

皆様、大変ご無沙汰しております。
We Need Accessible Theatre!(ウィー・ニード・アクセシブル・シアター)です。
久しぶりの投稿となりますが、私たちのこれまでの活動、
そしてこれからの劇場の未来に関わる重要なご報告があり、メッセージを発信いたします。
私たち「We Need Accessible Theatre!」は、2023年3月に発足して以来、
「障害の有る人もない人も一緒に楽しめる劇場」を目指して、
帝国劇場の建て替えにおけるアクセシビリティ向上の署名活動および、国への要望活動を続けてまいりました。
皆様と共に声を上げ続けてきた成果もあり、
近年、演劇界のアクセシビリティは確実な前進を見せています。
帝国劇場を運営する東宝株式会社では、2025年1月の記者会見で
「新しい劇場はバリアフリー化に力を入れる」と発表。
2025年2月の帝国劇場ラストコンサート『THE BEST New HISTORY COMING』、
そして10・11月の『エリザベート』東京公演において、
すべての回で字幕・文字通訳を提供するという、画期的な取り組みが実現しました。
他の団体でも、様々な取り組みが広がっています。
先日も、木ノ下歌舞伎『心中天の網島』がアクセシビリティ版として、
舞台投影字幕、手話通訳、音声描写(ガイド)を付け、
全国9カ所で公演を行うという、素晴らしいニュースが発表されたばかりです。
さらに、制度の面でも大きな変化が起きています。
2024年にアーツカウンシル東京による「東京芸術文化鑑賞サポート助成」がスタート。
字幕や手話、音声ガイドなどの環境整備にかかる費用を全額(上限150万円、随時申請可)支援する仕組みが作られ、制作者側への公的な後押しも始まりました。
福岡市でも「FFAC文化芸術鑑賞サポート助成」が始まるなど、
誰もが観劇できる未来は、少しずつ形になり始めています。
しかし、その一方で、大変厳しい現実も突きつけられています。
現在上演中のNODA・MAP第28回公演『華氏マイナス320°』は、
ろう者が出演し、手話が演出の重要な要素として使われている作品です。
それにもかかわらず、東京・北九州・大阪の全63ステージのうち、
字幕が提供されたのは、東京公演のわずか2ステージ(全体の約3%)にとどまっています。
残りの97%の回においては、手話を使用するろう・難聴者が劇場から実質的に排除されているという、
きわめて深刻な現実があります。
観客が舞台上の手話に感動しているその客席のほとんどは、
当事者である、ろう者・難聴者は(字幕がないために)座ることができない構造になっているのです。
この現状に対し、一般社団法人日本ろう芸術協会、
特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク(TA-net)とともに、
3団体連名で公開要望書を発表いたしました。
今回の要望書は、一団体のみに大きな負担を強いるものではなく、
国(文化庁)に対しても、さらなる制度拡充を求めるものです。
障害のある人々が等しく文化を享受できるよう、これまで私たちが国に対して
粘り強く続けてきた要望活動の地続きにあるアクションとなります。
皆様の温かいご関心と、本発信の拡散・ご支援をよろしくお願い申し上げます。
We Need Accessible Theatre!
公開要望書(PDF版)はこちら ※テキストはこの下に記載します
テキスト版:
2026年5月15日
野田秀樹 様
NODA・MAP御中
文化庁長官 伊藤 学司 様
一般社団法人日本ろう芸術協会
特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワーク
We Need Accessible Theatre!
公開要望書
NODA・MAP第28回公演『華氏マイナス320°』における
ろう者・難聴者の文化権の保障、および
日本舞台芸術界全体のアクセシビリティ基準確立を求めて
一 私たちが伝えたいこと
私たちは、NODA・MAP様よりご回答をいただき、一定の取り組みが行われていることを確認しました。誠実にご対応いただいた点については謝意を表します。
しかし、その内容は私たちが求める権利を保障するものではありません。
はっきり申し上げます。
すべての舞台公演において字幕が提供されることは、アクセシビリティの本来の姿です。ろう者・難聴者の観客が、公演のたびに「この回に字幕はあるか」と確認しなければならない現状は、文化芸術振興基本法が謳っている「文化芸術を創造し、享受し、文化的な環境の中で生きる喜びを見出す」ことに反し、平等な文化享受が保障されていないことを示しています。
その上で特に、本作のように舞台上にろう者が出演し、手話という言語が演出として使用されている作品において、情報保障がすべての回に提供されないことは、当事者に対するより決定的な排除となります。舞台上に自らの言語が息づいているにもかかわらず、ろう者・難聴者がその言語を観客として受け取ることができない。その状態での上演は、その回において、当事者を劇場から排除することにほかなりません。
これは感謝すべき「配慮」ではなく、文化芸術を創造し、享受することが人々の生まれながらの「権利」なのです。
二 42回公演のうち2回という現実
NODA・MAP様からの回答では、東京公演において2回(4月29日・5月10日)にポータブル字幕機を提供したとのことでした。
本公演の東京公演は全42回にわたります。2回のみということは、全体の4.7%となります。残り95.3%の公演回において、ろう者・難聴者は劇場に入ることができても舞台の言語を受け取ることができません。それは鑑賞ではありません。
大阪公演(8回)・北九州公演(13回)では「助成金制度がなく断念した」とのことでした。しかし、アクセシビリティ対応は、助成金があれば実施し、なければ省くという任意の付加サービスではありません。改正障害者差別解消法が事業者に義務付ける「合理的配慮」であり、公演を主催する者が主体的に担うべき責務です。財源の問題はその後に解決すべき課題であり、権利そのものを否定する理由にはなりません。
「放送を予定している(日程未定)」という回答についても申し上げます。演劇は、その場の空間と時間、俳優の身体と観客の息遣いが交わる場で成立する芸術です。「いつか放送で観られる」ことは、「今夜、この劇場の客席に座る権利」の代替には決してなりません。台本の貸し出しについても同様です。情報として重要ではありますが、あくまで補助であり、字幕が提供されるべき公演回において台本貸し出しで代替することは認められません。字幕が実施できない特定の回に限り、紙の台本ではなく台本データを取り込んだタブレットの貸し出しを最低限の保障として位置づけます。
三 なぜ野田秀樹氏・NODA・MAP様への問いかけなのか
私たちがこの要望書を野田秀樹氏ならびにNODA・MAP様に宛てる理由は、本公演を批判するためではありません。野田秀樹氏が日本の舞台芸術界において占める位置と、その影響力の大きさゆえです。
野田秀樹氏は、現代日本演劇の最高峰に立つ作家・演出家です。その作品は、チケットが即日完売し、メディアに大きく取り上げられ、演劇界全体の指標となります。
NODA・MAP様が「全公演の5%に字幕機を提供した」ことを「アクセシビリティへの取り組み」として公式に示したとき、それは日本の舞台芸術界全体への無言のメッセージとなります。「これで十分だ」と。
その結果、規模の小さい劇団は言うまでもなく、大手制作会社もまた「NODA・MAPがそうしているのだから」と、同等以下の対応を正当化できてしまいます。トップが作る前例は、業界全体の天井を決めます。
だからこそ、私たちは野田秀樹氏に問います。
日本演劇界を牽引する者として、ろう者・難聴者が「すべての公演回に」等しく参加できる舞台のあり方を、自らの作品で示していただけませんでしょうか。それは、あなたにしかできないことではないでしょうか。
四 私たちが求めること
残りの公演および今後のNODA・MAP様の活動に向け、以下を具体的に求めます。
【残公演(東京・大阪・北九州)について】
・ろう者が出演し手話を演出として使用している本作においては、東京・大阪・北九州全公演回において字幕(ポータブル字幕機または投影字幕)を提供すること
・字幕対応の日程・方法・申込先を公式ウェブサイトに直ちに掲載すること(現時点で今後のアクセシビリティ情報が一切掲載されていません)
・同じ時間・同じ空間を共に味わう手段として、基本として、リアルタイムでの字幕提供を求めます。字幕の提供が技術的・費用的に困難な回においては、ろう者・難聴者からの申し出を待つことなく、事前に台本の貸し出し(タブレット)を全員に保障すること(しかしながらこれはあくまでもリアルタイム字幕フル実装に向けた、暫定措置としての運用と位置付ける)また貸し出し方法・申込先を公式サイトに明示すること
【今後のNODA・MAPの全公演について】
・ 全公演回での字幕提供を必須とし、企画段階からアクセシビリティ予算を組み込むこと。また字幕提供が困難な回には台本の事前貸し出しおよびデータを入れたタブレット端末貸し出しを最低限の保障として行うこと
・ アクセシビリティ方針を公式ウェブサイトに明文化し、毎公演の対応状況を事前に告知すること
しかし、この問題はNODA・MAP様だけで解決できるものではありません。アクセシビリティ対応の費用を個々の制作会社が単独で負担し続ける構造のままでは、善意ある制作者でも対応に限界があります。舞台芸術へのアクセスを権利として制度化することは、国と文化庁の責務です。私たちは以下を求めます。
五 文化庁・国への申し入れ
・ アクセシビリティ対応に関する費用助成に特化し、随時申請可能な公的制度を創設してください。
・ 公的助成を受ける舞台公演において、アクセシビリティ対応を採択要件・完了報告事項として義務付ける制度を整備してください。
・ 障害者差別解消法の「合理的配慮」を舞台芸術分野で実効化するための具体的ガイドラインを策定・周知してください。
六 この問いの核心
『華氏マイナス320°』は、ある人々が社会の中で「存在を認められること」をめぐる問いを、正面から描いた作品です。その問いを受け取るべき当事者が、上演の場から実質的に排除されている、私たちにはそう見えます。
作品が問いかける言葉は、劇場の客席に座った者にしか届きません。私たちはその問いを、あなたたちと同じ空間で、同じ時間に、受け取りたいのです。
私たちはこの作品を観たいのです。劇場で。すべての公演で。他の観客と同じ条件で。
文化を享受する権利は、すべての人に等しく存在します。その権利を保障することは、制作者の善意や予算の余裕に委ねられるべきことではなく、日本の舞台芸術界が構造として引き受けるべき責任です。
野田秀樹氏、その責任をともに担ってください。
以上
【お問い合わせ先】
一般社団法人日本ろう芸術協会
メール : office@tdf.tokyo
以下署名です。
連絡先:wnatgroup@gmail.com
Facebook: https://www.facebook.com/wnatgroup
X(旧Twitter):https://twitter.com/55_theatre
ハッシュタグ:#劇場をアクセシブルに