1型糖尿病障害年金支給停止等違法 1型糖尿病障害年金支給停止等違法 大阪 判決の趣旨を無視した再度の 支給 停止 処分 等に対し抗議します!

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弁護士 中井 真雄
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1 はじめに

 1型糖尿病の患者である原告9名が障害基礎年金の支給再開を求めていた訴訟につき,大阪地方裁判所第2民事部は,去る平成31年4月11日,原告らの障害基礎年金の支給停止処分及び支給停止解除申請を認めない処分(以下「支給停止処分等」という。)を違法であるとして取り消すという,画期的な原告勝訴判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。しかし,本年4月25日,厚生労働省は,国は本判決に控訴せず,原告らに対し,再度,詳しい理由を示して障害基礎年金の支給停止する処分及び支給停止を解除しない処分を5月中旬までに行う方針であると弁護団に通告してきた。かかる国の方針は原告の早期救済を期した本判決を正面からふみにじる不当かつ背信的なものであり,原告・弁護団は,これに強く抗議する。

国ないし厚生労働大臣は,この方針を撤回し,原告らに対し速やかに年金の支給を再開するべきである。

 

2 本判決の意義~理由の書き方ではなく,そもそも理由を示せないようないい加減な支給停止が問題!

本判決の言葉を引用すれば,受給権者にとって障害基礎年金が生活設計の礎であり,支給停止処分は原告ら受給権者の「生活の安定を損なわせる重大な不利益処分」である。このため,支給停止処分等をする場合は,処分によって被る不利益の重大性に見合った十分な理由を提示すべきであったにもかかわらず,国は,「結論のみを示したものと評されてもやむを得ないほど簡素」な通知書でもって原告らに対し障害基礎年金の支給を停止したとし,このような処分は違法であると認定した。

 本裁判の中で,年金事務所が処分理由の問合せに回答する際の資料となるという障害状態認定調書には結論の記載があるのみで,原告らの障害基礎年金2級を支給停止とする理由についての記載は,ほぼ白紙に近い状態だったことが明らかとなった。また,国は,原告らについて従前2級と認定判断してきたこととの整合性について一切説明しようとしなかった。

このため,裁判所は,国に対し,「従前は障害等級2級に該当すると認定されていたものが,どのような差異によって今回は2級に該当しないと判断したのか」,また,「原告らについて従前から障害等級2級に該当しない者であったというのであれば,その旨を明らかにされたい」として,支給停止処分等の実質的な理由を説明・開示するよう再三求めてきた。それにもかかわらず,国は最後まで具体的な釈明を一切行うことができなかった。

裁判所は,このような国の対応を踏まえ,国がまともに理由を示すことさえできないのに恣意的に不合理な支給停止処分等をしたと判断し,審理に時間を要する障害等級2級該当性の審理に及ぶことなく,あえて理由不備の違法のみを分離して取り上げることで,早期判決ひいては原告らの迅速な権利救済を可能としたのである。このことは,判決文を一読すれば分かることである。しかし,国は,このような裁判所の意図を一顧だにせず,問題を単に「理由を書くか,書かないか」という手続違反に矮小化し,本件裁判でまったく明らかにすることのできなかった理由を後付けすることで,再度,支給打ち切り,あるいは支給再開を認めない処分をしようとしている。これにより,原告らは支給停止とされた状態がさらに継続し,また,この処分を不服として再度の審査請求や新たな取消訴訟を提訴せざるをえず,かえって審理の長期化を招くものであり,本判決を逆手にとって,原告らに二重,三重の過酷な負担を強いるものと断じざるをえない。さらに,いくら行政手続法違反で処分が取り消されても,手続に沿って再度処分ができるとなれば,司法の違法判断は手続を振り出しに戻すだけのものとなり,住民の救済には一向に繋がらず,行政行為の適正化にも繋がらず,かえって紛争の長期化をもたらすだけとなり,同法の存在意義さえ否定する対応である。

 

3 国の対応は,背信的であること

 大阪地方裁判所は,行政事件訴訟法第37条の3第6項の定めに基づき,原告1名につき,義務付けの訴えについて口頭弁論を分離し,取消訴訟についてのみ判決をしたものである。同項は,裁判所が,「審理の状況その他の事情を考慮して,取消訴訟のみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認めるとき」に上記の措置を執り,取消訴訟のみについて判決することができると定めている。

裁判所は,上記措置を執るに際し,平成30年9月12日の口頭弁論期日において,上記措置を執る考えを示した上で原被告双方に意見を求め,原被告とも異議がないと答えた。被告国が上記措置に異議がないと認めたことは,裁判所が「取消訴訟のみ終局判決をすることがより迅速な争訟の解決に資すると認める」ことに異議がないと認めるものであり,この応答を踏まえて,本判決は,厚生労働大臣において,原告1名に対する支給停止の解除の適否自体について再度検討することも考えられると認定して,上記措置を執ったことを明らかにしている。

国ないし厚生労働大臣において,本判決は理由記載の不備を理由に原処分を取り消したことを捉えて,同一理由による再処分を行う可能性があることを明らかにしていれば,裁判所は,上記措置を執らず,原告らの2級該当性判断についても審理を進めて判断をしたことは確実である。

国ないし厚生労働大臣は,上記対応によって,裁判所の訴訟進行についての判断及び上記認定を誤らせ,ひいては,原告らの2級該当性に関する審理を少なくとも10ヶ月にわたって遅延させたものであって,極めて背信的と言わざるを得ない。

 

4 1型糖尿病の特性から,支給停止はあり得ないこと

 そもそも1型糖尿病は,膵臓のβ細胞による体内でのインスリン産生がなくなることによって,様々な症状を生じる疾患であり,現時点では治療方法が存在せず,症状の改善が見込めない。障害基礎年金の支給停止の根拠法規である国民年金法36条2項は,「障害等級に該当する程度の障害の状態に該当しなくなったとき」に支給停止をすることができると定めている。しかし,従前,継続して2級に該当すると認定されてきた原告らの障害の状態が2級よりも軽くなるはずがない。国が再度,支給停止あるいは支給再開を認めない処分をすることは,障害を有する者の生活の安定が損なわれることを防止することを目的とする障害基礎年金の趣旨に反するばかりでなく,原告らの生活設計を崩すことによって,原告らの生存権を侵害するものであり,従前の侵害状態を更に継続させ,人権侵害を重ねるものであって到底許されない。

 

5 昨年の厚生労働大臣の答弁との矛盾

原告らが支給停止処分等を受けた平成28年の翌年,平成29年には,障害基礎年金更新対象者3943名以上が支給停止処分を受け,又は支給停止の予告を受けた。しかし,その後,厚生労働大臣が国会で「障害状態の変化がなければ支給を継続する」旨答弁し,年金支給が再開された。このような取扱は前年に支給停止となった原告らにも当然適用されるべきものであり,行政取扱いにおける公平性,合理性及び恣意の抑制の観点からも国は原告らに対し速やかに障害基礎年金の支給を再開すべきである。

 

6 結論

 原告ら及び弁護団は,国に対し,本判決の趣旨に従い,再度の支給停止または支給停止解除申請を認めない処分をするとの方針を直ちに撤回し,速やかに原告らに対し障害基礎年金の支給を再開するよう強く求める。

                                  以 上