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【オフトーク(Off-talk)・号外版】:硤合(そあい)憲三先生、ノーベル化学賞受賞おめでとうございます🥳❣️―30年後の科学と医療を、誰に託すかを考えてみました

一戸 辰夫Hiroshima, Japan
Oct 7, 2026

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昨日、とてもうれしいニュースが飛び込んできました。
東京理科大学名誉教授の硤合(そあい)憲三先生が、2026年のノーベル化学賞を受賞されました。
心よりお祝い申し上げたいと思います。

授賞理由となったのは、「不斉有機合成(ふせいゆうきごうせい)における非線形効果と自己触媒作用の発見」。私自身も十分に理解できていない😅、とても難しい言葉が並んでいますが、およそ次のような研究成果です。

生命を構成する分子には、私たちの右手と左手のように、鏡に映すとそっくりなのに、どうやっても重ならないものがたくさん存在します。これらは「光学異性体(こうがくいせいたい)」などと呼ばれています。
医薬品の世界でも、この「右手と左手」の違いはとても重要です。同じように見える分子でも、「右手の形」には薬としての作用があるのに、「左手の形」では作用が弱かったり、別の作用を示したりすることがあります。そのため、薬を作る際には、目的とする一方の形だけを選択的に作り出すことが重要になります。硤合先生は、こうした「生命の左右」の謎に迫る独創的な研究を長年続けてこられました。
そして、一方の「手」の分子が自分自身を作る反応を助けながら、同じ「手」の分子を次々と増やしていくという、驚くべき「不斉自己触媒反応(ふせいじこしょくばいはんのう)」を発見されました。これが世界的に「硤合反応」と呼ばれるものです。この発見は、「なぜ生命をつくる分子には右と左の偏りが生まれたのか」という、生命の起源にもつながる大きな謎を考える手がかりにもなりました。

そして今回、私がとても印象深く感じたことがあります。
硤合先生が、この「硤合反応」の研究成果を発表されたのは、1995年です。
実に30年以上前です。
つまり、昨日世界が称賛した研究は、30年前にはまだ「将来ノーベル賞になる研究」ではありませんでした。
一人の研究者が抱いた好奇心から始まった、基礎研究だったのです。

そこで、ふと考えました。
30年後のノーベル賞につながる研究をしている若者は、いま日本のどこかにいるのでしょうか。
少し調べてみると、気になる数字がいくつも見つかりました。
日本の大学院博士課程への入学者は、近年は持ち直しの動きもみられますが、2003年度の約1万8千人をピークに長期的に減少しています。修士課程を終えた若者のうち、さらに博士課程へ進む割合も、2000年度には16.7%でしたが、2024年度には10.4%です。
人口100万人当たりの博士号取得者を国際比較すると、日本は123人。
英国355人、韓国342人、ドイツ314人です(各国の直近の公表値による比較)。
さらに驚いた数字があります。
日本の大学の常勤教員のうち25~39歳の若い教員は、1986年には全教員の39.0%を占めていました。
2022年には20.8%です。
40年足らずの間に、ほぼ半分になりました。

化学の世界でも、この問題は深刻に受け止められています。
文部科学省は、化学などマテリアル研究と関係の深い分野では、博士課程への進学率が理学系の中でも低いことを指摘しています。
日本化学会も「科学技術立国を支える化学系博士人材を殖やす」という特集を組み、博士課程へ進む若者をどう育てるかを議論しています。

理由は決して、今の若者たちが科学を嫌いになったからではないでしょう。
博士課程に進めば、経済的にどうなるのか。
博士号を取ったあと、安定した職に就けるのか。
研究者として生きていけるのか。
文部科学省自身が、若手研究者の安定的なポストの不足やキャリアパスへの不安が、博士課程への進学をためらわせる要因になっていると分析しています。

ここまで調べて、私は何だか「どこかで見た風景だな」と思いました。
そうです。私たちが、この署名活動を通じて見てきた医療の世界です。
若い医師たちは、とても合理的です。
将来性、働き方、専門医取得までの道のり、勤務する地域、家族との生活。
さまざまなことを考えて診療科を選びます。
それは当然のことです。
科学者も同じでしょう。

だからこそ私は、「若者が選ばない」と若者を責める議論には、あまり意味がないと思っています。
問われるべきなのは、
私たちの社会が、若者たちにどのような選択肢を用意しているのか
ということではないでしょうか。
科学の世界では、研究者が減ってしまった分野があっても、その影響が明日すぐに現れるとは限りません。
医学も同じです。
血液内科医が今年少なくなったからといって、明日から白血病の治療ができなくなるわけではありません。
大学から若手研究者が少しずつ減っても、翌年から研究が止まるわけではありません。
だから、この問題は気づかれにくい。
けれども、10年、20年、30年と時間が経ったとき、突然、
「次に研究する人がいない」
「次に教える人がいない」
「次に患者さんを診る人がいない」
という形で姿を現します。
そして、その時になって若者を育て始めても、間に合いません。

昨日のノーベル賞のニュースを見ながら、私はもう一つ考えました。
1995年に硤合先生が発表された研究を、当時の日本社会が、
「すぐに何の役に立つのですか」
「もっと成果の出やすい研究をしてください」
「将来性のある分野へ移った方がいいのではありませんか」
と言っていたら、どうなっていたでしょう。

科学も、医療も、人を育てるにはとても長い時間がかかります。
そして本当に大切な仕事ほど、その価値が分かるまでにも時間がかかるのかもしれません。
だからこそ、社会には「待つ力」が必要なのだと思います。

若者が安心して、まだ答えのない研究に挑戦できること。
若い医師が、患者さんのために必要だと思う診療科を選べること。
そして、その選択をした若者が、「この道を選んでよかった」と思える環境をつくること。
それは科学政策と医療政策という別々の問題ではなく、この国が次の世代に何を残そうとしているのか
という、同じ問いなのではないでしょうか。

硤合先生、本当におめでとうございます。
そして願わくば30年後。
いま日本のどこかで研究を始めた若者たちの中から、再び世界を驚かせる発見が生まれますように。
同じように、30年後の日本でも、白血病や悪性リンパ腫になった患者さんが、日本のどこに住んでいても、安心して専門医の治療を受けられますように。
そのために必要なのは、未来の天才を探すことではありません。
まだ「何者になるかわからず、多くの可能性を秘めた」若者たちが、自分の選んだ道を歩き続けられる社会をつくること。
昨日のノーベル賞のニュースは、そんな当たり前のことを、私たちにもう一度教えてくれたような気がしています。

P.S. 「次の世代の医師を育てるための制度を見直す」下記の署名活動にも、ぜひ応援をお願いします🙇🏻‍♂️🙏
「あなたの病気を診られる専門医が、この地域にはいません」〜国民に必要な医師の育成を求めるための緊急署名!!
署名サイト:https://c.org/GMMxHZ67Qt

一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」代表)
[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com  いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています](なお、このオフ・トークの内容はあくまで一戸個人の見解であり、本署名活動のサポーター方々や後援団体の立場を表明するものではありません。)

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