Petition update日本最初の近代的洋風公園・日比谷公園の歴史と1000本の樹木を破壊しないで!日比谷公園が舞台の芥川賞作品、吉田修一『パークライフ』(2002)
日比谷公園の歴史と文化を こよなく愛する会Japan
5 Oct 2023

2002年の芥川賞受賞作、吉田修一氏の『パークライフ』は、日比谷公園を舞台に近隣で働く男女の日常的触れ合いが描かれています。

特別な事件などなく、ごくありふれた会社員生活の中で、毎日のランチタイムは色鮮やかに描写されます。
それは大かた日比谷公園の心字池を囲むベンチで、池や水鳥や周りの人々を観察しながら、あるいは噴水広場のベンチで疲れ気味の会社員を見ながら、コーヒーを飲む時間です。

主人公は駒沢公園の近くに住んでいますが、印象的なことは日比谷公園の前後左右で起こるのです。

ある時、彼は会社の先輩に「どうしてみんな公園に来るんでしょうね?」と尋ねます。先輩は真剣に考えあぐねて「ほっとするんじゃないのか……ほら、公園って何もしなくても誰からも咎められないだろ。逆に勧誘とか演説とか、何かやろうとすると追い出されるんだよ」と言います。

そこで我々読者はハッとします。「そうか、何もしないでいられるのは、公園の中だけなのだ」と気づくのです。
公園は、常に忙しくストレスに満ちた現代の都市住民に、唯一何もしない時間を与えてくれる場所なのですね。

知人友人はいるものの、基本的に孤独に暮らす独身の主人公が、生き生きと会話を交わすのも、日比谷公園の中なのです。

日比谷公園にたどり着くまでに通る、地下鉄、地下通路、ビル、スターバックスの店も、全て暗く無表情、無機質に描かれており、日比谷公園が如何に都心に奇跡的に存在する生物的有機的、開放的空間であるかも感じさせます。

主人公が歩き回る日比谷公園は、心字池から、噴水広場、第1&第2花壇、テニスコート、三笠山、平和の鐘、草地広場…と広く横に広がっていますが、同時に、心字池の水面から、高い土手にあるベンチ、噴水広場の空、という具合に、公園内の高低も盛んに移動しているのです。公園を3次元的に捉えています。

主人公の感受性は、日々をおとなしく送りながら、なぜか「日本臓器移植ネットワーク」の広告、雑貨屋の人体模型、レオナルドダヴィンチの素描画、アメリカで急成長するヒト組織販売会社、などを気に留めています。それらは全て人体を扱っています。思い出にある鍾乳洞からも、人体内部を連想しています。

最終的に彼の感覚は、日比谷公園が一つの人体のように感じるようになるのです。
上空から公園全体を俯瞰すると、公園全体の長方形は人体胸部図に見えて、心字池が心臓に、桜門からのイチョウ並木が食道に、草地広場が胃袋で、日比谷図書館あたりでうねうねと腸が蛇行して、中幸門が肛門になる。日比谷公会堂の形をした膀胱があり、雲形池が肝臓で、第2花壇は膵臓であると。小さな人々は細い小路を抜け、噴水広場を横切り、あちこちの出口から、汗のように外に出ていく、と。

つまり公園は完結した一つの宇宙に捉えられるのでしょう。
確かに日比谷公園には、あらゆる景色、あらゆる美しさ、あらゆるものがあります。ここに静かに浸り散歩に勤しめば、傑作小説が生まれるのも、全く不思議ではありません。

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