IAEAは、除去土壌の再生利用等に関する「最終報告書」を発表しました。中間貯蔵施設の放射能汚染土を全国の公共事業で再利用しようという環境省の施策を全面的に後押しする内容です。
原子炉等規制法では100 Bq/kg以下の廃棄物でなければ再利用できないことになっているにもかかわらず、環境省は国会での論議も経ずに8000 Bq/kg以下の土壌を再利用するとしています。
汚染土の取扱いについても、内部被ばくを考慮していない等、非常に杜撰な方法で行われようとしています。
IAEAの安全基準から見てもたいへん問題の多い汚染土再利用に対していわゆる「お墨付き」を与えたIAEAと、それに依拠する環境省に対して私たち「放射能拡散に反対する会」は強く抗議し、下記の声明文を発表します。
ぜひみなさまにもこの抗議声明にご賛同いただき、共に汚染土再利用を止める力となっていただきたくお願い申し上げます。団体でも個人でも可能です。
11月10日(日)までに、下記担当までご連絡ください。お待ちしております。
【放射能拡散に反対する会】 levelzero@earth.email.ne.jp 伏屋
【声明】
除染作業で生じた放射能汚染土を拡散しようとする 環境省とIAEAに抗議します
9月10日、IAEA(国際原子力機関)が、「除去土壌の再生利用等に関するIAEA専門家会合 最終報告書」を発表しました。そもそもIAEAは原子力推進のための機関でありIAEAが住民の被ばく低減や環境汚染防止のための、まともな報告を出すとは考えられません。それを承知で国際機関の権威を利用し、あやまった政策を進める環境省と、それに応えたIAEAに対して私たちは強く抗議します。
日本政府は除染で延べ3160万人(2018年3月 環境省資料)もの作業員らを被ばくさせながら、福島第一原発周辺の中間貯蔵施設に汚染土を集めました。「除去土壌の再生利用」と称して、またなぜわざわざ全国各地にバラまいて、さらに作業員や住民の被ばくを増やすようなことをしなければならないのでしょうか。
「最終報告書」でIAEAは、環境省の意向をそのまま「IAEAの安全基準・・・に合致している」(英文21頁)としています。日本のみならず世界中で、放射性廃棄物を処理する基準を一挙に緩めようとする環境省とIAEAの企みを看過することはできません。
年間1 mSv基準は、化学物質の規制基準より何百倍も緩い
IAEAは汚染土が8000 Bq/kg以下なら作業員が被ばくしても年間1 mSv以下であるから問題ないとする環境省のあやふやな計算と主張を認めています。
基準にしている年間1 mSv(英文5頁,42-43頁)の被ばくも生涯(70年)続ければ70 mSvになり、ICRP報告に基づく控えめな計算でも10万人あたり350人のがん死になります。しきい値のない化学物質の環境基準が発がんで10万人に1人であることに比べ何百倍も多くなります。原子力業界では命はかくも軽んじられているのです。
放射性廃棄物としての規制を受けないクリアランス・レベル(100 Bq/kg)は被ばく線量年間0.01 mSvに対応しています。8000 Bq/kg以下の汚染土を再利用しようとする環境省の計画は100 Bq/kgのクリアランス基準を実質的に80倍にも緩めてしまうものです。IAEAは今回の日本の取組を世界中に広めようとしています。
土壌粉じん吸入による内部被ばくリスクを無視
IAEA最終報告書は内部被ばくリスクにまったく触れていません。汚染土の再利用において問題になるのは、その膨大な量の土壌の掘り起こし、運搬、再利用先で施工時の土壌粉じん吸入による内部被ばくリスクです。特に問題になるのは肺の奥に沈着する微小粉じんです。土壌粉じんの微小粒子は非水溶性であり、肺胞内に沈着すると数十年の長期にわたり放射線を発し続け、肺がんなどの発生リスクが高まります。さらに近年、セシウムボールと呼ばれる超高濃度にセシウムを含む非水溶性の微小粒子が関東圏にも到達する広い範囲に相当数降り注いだことが報告されています。これも土壌粉じんとして再浮遊、吸入される可能性があります。微小粉じんは空気中で浮遊し続け、数キロメートルも広がります。作業員だけでなく、妊婦、乳幼児、子どもを含む周辺住民にもこの粉じんの吸入リスクがあります。最新の科学的発見を含むこうした事実を無視しているのは、「再生利用」ありきで都合の良い結論を導きだそうとする似非科学的態度であり、許されません。
被ばくリスクを受忍せよという、とんでもない「正当化」論理
ICRPは放射線防護の三原則のひとつに「正当化」原則を掲げています。「放射線を使う行為は、もたらされる便益(ベネフィット、メリット)が放射線のリスクを上回る場合のみ認められる」というものです。日本政府は「正当化」の便益として「福島の復興に役立つ」「福島県との約束で30年以内には県外処分が必要」「そのためには減容化が必要」と言っていますが、それらのことと汚染土再利用は何の関係もありません。汚染土をもって来られた地域にとっては汚染の追加であり、何の便益もありません。これに対しIAEAは安全基準(SF-1、原則4)と一致しているとしており(英文21頁)、ベネフィットとリスクを比較する「正当化」の方法論からも完全に逸脱しています。
政府に都合良く進めるために、被ばくを受忍すべきだという、恐ろしい原則逸脱の論理です。
「最適化」の原則も守られていない
IAEAの安全原則(SF-1)の「原則5:防護の最適化」は、「放射線リスクを生じる施設と活動に適用される安全手段は、施設の利用または活動を過度に制限することなく、その存続期間全体を通して合理的に達成できる最高レベルの安全を提供するとき、最適化されていると考えられる」としています。
「最高レベルの安全を提供」するならば、当然「再生利用」以外の選択肢も検討すべきです。ところがIAEA最終報告書には、他の選択肢の検討はまったく触れられていません。はじめに再利用・最終処分ありきなのです。
全国各地の住民に「苦渋の決断」を迫る
最終報告書には飯舘村長泥地区における「再生利用」の実証事業がモデルとして登場します。これは、除染と引き換えに住民に汚染土の受け入れを迫り「苦渋の決断」を強いた結果です。
環境省は「再生利用」を押し通そうと、国会での議論を避け、公聴会の開催など国民との熟議もなしに閣議決定のみで決められる、省令・ガイドライン作りに突き進んでいます。IAEAもそれを認め、奨励しています。環境省が全国各地で放射能持ち込みに懸念や反対する住民の声を聴かず、首長に対して財政支援、道路建設などのアメをぶらさげて「苦渋の決断」を迫ることは明らかです。
これがIAEAの重視する住民(ステークホルダー:利害関係者)との協議なのでしょうか。
狙いは汚染廃棄物規制の大幅緩和で原発推進
IAEAは最終報告書要旨の最後で「除去土壌の再生利用に関する先進的な取組から得られた知見は、他国が参考にできる有益なケーススタディである。IAEAとの協力も含め、国際的なフォーラム、出版物、メディアを通じた国際社会への普及が奨励される」として環境省の汚染土再利用を高く評価し世界中に展開する意図を顕わにしています。
環境省とIAEAの汚染土再利用の真の狙いは、今後世界で起こりうる過酷事故の後始末や増加する廃炉処理に際し、汚染廃棄物規制の大幅緩和による被ばく防止対策の負担軽減にあることは明らかです。原発推進のため、生命と環境を犠牲にする環境省と、それを後押しするIAEAに対して汚染土を拡散しようとする計画の撤回を求めます。
2024年10月30日
放射能拡散に反対する会