

5月17日、ショッキングな文書が文科省のサイトに掲載されました(全文を末尾に掲載)。
中教審での議論について、NHKが5月13日に、「定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない教員の給与の枠組みはこのように呼ばれています」と紹介。
その内容について、文科省が局長名義で遺憾の意を表し、今後の報道の見直しを求めたものです。
「抗議」の理由は、以下の2点と考えられます。
①教師の働き方を「定額働かせ放題」と見なすのは「一部の方々」であり、「教育界で定着」したものではないこと
②なぜそのような制度になっているのか、なぜ今後も維持することにしたのかという国の言い分が十分に伝えられていないこと
誤報を含むわけではない当該放送に対する文科省からの「抗議」は、行き過ぎたものであると感じられます。
ぜひ皆様には以下をお読みいただいた上で、NHKにメッセージを送っていただくことができれば、メディアの萎縮を食い止める一助になるかと思います。
▷NHKへのご意見投稿
▷「問題」とされた放送:「教員給与 半世紀ぶり引き上げ方針 “定額働かせ放題”は…」
▷文科省へのご意見投稿(政策評価に関すること)
■学校を取り巻く環境
現在の公立学校では、文科省調査の結果、授業期間中の残業時間が月平均で小学校は約82時間、中学校は約100時間、高校は約81時間となっています(2022年度教員勤務実態調査の結果を4週間換算、持ち帰り仕事含む)。
しかし公立教師は「特殊である」という理由から、給特法により残業代は一円も支払われておらず、その代わりに月給4%が「教職調整額」という名目で支給されています。
この度、中教審は調整額「4%(月1〜2万円程度)」を「10%以上(月2〜4万円程度)」にするという提言をまとめましたが、残業代を支払う必要はないとする給特法の枠組みは残り続けます。
NHKはそのことを番組冒頭で端的に述べた上で、国の審議結果を詳しく放送していたものと考えます。
■文科省による「抗議」の問題点
(1)
教師が「定額働かせ放題」と呼ばれるような環境に置かれているというのは、決して「一部の方々」の認識ではなく、ある程度「教育界で定着」したものではないかと考えます。
「一部の方々」の認識ではないからこそ、私たちの署名には多くの方々(皆様)からの賛同が集まったものと考えています。
また今年3月には、日本教職員組合により、「「定額働かせ放題」の「給特法」を廃止・抜本的に見直してください」との訴状を含む、実に70万筆もの署名が集まっています。
(2)
加えて重要な点として指摘したいのが、この文科省と学校現場の認識の「ズレ」こそが、学校の長時間労働が解決しない大きな原因の一つではないかということです。
今回の文科省の「抗議」はNHKに対するものですが、それは現場教師がエンドレスな勤務を余儀なくされている現状から目を背けるものであり、文科省に対する現場の不信感を一層増幅させるものであったと残念に思います。
(3)
明らかな誤報を含むわけではない今回の放送に対する国からの「抗議」は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。② 検閲は、これをしてはならない。」と定めた憲法21条に違反するものであると言っても過言ではありません。
NHKに限らず、今回の「抗議」を見た他のメディアが萎縮し、今後文科省への「忖度」が働いてしまうかもしれません。
(4)
今回の「抗議」に関するもう一つの大きな違和感は、放送は「中教審のまとめ」についてのものだったにも関わらず、「抗議」を出したのが文科省の局長であったということです。
中教審の部会長が(せめて連名で)遺憾の意を表するならまだしも、あくまで中教審事務局に過ぎない文科省が、中教審を代弁して「定額働かせ放題ではない」と述べるのは、今回の中教審が文科省主導によるものであったとの疑いも生じさせてしまいます。
■資料(文科省からNHKへの「抗議」全文)
令和6年5月 17 日
日本放送協会メディア総局長 殿
文部科学省初等中等教育局長 矢野和彦
「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(審議のまとめ)に関する令和6年5月13日の貴放送協会の報道について
去る5月13日(月)の貴放送協会の報道においては、冒頭「定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない教員の給与の枠組みはこのように呼ばれています。」としたうえで、「定額働かせ放題ともいわれる枠組み自体は残ることになります。」と報じられました。
今回のこの貴放送協会の報道は、公立の義務教育学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)について、教師の職務等の特殊性に基づき給与等の勤務条件の特例を定めていることなど、なぜこのような制度になっているのか、現行の仕組みや経緯、背景について触れることなく、一部の方々が用いる「“定額働かせ放題”の枠組み」と一面的に、教育界で定着しているかのように国民に誤解を与えるような表現で報じるものでした。
また、様々な議論を経て中央教育審議会の「審議のまとめ」が取りまとめられたにもかかわらず、今回、なぜ教職調整額の仕組みを維持するとしたかという中央教育審議会における 議論の内容に触れることのない一面的なものでもありました。
このような今回の貴放送協会の報道は大変遺憾です。報道に当たっては、国民の皆様の正確な理解につながるよう、丁寧な取材に基づき、多面的に、公平かつ公正に取り扱う報道をするように求めます。