【オフトーク(Off-talk)・その7】 「国立大学法人化」と「がん医療均てん化」〜ふたつの政策のねじれ?🧐


本署名活動をご支援いただいている皆様へ
貴重な日曜日ですのに、朝早くから失礼いたします。
私がもうひとつの署名活動(署名サイトURL: https://c.org/BYfSxz9bvN) で問題にしている「卒後臨床研修制度」が始まった2004年。実はこの年、わが国の大学にも、もうひとつの大きな制度改革が行われました。
「国立大学法人化」です。
大学病院にとって2004年は、若手医師の流出と経営改善圧力という「ダブルパンチ」が始まった年でもありました。
国立大学法人化とは、それまで国が直接運営していた国立大学を、大学ごとの法人が経営する仕組みに変えた改革です。大学の自由度を高める一方、経営の効率化や自己収入の確保も強く求められるようになりました。特に大学病院は、高度医療や教育・研究を担いながら、病院建設や医療機器整備などに伴う約1兆円もの借入金を抱えていました。法人化後は、その返済もしながら、自ら診療収入を増やし、経営を改善することが求められたのです。
さて、ここからが今日の本題です。国は大学病院に、どの程度の「経営改善」を求めたのでしょうか? 法人化当初、国立大学病院には「経営改善係数」という仕組みが導入されました。第1期中期目標期間では、毎年、2004年度の病院収入の2%相当額を増収することを前提に、その分を差し引く形で、国から各大学に配分される運営費交付金が計算されたのです。
「たった2%?」と思われるかもしれません。しかし、この仕組みは毎年続きます。実際、国立大学病院の診療に対応する国からの運営費交付金は、
2004年度 584億円
↓
2012年度 63億円
まで減少しました。約9割の減少です。
一方、国立大学附属病院の収益は、
2004年度 6,245億円
↓
2012年度 9,314億円
へ増えました。8年間で、約49%の増加です。
これは、大学病院の先生方が突然「もっと儲けよう!」と考え始めたからなのでしょうか? もちろん、そんな理由ではありません。国からの財政支援は縮小する。しかし、借金を返しながら、高度医療を続け、職員に給与を払い、設備も更新しなければならない。
そうなれば、
患者さんを診る。
手術をする。
病床を効率よく使う。
在院日数を短くする。
そして、診療収入を増やす。
病院がそう動くのは、ある意味当然です。
もちろん、「病院経営を効率化すること」そのものが悪いわけではありません。ただし、大学病院は普通の病院とは少し違います。
「患者さんを診る」だけでなく、
「次の世代の医師を育てる」
「新しい治療法を研究する」
「一般病院では治療が難しい患者さんを受け入れる」
という、日本の医療を未来へつなぐ役割があります。
では、診療量を増やし続ければ、教育や研究に使える時間はどうなるのでしょう? 気になる数字があります。医学・歯学などを含む「保健分野」の大学教員が、仕事時間のうち研究に使っていた割合は、
2002年 46.0%
↓
2013年 31.9%
へ低下しました。2000年代には、日本の臨床医学論文の国際的な存在感も低下し、国立大学でも臨床医学論文数の減少が報告されています。
ここで、私がずっと気になっていることがあります。
「がん治療医」は、いったいどこで育つのでしょうか?
血液内科医、腫瘍内科医、放射線治療医、がん外科医――。こうした医師は、医学部を卒業した瞬間に専門医になるわけではありません。難しい患者さんを診療し、先輩から教わり、症例を検討し、論文を読み、研究し、ときには自分自身で新しい治療法を考える。その大切な舞台のひとつを、長い間、大学病院が担ってきました。
ところが2004年、大学病院には二つの大きな変化が同時に起こります。ひとつは「卒後臨床研修制度」。研修医が市中病院も自由に研修先として選べるようになり、多くの若手医師が大学病院を離れました。
もうひとつが「国立大学法人化」。残された大学病院には、経営改善と診療収入の増加が求められました。
つまり、「若い医師が減る」一方で「もっと患者さんを診て、病院収入を増やす」ことを求められたのです。
ここは大切なので、あえて申し上げます。私は「国立大学法人化が、現在のがん治療医不足の原因だ」と強く主張しているわけではありません。医師不足には、地域偏在、診療科選択、専門医制度、働き方改革、医療の高度化など、さまざまな要因があります。
しかし――。
2004年という同じ年に、
「大学病院から若手医師が離れる仕組み」と、
「大学病院に診療収入の増加を求める仕組み」
が同時に始まった。
その後、大学病院の診療収入は大きく増え、医学系教員の研究時間は減少し続けているのです。ならば、「高度ながん医療を担う次世代の医師を育てる力に、本当に何の影響もなかったのだろうか?」と問いかけることは、決して不自然ではないと思うのです。
そして、もうひとつ興味深いことがあります。国は2007年度から「がんプロフェッショナル養成プラン」を開始しました。大学を中心に、がん医療を担う専門家を育成する事業です。つまり、一方では大学病院に経営改善を求めながら、もう一方では、「がんの専門家が足りない。大学で育てよう」という政策を始めたのです。
これは果たして、政策として「ねじれ」てはいなかったのでしょうか?
大学病院に、
「もっと診療してください」
「経営も改善してください」
「借金も返してください」
と求めながら、同じ大学病院に、
「研究してください」
「学生を教育してください」
「若い医師を一流のがん専門医に育ててください」
と求める。どれひとつとっても大切な仕事です。
しかし、それを実現するための「人」と「時間」は、いったいどこから生まれてくるのでしょう?(一人の医療従事者に与えられた一日の時間は等しく24時間です😮💨)。この問いは、20年以上たった今も、十分には答えられていないように私には思えます。
そして現在、私たちが目の前にしている「地方からがん治療医がいなくなる」という問題も、突然始まったものではなく、20年以上前から続く複数の制度改革の積み重ねの先に現れているのかもしれません。
だからこそ私は、誰かを責めるためではなく、「私たちは、どこで道を間違えたのか?」を、一つひとつ資料をたどりながら、皆様と深く考えていきたいと思っています。
未来の患者さんが、「あなたの病気を診られる専門医が、この地域にはいません」と言われる日本にしないために、誰かが行わなければならない作業と信じております。
ぜひ、皆様のお考えもお寄せいただけましたら、大変嬉しく存じます。
署名サイトURL: https://c.org/wNtJ4MWsWD
一戸辰夫(「若手がん治療医・血液内科医を支援する会」代表)[連絡先:tatsuo.ichinohe@icloud.com いつでも皆様からの建設的ご批判・ご意見をお待ちしています](なお、このオフ・トークの内容はあくまで一戸個人の見解であり、本署名活動のサポーター方々や後援団体の立場を表明するものではありません。)