チェンジメーカーストーリー

「断れば自分の動画が流出するかも・・」性暴力にまつわる日本の状況を、私たちは変えられる

Sep 18, 2018

Change.orgでキャンペーンを立ち上げ、社会を変えようとしている人にお話を伺うシリーズ。今回は、性暴力のない社会を目指して活動する中野宏美さんにインタビューしてみました。

中野さんが始めたキャンペーンは、ある「ひどい裁判」に関するものでした。

 

性暴力のない社会を目指して活動しているNPO法人しあわせなみだ代表の中野宏美さん

盗撮ビデオで脅される。さすがにこれはないだろう

ー 中野さんの今回のキャンペーンについて教えてください。

宮崎県で2015年、性犯罪事件の被疑者側弁護士が「犯行の様子を盗撮したビデオ原本の処分と引き換えに裁判を取り下げる」ことを被害者側に求めるという事件が起こりました。示談しなければこの盗撮動画がどうなるかはわからないと……。これ、市民の立場で考えれば脅し以外の何者でもないですよね?このビデオはプライベートの空間で撮影されており、罪に問えないため、警察も被疑者側からビデオを取り上げることができませんでした。もともと性犯罪裁判については「被害者側に対し、事件に関係のない過去の性行為について尋ねる」など、被疑者側の弁護について多くの問題があると考えていましたが、さすがにこれはないだろうと思い「被疑者側弁護士の懲戒処分」「相談窓口の設置」「弁護士への研修の徹底」を求めるキャンペーンを立ち上げました。

ー キャンペーンを立ち上げてみて、どうでしたか?

まず1週間で1万人を超える方から賛同が集まったことに驚きましたね。多くの人がこのニュースに驚き 「これはみんなが求めている弁護の方法ではない」と受け止めてくれたことに力づけられました。女性以外からの賛同も多かったですね。「これは許せない!」と。多くの人たちの「私たちは社会をもっとよくしたい」という思いをChange.org のキャンペーンを通じて一つにすることができたのが、結果として裁判所にも届いたんじゃないかと思います。

ー 今年に入って、画期的な判断が下されました。

最高裁がビデオ原本の没収を可能とする判断を下す」という、まったく予想していなかった結果が出ました。 容疑者はビデオを手放すことを頑なに拒み、法律の不備により警察もそれに手出しできない状態が続いていたのですが、裁判所が「事件の証拠として認め、没収する」という画期的な決定を下したのです。「こうきたか!」と思いましたね。私たちは被害者の状況を踏まえた弁護のあり方を問いましたが、それが「ビデオ原本の没収」という、思ってもみない形で実現しました。裁判官や検察官など゙ この事件に携わった皆さんの頑張りがあってこの判断が下されたのだと考えています。本キャンペーンが、何か少しでも判断を後押ししたのであれば、本当に嬉しいです。一緒に「おかしい」と声をあげてくださった皆さんの成果ですね。

当たり前のことを当たり前に

ー 中野さんは性暴力のない社会を目指して活動をされています。性暴力を取り巻く日本の現状をどう見ていますか?

この裁判もそうですが「プライベートの空間で撮影された性的動画や写真は、刑法上の罪に問えないことがある」など、時代やニーズに法制度が追いついていないと感じることは多くあります。性暴力被害者に対する執拗な攻撃も、本当に悲しく思っています。被害を訴えると「名前と顔を出せ」と言われ、いざ名前と顔を出して訴えたらバッシングされる。性犯罪について声をあげたジャーナリストや、ブロガーへの中傷もひどいですよね。他の犯罪、たとえば強盗事件であれば、被害者に対し「名前と顔を出せ」とか「どんな服を着ていたか」なんて問われません。性暴力だけ特別扱いされる社会で、市民が一体となった「性暴力をなくそう」という議論には、なかなか進まないことを感じています。

ー そんな中で中野さんが活動を続けておられるエネルギーは、どこから湧いてくるのでしょうか。

当たり前のことを当たり前にしたいだけなんですよ。性暴力が許容され、被害者がバッシングされる社会は当たり前ではない。だからそのためにできることを進めたいと思っています。
性暴力のない社会を目指す「しあわせなみだ」がNPO法人化して今年で7年になりますが、今後は障がいを持つ方が性犯罪被害者として法律に位置付けられるよう、キャンペーンを展開していきたいと思っています。体の自由が効かなかったり、独特のコミュニケーションを持つ障害につけこんだ性暴力は珍しくなく、海外では、障がいがあることが性暴力のハイリスク層であることが調査等で明らかにされています。しかし、今の日本では障害を考慮した刑法になっておらず、障害者が不利な扱いを受けることが少なくありません。2年後に見直しが検討されている刑法性犯罪改正にあわせて、この問題に注目してくれる人が増えることを願ってます。

ー 中野さん、ありがとうございました。

いかがだったでしょうか。今回のインタビューを通して、改めて感じたのは性暴力をめぐる制度の不十分さでした。最高裁が判断を下すまで性暴力の加害者が盗撮ビデオを保持し続けた事実にはズシンと重たいものがあります。こんな状況だからこそ、多くの人々が声をあげ「変えよう」と意思表示をすることの大切さを改めて感じました。

中野宏美さんの団体NPO法人「しあわせなみだ」のHPはこちらから