問題の始まりは、新聞報道
2017年に治療用装具の代金が不正に保険請求されているという新聞報道を受け、厚生労働省が専門委員会にて議論し、不適切利用を減らす目的で2018年2月に通知を発出することになりました。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13094873.html?iref=pc_ss_date_article
https://digital.asahi.com/articles/DA3S13094858.html?iref=pc_ss_date_article
専門委員会の議論(第3回社会保障審議会医療保険部会 治療用装具療養費検討専門委員会議事録(2017年12月27日) (mhlw.go.jp))では、本来、医師の指示で購入し、医師が確認した装具のみが保険の対象となる訳ですから、そこに「不正」があるとすれば、まず問われるべきは医師の責任ではないかと思いますが、なぜか、医師の責任については何も触れられていません。
そして、保険者から出された「不適切」事例は、「請求金額の水増し」「領収書の不実記載」「現物と請求内容の相違」等々で、議論の中で保険者代表が「装具業者が景品類をつけて患者を誘引して装具を作製している事例」などは「通知等を出して明確に禁止すべき」と怒りを業者に向けていることからもわかるように、もっぱら装具業者の「不適切行為」が問題にされ、その防止策が議論されています。
その結果、具体的な防止策の一つとして、装具業者の領収書に「治療用装具を取り扱った義肢装具士の氏名ということで、これもきちんと書いていただくようにする。これは、ある意味、牽制効果でございますが、きちんと誰々の責任でこれはつくったんだということを書いていただくということでございます」ということが提案され、了承されました。それを踏まえて、「通知」に、装具業者の領収書には「治療用装具を取り扱った義肢装具士の氏名」が「記載されていることが適当である」と記されることになります。
混乱の始まりはここから
この議論の中では、なぜ「義肢装具士の氏名」なのかについては何も議論されていませんが、通常は義肢装具士が装具業を営んでいますので、「誰々の責任で」という時に、責任者として「義肢装具士の氏名」を領収書に書かせる、ということは理解できます。
しかし、義肢装具士の資格は、国家資格としては、名称独占の資格で、業務そのものの独占を認めた資格ではありませんから、装具業を義肢装具士でない人たちが行ってはいけないわけではありません。だから、保険者からの上記のような怒りの声に対しても、「法律上に規定のない業者に対して直接禁止を指示することは困難です」と「通知」に関する補足に書かれているように、装具業自体が何らかの規制を受けた(許認可条件等)業ではありませんから、義肢装具士でない人たちによる装具業自体が禁止されているわけではありません。一般的に、そのような事業者がいないというだけのことです。
ところが、実際には、ごく少数とはいえ、特別な靴を提供している業者の中に、「装具」を提供する、つまり「装具業」をも営んでいる人たちがいたのです。それは、日本では、市販靴では歩けない、足の不自由な人たちのための特別な靴のことを「靴型装具」と言い、「義肢装具」の一つとして義肢装具士の業として提供されるものとされていますが、残念なことに、義肢装具士であれば誰でもが靴の技術を十分に身につけているというわけではないため、例えば、大牟田周辺の医師たちが依頼できる義肢装具士で、医師が満足できる(患者や障害者に役立つ)靴型装具を提供できる義肢装具士は皆無です。
福岡県立大学の業績
福岡県のこのような現実を前に、福岡県立大学の先生方が、「靴型装具」とは言っても、それは、半世紀以上も前に orthopedic shoes(整形外科的靴)を日本流に訳した名称で、今の医療現場では「整形靴」と言われているように、本来は靴の技術であって「装具」の技術ではないのだから、靴技術者とのコラボで何とかしなければいつまでたっても事態は改善しない、との思いで、10数年前からプロジェクトを立ち上げ、靴の開発や技術者の養成等々に励んでこられました。
その成果として、大牟田では、10年ほど前に「足と靴の相談室」がNPO法人によって設立され、近郊の医師と連携して、リウマチや麻痺などの病気や障害で市販靴では歩けない、また、総合病院などの義肢装具士が作っても痛くて履けなかった、等々の方達に、治療用、または更生用の「靴型装具」として提供され始め、当然、治療のために提供されたものは、例外なく保険の適用を受けてきました。
それが、今回の通知によって、混乱が起こることになりました。
忘れ去られた「通知」発出の意義
当初は、通知が出た背景をふまえ、責任の所在を明確にするという意味で責任者の実名(義肢装具士ではない)を記載することで問題なく支給され続けていましたが、2019年度になってから、〈厚生労働省が、通知の意味は「義肢装具士が取り扱った治療用装具でないと保険の対象にできない」ということだ、と言っている〉との主張が保険者の間から出てくることになり、福岡県や熊本県では、県の医療保険課の認識もそのようなものになったため、後期高齢者医療広域連合や県下の市町村自治体の多くがそれに従うことになりました。
なぜ義肢装具士が取り扱っていない装具を保険適用にしないのか、との疑問に対しては、本来治療用装具は義肢装具士が取り扱うべきだから、というのが厚労省の見解のようですが、その見解については、この問題を重視した国会議員の皆さんを始め、各方面の皆さんが、厚労省にその法的根拠等を明示するように働きかけてくださっていますが、未だ明示されてはいません。私たちも、この見解には疑問を持っていますので、国会議員の皆さん方の働きかけには期待しております。
しかし、今回私たちが、厚生労働省に「通知」の記述の改善を求め、皆様にもご賛同をお願いしているのは、この厚労省の見解を直接問題にしてのことではありません。義肢装具の提供を業とする義肢装具士という国家資格制度があるわけですから、本来、治療用装具は義肢装具士が提供すべきだ、また、だから、保険の適用も義肢装具士が取り扱ったものに限るべきだ、という主張そのものを、ここで問題にしているわけではありません。
むしろ、私たちは、現実にこのような問題が顕在化しているわけですから、厚労省が、治療用装具としての靴型装具を義肢装具士が取り扱わなければ保険適用できない、ということであれば、改めて、その問題を真正面から、それこそ有識者を交えた専門委員会ででも議論していただきたいと思っています。その上で、必要であるというのであれば、法的根拠を持った通知を新たに出していただくべきだと考えています。
今私たちが望んでいることは、当該の「通知」は何のために、どのような目的で発出されたのか、を忘れたかのような現状をまず、正常化していただきたいということです。問題が表面化してから、「通知」には「取り扱った義肢装具士の氏名記載」となっているので、「委託」の形で義肢装具士に氏名記載を依頼すれば支給できるなどと、「名義借り」を進めるような「提言」までが行政サイドから語られ、「不適切行為」を防止するための「通知」の不適切な記述が、それこそ「新たな不適切行為」を誘導するような事態まで起こっています。
目的の違う「通知」が引き起こした被害の救済を
今問題になっているのは、厚生労働省が、義肢装具士が取り扱っている治療用装具についての「不適切行為」の防止のために、義肢装具士に対して「ある意味、牽制効果」を狙って氏名記載を求めた「通知」で、義肢装具士が取り扱っていない、医師にとっても患者にとってもなくてはならない「靴型装具」が保険対象から外され、被保険者が大変な被害を被っているということです。
私たちの願いは、装具業者の「不適切行為」を防止する目的と、そのために装具業者の領収書に「きちんと誰々の責任でこれはつくったんだということを書いていただく」ことで「牽制効果」を発揮させるという、「通知」の本来の意味が保険者に正確に伝わり、義肢装具士でない技術者が、今回問題とされた防止すべき「不適切行為」を何一つ行うことなく提供している治療用装具に影響が及ぶことを、まず改善してもらい、すでに多くの被害を被っている被保険者を救済していただきたいということです。
福岡県と熊本県の判断がそのようなものですから、後期高齢者医療、国民健康保険、いずれの不服審査請求も棄却されましたので、両県の被保険者さんたちは、「自分だけの問題ではないから」との思いで、訴訟原告の負担を覚悟で、すでに裁判を開始しました。
・久留米国民健康保険・・3件提訴中(第1回公判9月13日福岡地裁)
・熊本県後期高齢者医療広域連合・・提訴中(第2回公判9月8日熊本地裁)
また、協会けんぽに関しては、
・社会保険審査会へ再審査請求中2件(4月請求書提出)
・九州厚生局審査請求中2件が裁決まち(7月口頭意見陳述)
全国的な状況
私たちが現在確認している限りでは、全国的には、全国健康保険協会(協会けんぽ)の被保険者が、また自治体の保険では、東京都と福岡県と熊本県の後期高齢者医療広域連合の被保険者、また、福岡県と熊本県の各市町村国民健康保険の内、両県の指示に従っている自治体国保の被保険者が、このような処遇を受けています。
その他の、例えば、東京都でも後期高齢者医療の対象ではない74歳以下の、同じ都下の各自治体国保の被保険者のように、大方の自治体関係保険や、また、一般の各企業や業界の健康保険組合、公務員共済等の被保険者には、従来通り保険が適用されています。
法に定められている市民の権利を阻害している「通知」の不適切な記述を訂正させるために、賛同をお願いします。
マスメディアの皆様へのお願い
また、マスメディアの皆様方に対しては、報道が切り開き実現したはずの「義肢装具士の関与した不適切行為の防止策」が「義肢装具士が関与していれば適切」との真逆の認識として保険医療現場で現実化している事態に関して、是非とも、事後の調査報道をお願いしたいと思います。