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当会は2024年11月27日、滋賀県知事に宛てて16,118筆の署名とともに、申入書を提出しました。申入書の質問部分について2024年12月27日までに回答を求めていたところ、12月27日に回答がありました。大変遅くなりましたが、この県の回答に対する当会のコメントを公表します。
なお、次の論稿もあわせてご確認ください。
「社会福祉法人グロー前理事長による性暴力事件と「福祉先進県」レガシー」『しがの住民と自治』(2025年1月15日発行)
全体的なコメント
総じて前向きと解釈できる回答がほとんどなく残念でした。滋賀県自身も検証が必要ではないかと問うた複数の項目において、判で押したように「これまでの県の姿勢に至らぬ点や反省すべき点はなかったのか、改めて振り返ることにより今後の教訓」とするとの回答がありました。しかし、その「振り返る」作業を、いつまでに、どのような形で行い、県民に公表されるのかなどわからないので、単なる「精神論」にしか聞こえません。
グローはもちろん、滋賀県についても、提訴後4年間の対応のどこが反省すべき点であったのか、今後類似の事例が起きてしまった場合にどうすればよいのかについて、徹底的に検証する組織を設けて再発防止を行うべきであると考えますが、県の回答からはその意志が全く感じられなかった点が最も残念でした。
また、今後の対策等についても、誰もが安心して働ける環境をつくる実効性のある対策は何かについて真剣に考えているというよりは、どうすれば県の責任を問われず に済むかばかり気にしているようにしか思えず、その点も大変残念でした。
回答①「1.滋賀県の二次加害について」
当会の質問の主旨は、提訴後4年間の滋賀県による傍観と黙認は二次加害にあたるので、そのことを真摯に反省し、原告に謝罪する考えはないのかというものでした。県の回答は、「原告の方の気持ちへの配慮を欠いていた」ことを「重く受け止め」るというものでしたが、二次加害や原告への謝罪についての直接の言及はありませんでした。
回答②③「2-1 指定管理者の選定および社会福祉法人の諸官庁としての責任について」
当会の質問の主旨は、裁判で不法行為が認定されたことを踏まえ、長年にわたりそれを見抜くことができないまま指定管理者に選定し続けて来たこと、提訴で問題が発覚した後にも徹底して説明責任を求めることなく指定管理者に選定したこと等について、指定管理者の選定や社会福祉法人の所管庁としての県の責任を検証すべきではないかというものでした。県の回答は、「様々な制度等に照らし適切に対応してきた」というものでした。その根拠として、「法人が実施してきた内部調査の結果やハラスメント防止対策の内容を公表するよう求めるなど、必要な指導も行ってきた」としていますが、これらの公表は、判決後の2024年10月28日に至るまで行われませんでした。つまり、グローは、県に公表するよう指導されても従わず、記者会見も行わず、一切の説明責任を果たしていなかったわけですが、そのような中でも2023年10月30日のたった一回の選定委員会の審議で、2028年度までの5年間の指定管理者に選定されました。これが果たして適切と言えるのでしょうか?
そもそも、組織のトップによる性暴力・ハラスメントが起きたとされる法人に対し、内部調査だけでよしとすることは極めて非常識です。秘密が守られる形で外部機関を窓口とした退職者を含めたハラスメント実態調査アンケートは最低限必要です。また、北岡前理事長と親しい立場の者が理事・監事・評議員のほぼ全てを占めている状態も4年間全く変わっておらず、県は一体何を指導していたのかと疑わざるを得ません。
回答④「2-2 女性活躍推進企業認証の取消について」
当会の質問の主旨は、提訴後も女性活躍推進企業に認証し続けたことについて、取り消した上で原告に謝罪すべきではないかということでした。県の回答は、「手続きは適正に実施してきた」としつつも、「慎重に判断すべきであった」とし、判決後に「現地確認を行った」結果、取り消したとしています。遅きに失したとはいえ、取り消したことは評価できますが、過去の認証のあやまちを率直に認めるのではなく、わざわざ「現地確認」を行い、「法人が今後対策を行うと公表した実効性ある取組が確認できなかった」として取消の理由としていることは釈然としません。取消理由のすり替えと言わざるを得ません。また、原告への謝罪については回答がされていません。そして、この回答項目には、他の回答項目のように「これまでの県の姿勢に至らぬ点や反省すべき点はなかったのか、改めて振り返ることにより今後の教訓」という判を押したような文言もないことから、反省や振り返りも必要ないという認識なのか、大変疑問です。
回答⑤「2-3 実質的なハラスメント防止対策について」
当会の質問の主旨は、指定管理や女性活躍推進企業認証の基準に、具体的・実質的なハラスメント防止対策を必須項目として入れるべきではないかということでした。県の回答は、指定管理の選定基準については「審査項目に「相談窓口の設置」や「人権研修の実施」を追加するなど、事業主が講ずべき措置などが適切に実施されるよう促し」ていく、女性活躍推進企業認証については「必要に応じて、現地確認を行」うというものでした。当会から例示した、①管理職を含む全職員に対する定期的な研修の実施、②外部の相談・通報窓口の設置・周知、③秘密が守られる環境での定期的な職員・利用者アンケートの実施、④組織トップのハラスメント事案における第三者委員会設置義務は、何れも言及がありませんでした。そもそも「相談窓口の設置」は労働施策総合推進法の措置義務事項であり、これまでそのチェック無しに指定管理者を選定してきたなら、そのこと自体が問題です。また、秘密が守られる外部通報窓口を設置して通報があった場合に「現地確認」をするならともかく、単に行政が「必要に応じて、現地確認を行」うことに何の実効性があるのか、大変疑問です。
回答⑥「3 要望項目④に関連して」
当会の質問の主旨は、指定管理者など、県が多額の予算を支出している相手先の団体・法人に不法行為が疑われる場合に、そのまま予算支出を続けるのか、調査と公表などをした上で判断するのかなど一定のルールが必要ではないか、というものでした。県の回答は、「それらの事案の検証はそれぞれの団体・法人において判断されるべきもの」であり、「県において調査および公表をルール化することは困難」というものでした。
昨今話題になっているフジテレビの問題では、まだ疑惑が提起されただけの段階でも、重大な人権侵害の疑いに対してフジテレビが真摯に対応していないと判断されれば、スポンサーはすぐに撤退をしました。そのまま出資し続けた場合に、人権侵害を容認していると投資家や消費者に思われるリスクを回避するためでしょう。滋賀県の場合はそのような判断はできないということでしょうか。もちろん、指定管理者が担っている公共サービスへの支出を一方的にストップすることはできませんが、だからといって、法人がまともな調査や公表をせず、説明責任も果たさない場合に、それを黙認して支出し続けてよいのでしょうか。これでは、滋賀県人権施策推進計画でも言及されている「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」に反するのではないでしょうか。
回答⑦「4 芸術文化活動に関するグローと県の協働について」
当会の質問の主旨は、グローの芸術文化活動への県の補助金額の推移や県派遣職員の人数を明らかにするよう求めるものでした。県の回答は、毎年1億2千万円前後が補助されており、2023年度までは1名の県職員が派遣されていたというものでした。北岡前理事長による性暴力・ハラスメントの現場であったNO-MAやアイサに対し、提訴後も1億円を超える補助金を支出し、県職員を派遣し続けるにあたり、調査や指導等は全く行わなかったのか、またその上での支出そのものの適正さに何ら問題を感じなかったのか、大変疑問に思います。
回答⑧⑨「5 国際的な人権基準に基づく県政を」
当会の質問の主旨は、ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)やハラスメント禁止条約(ILO190号条約)などの国際的な人権基準に則った県政を行っていく考えはないかというものでした。県の回答は、ビジネスと人権に関する指導原則については一般論を羅列しただけでほとんど何も回答しておらず、ハラスメント禁止条約については、「国への要望について、検討・調整」するとの回答にとどまり、条例制定等へ言及はありませんでした。
今回の回答において、何度も本事案について「重く受け止める」とか「今後の教訓」とするとありますが、この回答では、具体的なことはもちろんその意欲すら見えてこないものと言わざるを得ません。