チェンジメーカーストーリー

もし119番が使えないとしたら。オンライン署名で「電話のバリア」をなくす方法

May 15, 2019

北アルプスの奥穂高岳で、昨年の秋に1名の犠牲者を出す遭難事故がありました。

助けを求めていたのは聴覚障害者のグループ。手話や文字をオペレーターが通訳する「電話リレーサービス」を使えたおかげで残りのメンバーは救出されましたが、もしサービスが使えなければ、全員が犠牲になっていたかもしれないそうです。

 聞こえる人であれば当たり前に使える電話ですが、実は聴覚障害のある人たちにとって電話は「使えない」「そもそも馴染みがない」ツールです。コミュニケーション上のバリアは緊急時には命に関わることもあります。このバリアをなくすために奮闘するNPOインフォメーションギャップバスター理事長の伊藤 芳浩さんにお話を伺いました。

ー 伊藤さんが取り組んでいるオンライン署名について教えてください

私たちの署名は、手話や文字をオペレーターが通訳する「電話リレーサービス」を24時間365日対応の公的サービスにしてほしいと求めるものです。リアルタイムで緊急の情報を伝えられる電話を使えないということは大変不便です。

海や山での遭難事故もそうですし、自宅で家族が倒れたのに119番通報できずに愛する人が亡くなってしまった、電話が使えたら助けることができたのに、ということが聴覚障害者ではめずらしくありません。電話ができないという理由だけで、すごく優秀な方が定年まで嘱託職員として働いているもったいない例もあります。このような社会の側のコミュニケーション上のバリアを無くして、誰もが気楽にコミュニケーションができる社会にしたい、というのが私たちの願いです。

ー 聞こえる人は、そもそも「電話が使えなかったら」なんて考える機会もなかったりしますね

私自身が生まれつきのろう者で、聞こえないために様々な苦労をしてきました。幼い頃には言語獲得のためにトレーニングを繰り返し、小学校ではいじめも経験しています。周りと同じようにコミュニケーションが取れないので「なんでさっき言ったことを守ってくれないの?」なんて当時は同級生に言われていました。コミュニケーション上のバリアで一番大きいのは孤独感です。ガラスの板の向こう側ではみんながわいわい会話しているのに、こちらでは内容に伝わってこないようなイメージというか・・・。でも、大人になって就職した会社には手話通訳があって、活躍の機会を与えられる経験をしました。コミュニケーションのバリアは個人の問題だけではなく、社会の問題でもあるんです。

ー 署名をたちあげた反響はいかがでしたか?

2014年に署名をたちあげて、2017年にオンラインと紙をあわせて8096名の名簿を総務大臣政務官に手渡しました。Change.orgを使ってよかったのは、小さな団体でも社会問題への意識が高い人たちに広く知ってもらえる発信ができたことです。「きょうだいの代理で電話をしていた負担が軽くなるのでとてもいい」など、当事者家族からのコメントもありました。2017年以降、海や山での聴覚障害者の遭難事故が報道されることが相次いだことから総務省でもワーキングチームが結成され、電話リレーサービスについて今年度中になんらかの方針が発表される見込みです。

このような動きにあわせて、聴覚障害者たちに電話リレーサービスを知ってもらう普及活動も進めているところです。生まれつき聴こえない人たちは、そもそも電話を使うことに慣れておらずピンときていない人たちも多くいます。アメリカでは当たり前に使えるサービスでも日本での知名度は低いため、地域のろうあ協会や手話サークルなどに出向いて講演をしています。


電話リレーサービスについて語る伊藤さん

ー 今後の総務省の動きに注目が必要ですね!最後に、このインタビューを読んでいる方へひとことメッセージをお願いします。

コミュニケーションバリアがなくなれば、聴覚障害者は能力をフルに発揮することができます。職場で様々な配慮をしていただき、いろんなことを経験してもらえた自分だからこそ、次の世代も同じように生き生きと仕事ができる環境を作りたいと思ってNPOを立ち上げました。聴覚障害だけでなく、視覚障害をもつ学生の学習支援のために3Dプリンターを活用したらどうかとか、発達障害のある人のプレゼンテーションをどう向上していくか・・・といった幅広い視点で今は活動をしています。社会の中で変えたいなと思うこと、不便だなと思うことがありながら、気づかない人や声をあげられない人がたくさんいると思いますが、壁にぶち当たったとき、その壁を壊した後にはより良い社会がきます。まずは小さいことから初めてみませんか?

ー 伊藤さん、ありがとうございました!