前回に引き続き、元新宿区保健所職員として、2001年度に東京23区内で初めて、東京都が提唱した「飼い主のいない猫との共生モデルプラン」で地域指定を受け、行政マンとして地域猫事業の取り組みを牽引し、大阪市のノラ猫対策の制度策定にも関わられた高木優治氏の地域猫活動講座です。非常に具体的で現場に適用できることが多いので、既に活動している方、これから地域猫活動を始める方も是非ご一読ください。
地域猫活動 実践編
地域猫活動は、自分の住んでいる町で、猫のテリトリーを守備範囲として取り組むことが基本です。取組むうえで大事なことは、お互いの違いを認めたうえで、出来ることを出し合うことです。
1 地域猫対策はTNR+M
地域猫対策という言葉が生まれて25年近く経過してきています。その中でTNRが地域猫対策であるかのような印象も生じています。
<T:トラップ(捕まえる)、N:ニューター(不妊化手術する)、R:リターン(戻す)>
しかし、TNRは、地域猫対策のスタートに過ぎません。
術後の猫を元に戻すことによって、新たな猫の参入を防ぐと同時に、餌場で猫の数を確認することで、猫の数の変化が分かります。さらに、捨て猫や迷い猫などを把握することができ猫の増加も防ぐことができます。
特に、手術後は猫の見守り活動を継続することにつき近隣住民の理解・協力を得なくてはいけません。そのためには、活動内容について事前の告知と事後の報告をできる限り丁寧にすることが大切です。
猫を捕獲して手術をすること(TNR)は、あまり目立つことではありません。一方、毎日餌を与え見守り活動をする姿は地域住民にとって目につき、問題視されやすいです。このような誤解を避けるために、定時定点での餌やりと餌場の整理、フンの片づけ等適切な管理(見守り:マネージメント:M)を行い、さらに手術をした猫の数や世話をしている頭数に関する報告をこまめに出すことで、理解者を増やし、協力者や援助の仕組みを作ります。
以上のような方法をできる範囲で実施することで、見守り活動に対する妨害や無理解が減少していきます。実施地域での「知らない」「聞いていない」などの声が出ないようにすることがポイントです。
------猫を減らしていく過程で不可欠な日々の餌やりを含む術後の猫の管理、見守りは目立つので、矢面に立たされることが多いです。誤解からくるトラブルや苦情を避けるためにも地域住民としっかりコミュニケーションを取り、正しく理解、協力してもらうことが重要です。
2 取組みのポイント・地域広報の重要性について
地域猫対策はTNR+Mなので、地域住民への広報がとても大事になってきます。
・なぜ「地域猫対策」をするのか。
・地域猫対策はどのような取り組みなのか
・手術の必要性・見守りの必要性
などを丁寧に実施地域に広報することが必要です。
さらに広報をするうえで大事なことは、「相手に伝わる言葉」でチラシやポスターを作ることです。どうしても、活動している「仲間同士のみで通用する言葉」「わかっている言葉」を使用しがちですが、伝えたい相手、地域住民が日ごろ使用している言葉を使う事で理解と協力が得られる可能性が広がります。
そのうえで、・実施予定地域の取り組みについて行政担当部署と事前の打ち合わせを行い
・連名のチラシの作成やポスターの作成
・自治会対策についても情報交換や対策を相談する
・自治会役員に対して理解を求めるように話をする
・自治会掲示板や回覧版の使用を認めてもらうこと等を行政担当者と同行して話をする。
・自治会会掲示板以外に、ポスティングや直接地域住民に会って話をする
・最寄りの交番にチラシやポスターを届けて説明をする。
特に保護用ケージをしかけて、捕まえる前には、
・飼い主に対する注意喚起チラシを配布する。
・手術実施後は、経過の報告チラシを作成し配布をする。
・その後も定期的に経過の報告チラシを作成し配布する。以上のことをできる範囲で実施することで、活動の広がりと理解が得られやすくなります。
------ありとあらゆる媒体と方法で、地域住民・行政と情報や認識を共有する具体例として、非常に参考になりますね。
問題が起きている地域では、自治会役員の理解を得ることは時間がかかりますが、得られるまで対策を先延ばしにすることは、さらに猫の繁殖を促すことになり、余計に金銭的負担や捕獲にかかる労力が増えることになりますので、実施しながら自治会対策をするようにすべきです。
3 地域猫対策はボランティア・自治会(地域住民)・行政の協働した取り組み
<ボランティア・町会(地域住民・自治会)・行政の3者+獣医師の取り組み>
地域猫対策は地域での問題解決のための取り組みです。具体的には、猫に対する不妊化手術の実施・術後の見守りなどの実施ですが、事前に、自治会に「お困りごとの解決に向けて取り組む」ことの説明やあいさつをすることが大事です。
地域の問題を地域で解決する仕組みづくりは、住民自治の基本であり、行政がその下支えをするのは当然のことです。
さらに、環境省の動物の愛護に関する基本的指針の中に、猫をめぐるトラブルを解決する対策として地域猫対策が有効であり、引き取り頭数の削減に効果があると記述され、地方公共団体で取り組むことが明記されています。
この対策の具体的活動は地域でボランティアが担います。行政は直接現場を持つ事はありません。つまり行政は、ボランティアが動きやすいようにフォローすることが大きな仕事になります。そのためには、こまめにボランティア達と話し合いをして情報交換を行い、現地に直接足を運び現場の状況を把握し、バックアップを具体化していきます。ボランティアが行政の下請けになることは避けるべきです。
また、この取り組みは、実施主体となる住民やボランティア、地域によって異なり画一的に方法を固定化するのではなく、柔軟な対応が必要であり、行政にはそのコーディネイト力が求められます。
さらに、動物病院(獣医師)の協力が不可欠です。ご近所の動物病院さんにも協力をお願いすることも大切なことです。
これらの取り組みを実施していく中で、地域でのトラブルも解消され、野良猫の生息数も減少し、動物愛護センターに引き取られる野良猫の数も減ることにつながります。
------地域猫活動を進めることにより、猫の数が減り、地域トラブルのみならず、センターへの収容数も減ります。その結果、殺処分減少にも繋がります。
4 地域での取り組みの方法は柔軟に(地域猫対策を固定的にとらえない)。
① 地域猫対策のスタイルは一つではない。
② 町会や住民のかかわり方、ボランティアグループのかかわり方によって異なる
③ 地域猫対策は、継続性が求められるので、後継者の育成を含め柔軟な対応が必要。無理せず、できることをお互いが積み上げる。
④ 地域合意を絶対条件とはせず、できることから始め。地域に対して、取り組みの成果や方法について報告し、理解と協力を得るようにしていく。
➄ 苦情発生現場などは、手術を先行しながら地域広報活動をしていく。
⑥ お互いの違いを認めて、できることを持ち寄って進めていく。
------コミュニケーションを密にとりながら、多くの人の参画を促すこと。相互に理解・尊重しつつ、迅速かつ柔軟に活動を実施していくことが成功の肝です。大阪市の現行の制度のように「自治会長の合意書」で足止めをしていては、地域のトラブルはいつまでも解決しません。
5 地域猫対策の今後と課題
横浜市磯子区で「地域猫対策」の取組みが始まった1997(平成9)年からすでに25年近い年月が経っています。
環境省のガイドラインが2010(平成22)年に作成されてからも10年以上の時間が過ぎました。
これまで、各地で様々な形で地域猫対策が取り組まれ、活動に携わる人達も多様な考えをもっています。被害を受けている人が中心になったケース、動物愛護精神にあふれた人が中心になったケース、地域環境を保全したい人が中心になったケース、犬の飼い主さんが中心になったケース、大学生や高校生が中心になったケース、教師や教員が中心になったケース、商店街のまとめ役が中心になったケース、町会役員が中心になったケース等。関わり方はそれぞれ異なっても、野良猫問題を地域の課題として受け止め、考え方の違いを認め合い進んできました。
地域猫対策に取り組んだ餌場に猫が現れなくなり終了するケースも増え始めてきました。
地域猫対策は終わりのある取り組みなのです。
------地域猫活動は、終わりのある活動、終わらせるための活動であることは忘れてはなりません
これからの問題として多頭飼育崩現場や高齢者による飼育放棄など、ボランティアの負担が増大しています。ボランティアを疲弊させず、マンパワーを有効に活用するためにも、地域猫対策に対する地域の理解と協力を広げ、参加する地域住民を増やすことが一層大切になってきています。
そのためには、猫好きな人や動物に関心のある人だけに活動の主体を任せるのでなく、地域課題として、住民が参加する仕組みをつくり、排除でなく共生する地域社会を目指して行政の果たす役割はますます増大していると考えます。
多頭飼育崩壊や高齢者問題では、縦割り行政の弊害を廃し、行政内部で高齢者対策・福祉関係・公営住宅管理部所等との連携をはかるとともに官民の枠を超えて地域での協力も必要となっています。
新宿区の「飼い主のいない猫に関する去勢不妊手術費助成金」の申請は、自治会長の確認や同意書の添付は必要なく区民であれば、だれでもできる申請できる制度です。
活動地域の自治会に対する説明やチラシの作成などは、ボランティアとともにケースバイケースで取組み、行政とボランティアとの情報交換会なども催し、その結果、多頭飼育崩壊問題でも協力関係が生まれ問題発生の予防・解決の大きな力になっています。
この協働関係をより進めていくことが行政にとっての課題であると考えています。
〜おわりに 地域猫対策の効果について
新宿区での効果について以下簡単に記載します。
① 苦情相談件数の減少(猫に関する苦情件数)
2001(平成13)年度 苦情250件
2010(平成18)年度 苦情134件
2020(令和2)年度 苦情8件 97%減
② 路上猫死亡数の減少
2010(平成13)年度 168匹
2020(平成18)年度 20匹 88%減
これらの数字により、 飼い主のいない猫問題解決に「地域猫対策・活動」が間違いのない効果を生んでいることが証明されています。
地域猫活動に多くの人が参画できる制度にし、皆の力を持ち寄り、ノラ猫問題を終わらせましょう。
-------行政マンとして第一線で長年活動し、現場を知り尽くした高木優治さまの講義は、非常に具体的かつ実践的で分かりやすいです。現在活動する方々にとっても、すぐに活用できることが沢山あるのではないでしょうか。
次回は新宿区の多様性に富んだ取組みをケーススタディご紹介します。
この署名をお友達やご家族にお知らせいただけると幸いです。
大阪から日本を変えていきましょう。

