、小さなお子さんを育てている方もいらっしゃると思います。

そのような若者たちが、がんという病気と闘いながら、同時に家計のやりくりにも苦しまなければならないとしたら、私たちの社会は、この問題をそのままにしておいてよいのでしょうか。

今回、紹介する署名活動は、まさにこの問題を皆様と一緒に考え、改善を求めていこうという取り組みです。私たちが求めているのは、若くしてがんになり、治療のために仕事を休まざるを得なくなった患者さんについて、傷病手当金を受給している期間の健康保険料と厚生年金保険料を免除していただきたい、ということです。
病気になる前には一生懸命働き、社会保険料を納めていた若者が、がんという思いがけない病気に直面したとき、安心して治療に専念できるようにしてほしい。
ただ、それだけの願いです。

実際、若くしてがんになった人の社会保険料を免除するには、いったいどのくらいのお金が必要なのでしょうか?

■ AYA世代がん患者さんが傷病手当金を受けている間、社会保険料を免除すると、国全体ではいくら必要になるのでしょうか?
今回、私たちは厚生労働省の全国がん登録、全国健康保険協会(協会けんぽ)の傷病手当金統計、健康保険被保険者の標準報酬月額に関する公的統計を用いて、試算を行いました。
方法は二つです。
一つは、毎年新たにがんと診断される19歳から39歳の方の人数から、傷病手当金の受給者数や受給期間を推計する方法。
もう一つは、実際に協会けんぽから傷病手当金を受け取っている若いがん患者さんの統計を出発点とする方法です。
その結果、一定の仮定のもとでは、健康保険料と厚生年金保険料などを、本人と事業主の負担分を合わせて免除した場合、年間20億~30億円程度という暫定的な試算になりました。
もちろん、これはまだ確定した数字ではありません。
傷病手当金を受給している方の実人数や、休業期間、加入している健康保険の種類などによって、金額は変わります。
では、もっと長期間にわたって社会保険料を免除した場合は、どうなるのでしょうか。
現在、傷病手当金は、一定の条件のもとで通算1年6か月(18か月)まで受給することができます。
そこで、今回の試算で想定した対象者全員が、仮に18か月間にわたって社会保険料の免除を受けるとしたら、どの程度の財源が必要になるかも計算してみました。
その結果、年間新規患者数を出発点とする中位シナリオでは、制度が定常状態に達した場合の年間財政影響額は約71億円となりました。

この71億円という数字は、対象者数や平均標準報酬月額などを固定し、免除期間を6か月から18か月に延長した場合の試算です。すべての患者さんを対象とした制度全体の最大額という意味ではありません。
また、退職後も傷病手当金を受給できる場合があることなどから、実際に18か月間の社会保険料がすべて免除対象になるとは限りません。
それでも、私たちが求めている制度にどの程度の財源が必要になるのか、議論を始めるための一つの目安にはなると思います。

■ 一方、出産や育児のために休業する方の社会保険料は、すでに免除されています:
ここで、ぜひ皆様と考えてみたいことがあります。
現在の日本では、会社員などが産前産後休業や育児休業を取得した場合、一定の条件のもとで、健康保険料と厚生年金保険料が、本人負担分だけでなく事業主負担分も免除されます。
私たちは、これはとても大切な制度だと思っています。

新しい命を迎え、育てる人たちを社会全体で支えることには、大きな意味があります。
では、若くしてがんになり、治療のために仕事を休まなければならなくなった人たちについても、同じように社会全体で支えることはできないのでしょうか。
今回、令和6年度の厚生年金保険に関する公的統計を調べたところ、年度末時点で、育児休業等により厚生年金保険料の免除を受けている方は約65万人でした。
その平均標準報酬月額から計算すると、この約65万人について、労使双方の厚生年金保険料を1か月免除する金額は、約348億円に相当します。
これは年度末時点の人数を用いた1か月相当額であり、年間の実際の免除総額ではありません。また、健康保険料の免除分も含まれていません。

一方、若いがん患者さんへの免除について今回得られた暫定推計は、年間20億~30億円程度です。さらに、全員が18か月間免除を受けると仮定した中位シナリオでも、年間約71億円となりました。
両者は集計期間も計算方法も異なるため、単純に比較することはできません。
それでも、若いがん患者さんを支えるために必要な財源は、すでに存在する育児休業等の社会保険料免除制度と比較して、相当に小さい規模にとどまる可能性が高いことが見えてきました。

■ これからも、数字と現実の両方を大切にしていきたいと思います:
今回の試算は、あくまで出発点です。

今後も公的統計を丁寧に調べ、必要に応じて厚生労働省にも情報提供をお願いしながら、より正確な財政影響額を明らかにしていきたいと思います。
その一方で、数字だけでは見えてこないものがあることも、忘れたくありません。
病室で治療を受けながら、今月の家賃や社会保険料の支払いを心配している若い患者さんがいるかもしれません。
小さなお子さんの寝顔を見ながら、治療が終わったらもう一度働けるだろうかと、不安な夜を過ごしている方もおられるでしょう。

そうした方々の負担を少しでも軽くするために、私たちにできることは何でしょうか。
大きな制度改革を求めるときほど、感情だけでなく、できる限り確かな数字を示して議論することが大切だと思っています。
今回の調査結果が、そのための小さな一歩になれば幸いです。
これからも皆様と一緒に考え、行動を続けていきたいと思います。

引き続き、温かいご支援をどうぞよろしくお願いいたします。

一戸 辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」 代表)
[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com  いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています]

参考資料:
•    厚生労働省「全国がん登録 2023年罹患数・率報告」
•    全国健康保険協会「令和7年度 現金給付受給者状況調査」
•    厚生労働省「令和6年10月 健康保険・船員保険被保険者実態調査」
•    厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業年報」

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